―― 九神家 リビング
「今のが権之内の目的と本音だ。これで目が覚めないのならお前は本当の愚か者ということになる。分かっているな藤真」
「……こんな映像まで用意して、どうしてそこまで俺の邪魔をしたいんだ親父」
「まだそんなことを言うか。今の映像が作り物でないことは見れば分かるだろう。そもそも昨日から権之内とは連絡もつくまい? 生産した『雫』はどこに行った? お前はそれを知っているのか?」
「それは……っ、そうだが……」
「ずっと言っていたことだぞ、お前はあまりに自身の功を求め過ぎる。それは九神家の当主にはあってはならない性質なのだ。自身を殺し、天に仕えるというほどの意識を常にもっていなければ九神家を治めることはできん。一企業のトップとは意識の持ちようがまるで違うのだ」
「俺にはそれがなかったと言うのか……っ」
「あれば権之内に付け入られることもなかったはずだ。お前は一度、自分のなしてきたことから自身を見直せ。自分が正しいという前提で世界を見るのをやめることだ」
「今さらそんな子どもみたいなことなどできるはずがない」
「できねばお前は今の地位すら失うだろう。無論ここまでやってしまった以上当主になることなど不可能だ。知っているか、今あちこちで『深淵窟』が異常発生していると。青奥寺家とその関係者が奔走しているそうだ」
「……」
「お前が『深淵核』を濫用した結果がそれだ。幸い青奥寺家からは今のところ問題なしと言われてはいるが、ひとつ間違えば『深淵獣』が街中に出現する事態になっていただろう」
「それは権之内の部下がいれば解決できるはずだった」
「あんな能力を持った者が都合よく育成できるはずもなかったのだ。さすがにクリムゾントワイライトのエージェントだとは俺も思ってはいなかったがな」
「……権之内はどうするつもりなんだ?」
「どうにもならん。あいつは間接的に多くの人間を犠牲にした。『雫』の情報をリークし、クリムゾントワイライトの襲撃を手引きしていた。すでにどうあっても許される身ではない」
「……俺は……どうするつもりなんだ」
「これは親の贔屓目も入るが、お前は自身が愚かだったとはいえ騙された側であるということにはなる。多少の懲戒は加えるが、現状は維持できるだろうな。不満か?」
「……いや、それならいい。……一人になりたい。もういいか親父」
「ああ、しばらくは一人で考えるといい。ただ俺は別にお前を突き放すつもりはない。それだけは覚えておけ」
「ああ、わかったよ……」
―― クリムゾントワイライト 日本支部 本部長執務室
「お前たち『赤の牙』には相羽の抹殺を命じたはずだが、なぜ奴は権之内の元に現れた? 説明してもらおうかランサス」
「それは我々が奴を仕留めそこなったからです」
「ふむ。仕留めそこなったということは戦ったということだな? 戦っている途中で逃げられたということか?」
「いえ、我々全員が敗北したということです」
「ほう。ではなぜお前たちは生きて帰ってきているのだ。しかもほとんど怪我もないようだが」
「大変屈辱的なことですが、奴にはまったく力が及びませんでした。奴は我々を相手にして、十分手加減をした上で勝てるほどの力を持っていました。全員が一撃のもとに気絶させられたのです」
「つまり奴は想像以上の強者だったというわけか。それとも私がお前たちのことを過大評価していたのかな。4人揃えば『魔人衆』に匹敵するほどの力はあると思っていたのだが」
「『魔人衆』には及ばぬとは思いますが、近い戦力にはなると自負はしております」
「であれば、お前たちを子ども扱いした相羽は『魔人衆』を大きく凌ぐ力を持っている、そうお前は言いたいのか?」
「いえ、そのようなことは……っ」
「さすがに不愉快だな。私は自信をもってお前たちを相羽の元へ遣わせたのだ。それが目的を果たせぬどころか、己の力不足をごまかすような言を口にするとはな」
「もっ、申し訳ございません」
「……ふん、もういい。下がって次の指示を待て」
「ははっ、失礼いたします!」
「……『赤の牙』か。本部の部隊ではあるが、この体たらくでは話にならんな。ふん、ならば少し俺の実験の手伝いをしてもらうか。多少いじってやれば評価にふさわしい強さくらいにはなるだろうしな。くくく……っ」
【お知らせ】
皆様の応援のおかげで、拙作『勇者先生 ~教え子が化物や宇宙人や謎の組織と戦っている件~』の書籍化が決定いたしました。
皆様には深く感謝申し上げます。
詳細についてはまだお知らせすることができませんが、ヒロインたちがどのようなイラストになるのか、青奥寺さんの目つきはどれだけ悪くなるのか、自分としてもかなり期待をしております(笑)
物語としてはようやく九神家のお話に一段落つきそうな雰囲気ですが、勇者の敵(犠牲者?)はまだまだいそうですので、お話そのものが終わることは当分なさそうです。
今後も勇者先生の物語にお付き合いいただければ幸いです。