―― クリムゾントワイライト 日本支部 ブリーフィングルーム
「ちょいとレグサ、アンタ先走ったんだって?」
「ああ? ちげえよ、たまたま出歩いてたらターゲットに出くわしただけだっての」
「アンタのその格好で出歩くだけで目立つんだからアホなことしてんじゃないよ。こっちの世界は獣人族はいないんだよ」
「わかってるっての。人に姿を見られるようなヘマはしねえよ。そもそもクゼーロには現地人とは接触するなって言われてるしな」
「ったく。で、少しは様子は見られたの? そのまま帰って来たってことは一人じゃちょっと手が出せない感じかい?」
「ムカつくやつだけど実力はあるっぽかったな。『魔人衆』に迫るってのは嘘じゃねえみたいだ」
「へえ……、そこで退くあたりアンタも成長したね」
「うるせえよ。それと他にも結構やれるやつがいたぜ。倒そうとしたら邪魔されちまったけど」
「例の勇者以外にってこと? ふうん、こっちも結構面白いんだ」
「みたいだな。ところで後の2人はいつ来るんだ?」
「そろそろ来るはずだけどね。ただ揃ってもすぐには出るなってクゼーロさんには言われたよ。なんかアタシたちがやりあってる間に別の作戦を実行するみたいだね」
「んだよ、つまんねえな。久しぶりに面白そうな相手なんだ、あんまり待たせねえでもらいたいんだけどな」
「この間の国王直属の諜報員さんは肩透かしだったからねえ。こっちの世界の勇者の末裔なら多少は楽しめそうだよ」
「勇者もどきだろ。ホントの勇者関係者なら俺たちの世界に来て、自分の先祖が救った世界がどうなってるか見てもらいたいもんだぜ」
「あら、レグサにしちゃ面白いこと言うじゃないか。まあアタシたちも人のことを言えるような人間じゃないけどね」
「ロウナ、お前と一緒にすんなよ。俺は別に相手をなぶるのが楽しいわけじゃねえからな」
「そういうところがまだまだガキだねえ。ところでその勇者もどきは体格はいいのかい? なぶりがいがあると嬉しいんだけどねえ……」
―― 『権之内総合重機』 社長室
「……次回の受け渡しはそれで結構だ。前回の感じだと九神仁真は間違いなく嗅ぎつけているだろう。総力を挙げて現場を押さえにくるのは間違いない」
「……ああ、それならさすがに宇佐家と『白狐』が揃っていても問題なさそうだな。だが奴が出てくる可能性もあるだろう? あれが出てきたらすべてがご破算になりかねんが」
「……ほう、色々な手駒がいるものだな。陽動作戦というわけか」
「……ああ、前回も奴に邪魔されたようだが、そっちで引き付けてくれるならこっちもやりやすい」
「……そうだ、九神藤真をなだめるには表向きは事故にしておかないとな」
「……ああ、真正の秩序のために。ではな」
「……真正の秩序か。もとよりそのようなものに興味はないが、九神にだけは代償は払わせねばな。……碧、あと少しでお前の元に妹分を送ってやる。しっかりと叱りつけてやれ……」