「例の魔王城の地下施設なのだが、一応財団の者たちを使って調べさせた。やはり間違いなく魔王城と同時期に作られたものであった。ただあそこには、誰かが収められていた棺のようなもの以外はなにも残ってはおらなんだ。恐らくは、あの棺から出た何者かが持ち去ったのであろうと思われる。いろいろなものが置いてあったのは確からしいのでな」
その後ルカラスはツノや尻尾をしまいつつ、真面目な話を始めた。
「当時の魔道具が保管されていたということか?」
「うむ、そういう話だった。この大陸では、ハシルがいなくなってすぐに大帝国が興り、そして滅びておる。その時に一度技術が大きく失われていてな。ゆえにもしあそこに魔道具が保管されていたとなると、それは古代の超技術の遺物となるのだ」
「なるほど。そうすると、何者かが古代の技術を持ち去り、それを利用して何かをしようとしている、そういう可能性があるわけだな」
「そうなるの。そしてその何者かというのもだいたいは予想がついておる。ハシルもあの時点ですでに分かっていたであろう?」
「まあな……」
俺が溜息をついていると、新良が横から声をかけてきた。
「すみません先生、話が見えてこないのですが」
「ああすまないな。実はな——」
俺は今ルカラスと話題にしていることを一通り話した。
魔王城跡地の地下に秘密の施設が見つかり、そこに『何者か』が保管されていたこと。そしてその『何者か』が50年ほど前に動き出したようであること。
「そのような話が……。それでその『何者か』というものの正体は何なのですか」
「それなんだが、これはルカラスにも初めて言うことなんだが……」
俺はさらに説明を続けた。
この世界と俺たちの世界で『魔人衆』とかいう連中が動いていて、彼らはこの大陸にない技術を持っていること。そしてその背後に『導師』なる者がいること。しかもその『導師』とやらは、宇宙の果ての『銀河連邦』にも手を伸ばしているらしいこと。
そして、『導師』が関わる『魔人衆』も、『犯罪組織フィーマクード』も、『深淵の雫』『魔導廃棄物』といった、モンスターと関わりの深い物質に執心していること——
さすがにここまで来れば、すべてを一つの線でつなぐのは難しくもない。というより、もはや気付かないとおかしいレベルだ。
ここまで話すと、むしろルカラスが目を見開いた。
「そのような話にまでなっておるのか。なんともとてつもない話になりそうよな」
「えっ、それで結局その地下にいた『何者か』と、『導師』とかいうのが同一人物って話なんですよね」
双党が目を輝かせるのは、その後の答えが分かっているからだろう。
「じゃあその『何者か』っていうのは誰なんですか?」
「まあそりゃあれだ、たぶん俺が倒した『魔王』の関係者だ。可能性が高いのは、魔王の魂かなにかを移したスペアボディってところだろうな」
「ええ~。それって結構マズいですよね」
「そうだな。ただ恐らくあいつはまだ力を全然取り戻せてない。もし取り戻していたらすぐ分かるからな。だからこそ、裏でこそこそやって自分の力を取り戻す算段をしてるんだろうと思う」
「なるほど~。『クリムゾントワイライト』が『深淵の雫』にこだわっていたのとか、エージェントを作ろうとしていたのとか、そういうのは結局『魔王』につながってたってことなんですねっ」
「一部は『クリムゾントワイライト』の独自路線もあった気はするが、おおむねその線だろうな」
俺が腕を組んでうなずくと、今度は新良が口をひらいた。
「では『フィーマクード』が人体改造などに手を出していたのも、その『魔王』を強化するための研究をしていたということですか?」
「関係はあるだろうな。あの改造人間は魔王の兵隊としても使えそうだし、魔王自身が最終的に銀河連邦を支配することを考えていてもおかしくはない。あいつはそういう奴だ」
「そのようなことが……」
まあ背後に『魔王』がいようがいまいが、銀河連邦にとって『フィーマクード』が滅ぼすべき敵であるのには変わらないだろう。問題は『魔王』自身が力を取り戻した時だ。『魔王』の力と連邦の科学技術が合わさるとかなり厄介なことにはなりそうだ。
新良が考え事を始めると、次はカーミラが話し始めた。
