「え~、なんですかそれ、『白狐』でもそんな化物が出るなんて聞いたことないですよ。それで先生としてはどうするんですかっ!?」
「青奥寺家でもそんな話は出たことがありませんね。近くに師匠の実家があるのに、そんな人たちがいて、『深淵獣』とは別の化物が出現してるなんて……」
翌朝朝食をとった後、俺は青奥寺たちを部屋に呼んで昨日の出来事を一通り話した。
当然3人も興味津々で、特に双党の食いつきがよすぎて他の2人が少し引くくらいだった。
双党がさらになにかを言おうとしたが、その前に新良が口を開く。
「我々が知っている現象や、先生に連れていっていただいた異世界とは完全に別のお話なんでしょうか?」
「それは俺も気になってるんだよな。少なくとも昨日見たモンスターは異世界のものとは違っているように見えた。その5人の戦闘スタイルも魔法とかスキルも使っていたから異世界のものに近いんだが、微妙に違う感じもしたんだよな」
「そうすると、先生が召喚されたのとは違う世界がある、そんな可能性もあるのでしょうか?」
「あ~、確かにそうかもしれない。あのモンスターだけならもとからこの世界にいたって可能性もあるが、あの5人はなあ……」
あの剣と魔法がこの世界に元からあったとするのは、かなり無理があるような気がした。それにあの5人は、過去に急に体型が変わって身体能力が伸びたという情報がある。その前後であの力を身につけたと考える方が自然だろう。
「分からないなら直接聞けばいいんじゃないですか? 先生ってそのあたり適当だから余裕じゃないですか。その5人のうち1人は巡ちゃんを狙ってるわけですし、兄として声をかければいいと思いますけど」
「いやまあ双党の言うことも分かるが、いきなり声をかけるのもなあ。それに巡になにかするんじゃなければどうでもいいし」
「え~? どうでもいいんですか? 気になるじゃないですかぁ」
「でも今まで知らなくても問題なかったんだから、別に放っておいてもいいと思う。私たちも他の人のやることに首を突っ込むほど暇じゃないでしょう?」
「私も賛成。『フォルトゥナ』か『ウロボロス』に監視させておけば今は十分だと思う」
青奥寺と新良が冷静な意見を述べると、双党は不満たっぷりに口をとがらせた。
「私は放っておかない方がいいと思うけどっ。大変なことになってからじゃ遅いんだよ?」
「じゃあ双党が声をかけてみるか? こう、私も魔法が使えます~とか言って接近すれば、向こうも秘密をぺらぺらしゃべるんじゃないか? 俺が脅すより平和的だと思うんだが」
「面倒くさいですぅ」
「それならいいんじゃない? かがりなら上手にやれそうな気がする」
「私も同意。かがりはそういうのは得意だと思う。それに今後も似たようなことが起こる可能性もある。経験は積んでいた方がいい」
「ちょっと2人とも~。あ~もう、じゃあ2人も付き合ってね。そこにいるだけでいいから。男子と1対1はちょっとアレだし」
「う~ん……」
「確かにこういうのは複数で行った方が効果的ではある」
「じゃあ決まりっ。で、先生はどうするんですか?」
「隠れて見てるわ」
「うわぁ、大人ってズルい」
などと話がまとまったところで、リストバンドに着信。
『艦長。例の坂峰少年が艦長の家に近づいてまっす』
「あらら」
「じゃあ先生、早速行きますねっ!」
なんか妙なイベントがはじまったんだが、せっかく俺の家に来たんだし、3人に一仕事してもらうのも悪くはないか。なんでも俺がやるっていうのも良くないしな。
3人を駅まで送っていくという体で家を出ようとしたら、「あ、先輩を送って行くなら私も行く」とか言って巡がついて来たがった。
しょうがないので「近くに例の坂峰君がいるみたいだぞ」と言ったら諦めた。
家を出て、双党たちを先行させて、俺は隠密系スキルを全開にして後をついて行く。
双党が『ウロボロス』の指示通りに住宅街を歩いていくと、正面から昏い顔をした少年が歩いてくるのが見えた。
坂峰少年は双党たちに一瞬目を向け、少し驚いたような顔をした。
まあ3人ともパッと見は目を引く可愛さだから仕方ない。巡ごときに告白するくらいだ、可愛い女子に免疫はほとんどないのだろう。
ともあれ互いにそのまま通り過ぎるかと思ったが、双党が急に立ち止まり、「あ、ねえそこの君」と、坂峰少年に声をかけた。
「ん? 俺?」
「そうそう。君ちょっと気になるねっ」
「なんのこと? 会うのは初めてだと思うど」
「そうだけど、う~ん……君にはなにか、特別な力を感じるかも」
「……え?」
双党にじっと見られて、坂峰少年は少し警戒するような態度を見せた。
「あっ、そんなに怖がらなくていいよ。もしかしたら仲間かな~って思っただけだから」
「仲間……?」
「そう。君もしかして、魔法とか使えたりしない? 私そういうの分かるんだよねっ」
「……っ!?」
坂峰少年はそこでさっと顔色を変えた。一歩後ろに下がり、訝しそうな目を双党に向ける。
双党はお気楽そうに、手をひらひらと振ってニコっと笑った。
「だからそんなに警戒しなくて大丈夫。そっか~、やっぱり仲間がいたんだね」
「いや、なんのことかわからないんだけど」
「またまた~。あっそうか、私たちが魔法使えれば仲間だって分かるかな。ね?」
「……」
「でもここだと他の人に見られちゃうよね。どこかいい場所ないかな?」
双党が可愛いく首をかしげて見せると、坂峰少年は多少肩の力を抜いて答えた。
「……よく分からないけど、何かをするなら近くの河原がいいんじゃないか? 橋の下ならあまり人目につかないと思うよ」
「じゃあそこまで案内してくれるかな? あ、こっちは3人だし、もし1人で危ないと思うなら他の仲間を呼んでもいいよ。それでいいよね?」
その提案に、坂峰少年は「わかった、そうさせてもらう」と言ってスマホをいじってから、「ついてきてくれ」と、河原の方に歩き始めた。
ふむ、双党め、仲間まで呼ばせるとはなかなかやるな。あざといだけの女子ではなかったか。
感心しつつ、俺は4人の後をついていった。