惑星エルクルドまではラムダ航行で半日ということで、いったん解散して準備をしてから出発ということになった。
アパートに戻った俺は明智校長と熊上先生、そして山城先生に連絡を取り、月曜から水曜まで休むことを伝えた。校長との話で対外的には『総合武術同好会』関係の研修という名目にしてくれるらしい。確かにその説明なら新良たちとの関係を疑われずに済むだろう。
宇宙旅行については、双党に関しては東風原局長の許可は問題なく出るだろう。問題なのは青奥寺だが、SNSですぐに「許可がでました」と送られてきた。戦う人である青奥寺母の美花女史はともかく父健吾氏は反対しそうな気はしたんだが、立場上母娘連合には弱いのかもしれないな。
夕方になると宇佐さんがやってきていつもの通りお掃除をしたあと、夕食を用意してくれる。料理は文句なく美味しく、宇佐さんと会話をしながらの食事もそれはそれでなんかもう心が満たされる感じがする。
「え、ご主人様は明日から3日間いらっしゃらないのですか?」
俺が3日間の不在を伝えると、宇佐さんは少し不安そうな顔をした。
「ちょっと部活動の引率が泊まりでありまして。トラブルがなければ水曜の夜には帰りますが、その時は連絡します。ただ延長の可能性もあるので、連絡がなかったら延長だと思ってください」
「そうなのですね。引率で泊まりの用事ということは合宿でしょうか?」
「そんな感じですね。ちょっと遠いところまで行きます」
「この間校内の合宿をされていたのにご主人様も大変でいらっしゃいますね」
「あの時はお世話になりました。でも宇佐さんもメイドをしている時は休みがないんじゃありませんか?」
「私の場合お嬢様が学校にいらっしゃる時はそれなりに休めますので」
「ああ、確かにそうじゃないとキツいですよね」
とか話をして、そろそろ魔力トレーニングを始めようかというときになって玄関がいきなり開いた。
宇佐さんが素早く反応して立ち上がり、スカートをめくりあげて太もものホルダーから片手棍を引き抜く。普通のアパートにカチコミとかはないんだがなあ、と思いつつ玄関の方を見ると、やはり歩く18禁、赤毛のロングヘアを身体にまとわせたカーミラが部屋に入ってくるところだった。
「あらぁ、相羽先生はいつもお盛んねぇ。今日は美人のメイドに手をつけてるなんて」
「宇佐さんの話はしただろ。っていうか普通に無断で入ってくんな」
「いいじゃない他人ってわけでもないんだし。ところでこちらのメイドさんがちょっと怖いんだけどぉ?」
「ご主人様、アポイントメントのないお客様ならば排除いたしますが」
冗談かと思ったが、宇佐さんの眼鏡の奥の目は本気であった。片手棍『阿吽』を両手に構えてカーミラを刺すような視線で睨んでいる。
「あ~、それもいいかな」
「ちょっとぉ、排除とかそれはないでしょ。相羽先生としては両手に花になるんだし、そこは勇者としての器を見せて欲しいんだけどぉ」
「勇者以前にここは日本だ。最低でも日本のマナーには従え。宇佐さん、武器はしまってください。で、カーミラはなんの用だ?」
俺が聞く体勢に入ると、宇佐さんは棍をしまって夕食の片づけをはじめ、カーミラはそのままテーブルの脇に座った。
「これから魔力トレーニングっていうのやるんでしょ? ワタシも参加させてもらえないかと思って」
「お前はもう必要ないだろ。自分の魔力を再吸引してろ」
「でも勇者教団の教団員としては勇者の魔力を一度は吸引してみたいのよねぇ」
「勇者教団というのはなんでしょうか?」
宇佐さんが戻ってきてカーミラの反対側に座る。視線が強いままなのでかなり警戒しているようだ。まあ宇佐さんならカーミラがかなりの強者であるのは感じ取れるだろう。
「うふふ、それはメイドさんには答えられないわぁ。ああ、アナタどこかで見たことあると思ったらクゼーロの所で戦っていた人ね。こちらの世界の人であんなに強い人がいっぱいいるのは驚きよねぇ」
「貴女も相当な使い手に見えますね。ご主人様のおっしゃっていた通りということでしょうか」
「あら、どんな風に説明されたのかしら?」
「クゼーロのもとにいた敵だったと聞いています。ご主人様に助けられたにもかかわらず、恩知らずにもその上なにかを頼みたい様子とか」
宇佐さん今の「恩知らず」とか余計な情報が付け加わってませんかね。
カーミラの眉がちょっとだけピクッとしたんだが、これ俺の方に文句来ないよな?
