その後俺たちは、人目を避けて『ウロボロス』の会議室に一旦移動した。
もちろんさっきの少年たちの話について話し合いをするためだ。
猫耳銀髪美少女型アンドロイド『ウロボちゃん』と同型メイドタイプアンドロイドが持ってきてくれたジュースを飲んで一息つくと、隣に座る双党が俺の肩をバンバン叩いてくる。
「先生先生、今日は私結構頑張ったと思うんですけどっ!」
「なかなか話の持っていき方が上手かったな。嘘はつかない範囲で自分たちのことはボカしていたし、悪くなかったと思うぞ」
「ですよねっ! それじゃ夏休みの宿題を……」
「締め切りをさらに一週間延長してやろう」
「だからそれ意味がない奴じゃないですか~」
「かがり、先生とじゃれるのはそれくらいにして、さっきの話のことをきちんと考えないと」
青奥寺が軌道修正をはかってくれたので本題に入る。
「で、さっきの坂峰少年たちの話だが、皆はどう思った? 俺は微妙に違和感を感じたんだが」
「え~、私は先生のこともあるし、普通に信じましたけど。ちゃんと力も持ってるんですし、あの子たちも異世界に行ったのは間違いないと思うんですけど」
双党が首をかしげながら応じると、新良が光のない目を俺に向けてくる。
「私も少し違和感は感じました。彼らは確かに普通の人間ではないとは思いますが、しかし1年も戦ってきたという感じがしませんでした。言葉にするのは難しいのですが、戦う人間の持つある種の覚悟とか諦めとか、そういうものを持っていないと感じました」
「私も同意見かな。チート? とかいうのがあるせいなのかも知れませんが、なんか部活のとか趣味の話をしてるみたいな感じで、浮ついてるように思えました。彼らには失礼な言い方になるかもしれませんけど」
「う~ん、璃々緒と美園と二人ともそうなの? じゃあ異世界も嘘って感じ?」
「不思議なのはそこ。彼らは多分嘘はついてない。異世界には本当に行ったんだと思う」
新良の言葉に、双党は「だよねぇ」とうなずきながら俺を見る。
「そうだな。彼らが嘘をついているとは俺も思っていない。実際彼らは化物と戦っていたし、相応の力は間違いなく持っている。だからこそ、青奥寺や新良が感じたような違和感が不思議なんだ」
「そういえば、先生が見たのは戦いの場には一般人がいたんですよね?」
「ああ、10人くらいが化物に捕まってた。ただ彼らが解放して回復させてたから無事なのは間違いない」
「でもそれっておかしくないですか? もしそんな事件が今まで起こってたなら、東風原所長のところに情報は入ると思うんですよ」
「……確かにそうだな。双党、なかなか鋭い意見だ」
「ですよねっ。じゃあご褒美を……」
「頭なでなでをしてやろう」
ちょうどいい位置にあった小動物系女子の頭をなでるフリをして手を伸ばす。
もちろん嫌がって逃げると思ったのだが……
「早くなでてください」
「お、おう」
あれ? 頭なでられるとか、この年頃の女子ってすごく嫌がると思ったんだが。
リーララにしてやったみたいになでてやると、双党は口で「ゴロゴロ」とか猫の真似をして喜びはじめた。おかしいな。
当てが外れてしばらくなで続けていると、首筋のあたりにピリッときた。久しぶりの勇者の勘だが、ラムダ空間なる異次元にいる『ウロボロス』の内外に危険などあるはずもない。
おかしいと思っていると、絶対零度の瞳を向けてくる青奥寺と、光がなさすぎて病んでいる感じの目を向けてくる新良の姿が……。
「先生、女子生徒の身体に触るのは教師として問題があると思います」
「それはセクシャルハラスメントに該当します」
「お、おう」
俺が手を引っ込めると、双党は「ふにゃ~」とか鳴きながら俺の肩に頭を載せてきた。
のだが、2人に睨まれてすぐに気をつけの姿勢になった。なにしてるんですかねこの子たち。