「そういえば、『魔人衆』が『次元環』を行き来できる技術とか、転送技術とか、すごい技術を持っているのってずっと不思議だったのよねえ。でも今の話でそれも説明できてしまうわねぇ」
「ああ、その通りだな。そして多分、ババレント侯爵が『魔導廃棄物』を誘導できる技術を持っていることともつながるんじゃないかな」
「先生の言う通りかもねぇ。これはラミーエルにも伝えておいた方がいいかも知れないわぁ」
うむ、どうやらすべてがつながってしまったようだ。
俺が天を仰いで息を吐いていると、ルカラスが赤い瞳でじっと俺を見てくる。のはいいんだが、やっぱり女の子姿には違和感しかない。
「さてハシルよ、そうすると我らがやるべきことは一つしかないのではないか?」
「あ~……まあそうだな……」
ルカラスの言う通り、『魔王』の姿がはっきりと見えてしまうと、さすがに勇者としても当事者で解決してくれ、とは言えないんだよな。なにしろ『魔王』については、一番の当事者は勇者(オレ)だという意識が強い。『勇者』と『魔王』なんてのは表裏一体の存在だし、そもそも俺が放っておいても向こうが黙っていないだろう。だったらこちらから乗り込んで潰すのが道理である。
「なら先生、もしかしてその『魔王』がいる場所に乗り込んで暴れることになるわけですか?」
そう聞いてきたのは、妙に期待に満ちた顔の絢斗だった。相変わらずの戦闘好きっぷりだが、その質問には全員の目が俺に注がれる。
「そうせざるを得ないだろうな。奴だけは俺がなんとかするのが義務みたいなもんだし。ただ奴が今どこにいるのか、ルカラス、それは分かってないのか?」
「残念ながら分からぬ。ただ『魔人衆』と関係があるなら、『魔人衆』の本拠地にいるはずであろう」
「ああそうか。カーミラ、本拠地ってどこにあるんだ? お前行ったことあるんだよな?」
「ええ、行ったことあるわよぉ。ただ場所は分からないのよ。『魔人衆』に接触したら、目隠しされて転送されたからねぇ」
「そりゃそうか。というかよく『魔人衆』に接触できたな。その手はもう使えないのか?」
「今はもう無理でしょうねぇ。向こうも先生がいることは嗅ぎつけちゃったから、殻にとじこもるでしょうし」
俺が「だよなぁ」と溜息をついてると、双党がシュバッと手をあげた。
「先生、『ウロボちゃん』に頼めばいいんじゃないですかっ?」
「あ~確かに。双党ナイスだ」
「あっ、じゃあ読書感想文の宿題と相殺で」
「お前だけ締め切りを一週間延ばしてやろう」
「それ意味ない奴じゃないですか~」
双党の嘆きを無視して、リストバンドで『ウロボロス』に指示を出す。
『艦長、さすがにその施設の特徴がないと特定は難しいでっす』
「あ~そうか。カーミラ、なんか特徴あったか?」
「私は内部しか知らないから特徴って言われてもねぇ。例えば本部には『次元環』で移動する装置があったから、それを探すとかはできないのかしらぁ」
「ああなるほど。『ウロボロス』、俺たちがこの世界に来たときに出てきた『次元環』と同じものを探せるか?」
『それなら特徴のあるエネルギーが検出されているので、見つかるかもしれません~。少々お待ちください~』
待つこと10分ほどで返答が来た。
『大陸全土を走査してみましたが、『次元環』と同じ特徴のエネルギーを発生する場所が一か所だけありました~』
その答えに、全員が俺の方を見た。ただルカラスだけが少し複雑そうな顔をしているのはなぜだろうか。
「ルカラス、何か気になることがあるのか?」
「……むぅ。その『ウロボロス』とやら、まさかハシルは我よりそちらを頼っているということはあるまいな?」
「は? まあそりゃ、乗り物としても戦力としてもルカラスより上かも知れないな」
まあルカラスは魔法的な力もあるから、それを考えるといい勝負をするかも知れないが。
なんて思ってると、ルカラスが泣きそうな顔になって俺にしがみついてきた。
「まさか我は用なしなのか!? ハシルのつがいとしては不十分なのか!?」
「いやだから何の話だよ……」
俺の襟首をつかんで、ガクガクと頭を揺すってくる白銀髪の女の子。
確か今、魔王のところに乗り込むって話をしているんじゃなかったっけと、俺は一人疑問に思うのだった。
……いや、多分ルカラス以外は皆思ってるよな。