「あらぁ、恩知らず扱いはちょっと悲しいわねぇ。頼みたいことがあるのは本当だけど、きちんとお礼はするつもりよぉ」
と言いつつ俺にしなだれかかって来るカーミラ。しかもご丁寧に柔らか地獄まで腕に押し当ててくるし。
「お礼ですか? ご主人様は九神家より相応の報酬が支払われるはずですし、必要はないかと思いますが」
「九神家の報酬ってどうせお金でしょう? ワタシのお礼はもっと価値のあるものよ。ねえ?」
「いや『ねえ?』とか言われてもそんなの聞いてないから知らん」
「言わなくても分かってるクセに。乙女が強い男にするお礼っていったら1つしかないわよ。先生もわかるでしょう?」
「そんなの答えられるわけないだろ」
「うふふっ、それがすでに答えよねぇ」
そう言いながらカーミラはさらに柔らかいものを当ててくる。というかもう俺の腕を挟んでないかこれ。勇者の魅了耐性の限界を引き出すとはさすがヴァンパイアの血を引くだけはある。
俺がダブル柔らか地獄に耐えていると、それを見て宇佐さんが顔を赤くしながらプルプルし始めた。
「……乙女がするお礼というのはまさかと思いますが、そんな破廉恥なことを考えているのですか?」
「うふふっ、ハレンチって言葉初めて聞いたわぁ。いったいなにを想像したのかしら。でもメイドさんならご主人様にそういう奉仕をすることもあるのかしらねぇ」
またとんでもないことを言い始めるカーミラ。品のないネタはこの後宇佐さんと話をするとき気まずくなるからやめて欲しいんだよなあ。
「なにを想像したのかなど言うまでもありませんっ。それにメイドはそんなことはいたしません……っ」
あ~もう宇佐さんメチャクチャ真っ赤になって怒ってるし。そりゃそんな男の妄想垂れ流しメイド像なんて話されたらキレるよな。
宇佐さんは怒りが頂点に達したのか、身を乗り出してカーミラを睨みつけた。
「そんな……っ、殿方と接吻など……軽々しくするものではないでしょうっ。乙女と言い張るならもう少しそれらしい物言いをなさってくださいっ」
「え……っ?」
「え……っ?」
宇佐さん渾身の発言に、俺とカーミラは期せずして同じ声を出してしまった。
ちなみに「接吻」というのは「キス」のことである。念のため。
カーミラが目を点にして絶句してしまったので、宇佐さんはしてやったりみたいな顔になって姿勢を戻した。
しばらくすると、カーミラが毒気を抜かれたような表情で俺から離れた。
「本当は相羽先生が取られちゃうかと思って来てみたんだけど、この感じだと当分は大丈夫そうねぇ。でもこっちの世界は思ったより純粋な子が多いのね。あっちの世界じゃ男も女もギラギラしててウンザリだったんだけど、そこはワタシも嫌いじゃないかも」
腕を組みながらそんなことをしみじみと言い始めるエロスの化身。
それに関しては宇佐さんとか青奥寺とかが特別なだけで、勘違いはしないほうがいいと思うんだが、さすがに本人の前で指摘はできない。しかしこんなことを言うってことは、カーミラも意外と純情だったりするのだろうか。
……という考えは、その後恍惚とした表情で俺の魔力を吸引する姿を見て消え去った。だってはぁはぁ息を荒くしながら吸う様子は、そのまま大人のビデオになりそうな危険度だったのである。
※投稿隔日化のお知らせとお詫び※
ここまで毎日投稿をしてまいりましたが、さまざまな都合により毎日投稿が難しくなってしまいました。
大変申し訳ありませんが、当面の間2日に1回の更新とさせていただきます。
具体的には3月2日4日6日……と投稿する予定です。よろしくお願いいたします。