「それで先生、どう対応するんですか?」
「まあ害があるわけでもないし、とりあえずはそのままかな。『ウロボロス』に監視はさせておくが、今できることはそれくらいか」
青奥寺に答えると、新良が少し考えるそぶりをみせてから口を開いた。
「彼らは女神からメッセージが届くと言っていました。そのメッセージの発信元を探れば、なにかわかるのではないでしょうか」
「ふむ。『ウロボロス』、それは可能か?」
確認をすると、テーブルの側に立っている『ウロボちゃん』は首をかしげる動作をした。
『スマートフォンに転送されたメッセージの元を探るんですね~。可能だと思いまっす』
「今できるか?」
『はい。やってみますね~』
『ウロボちゃん』が直立不動の体勢になる。ちなみに聞いてみたら、命令を実行中に動きを止めるのは視覚的に仕事をしていることがわかるようにしてるだけで、実際は普通に動けるらしい。
『完了でっす。坂峰一稀のスマートフォンの着信データから発信元まで辿ることができました~。全6件あり、3カ所から発信されてまっす』
「『ウロボちゃん』すごいねっ。『ウロボちゃん』がいれば世界の犯罪者とか全部逮捕できそう」
「確かになあ。で、どこだ?」
『艦長の家から20キロほど南にある都市にある、いくつかのネットカフェと呼ばれる施設の端末からですね~。地図を表示しまっす』
壁のモニターに、とある都市の中心地付近が表示された。その地図の3カ所にアイコンが表示される。そこが発信元らしい。
それを見て新良が目を細めた。
「特定されないように複数の端末を使っているということですね。これでは発信者の居場所が特定できませんね」
「でも場所が固まってるなら、近くにいるってことだよねっ」
「しかもパソコンを使って発信してるってことは、女神とかいう存在が人間であるってことを示してる」
「あっ、確かに! じゃあ先生、全部やらせってことですか?」
双党がこっちを見てくるので、俺は首を横に振った。
「彼らが力を持ってるのは確かだ。ただ女神っていうのが言葉通りじゃないのも確かなようだな。『ウロボロス』、この3つの発信元の近くに、妙なエネルギーを発してる場所とかはないか?」
『スキャンしまっす。しばらくお待ちください~』
『ウロボちゃん』がまた直立不動の態勢になると、新良が感心したようにうなずいた。
「先生はもう完全に『銀河連邦』の技術の使い方を理解してますね。その吸収力は素晴らしいと思います」
「サンキュー。まあ勇者ってその場にあるものをどれだけ有効に使えるかってのも芸のうちだからな。ルカラスだってもとはそんな感じに会いにいったし」
「それに関してはルカラスさんには言わない方がいいと思います」
「ずっと言ってる気もするけどね~」
双党のつっこみに青奥寺も無言でうなずいている。きちんと今は違うとも言ったはずなんだが。
『スキャン終了でっす。残念ながら本艦のセンサーで感知できる範囲では、特に異常なエネルギー波は見つかりませんでした~』
「あ~、先生ナイスプレーだったのに外れちゃいましたね」
「みたいだな。しかし絶対なにかあるって俺の勘が言ってるんだよなあ」
俺が頭を搔いていると、青奥寺がボソッとつぶやくように言った。
「もしその女神というのが、異世界から来たとか超常的な存在とかだったりするなら、先生がスキル? というので探した方が早いということはありませんか?」
「『ウロボロス』は魔力も感知できるみたいだから、俺もそれ以上はなあ……。俺より鋭い奴がいればいいんだが……」
と言いかけてふと気づいた。
「あ~、そういや身近にいたわ。数千年生きてて、いろんな怪異に詳しい奴が」
俺がそう口にすると、3人娘も「あっ」といって手を叩いたのであった。