翌日職員室の掲示板に球技大会メンバー表が貼り出され、球技大会担当の体育教員から出場する競技に名前を書くように連絡があった。
その先生からも「相羽先生は2競技出てね」と言われ、俺は悩みながらサッカー、バスケットボールを選んだ。本当はドリブルが苦手なのでバスケットボールは出たくなかったのだが、キャプテン担当の先生に拝み倒されてやることになった。というかバレー、卓球、テニスの非接触型スポーツは比較的年上の先生の人気が高く、俺の入る隙がなかった。まあ言われてみればそうだよなという感じはする。
生徒は体育の時間と放課後に練習タイムがあり、一応放課後のコート使用スケジュールには教員チームの割り当てもあった。
で、熊上先生などと一緒に練習をしたのだが、例えばサッカーでは、
「相羽先生は反射神経と瞬発力があるからキーパーやってもらおうかな」
バスケットボールでは、
「相羽先生はジャンプ力があるからゴール下でリバウンド全部取ってくれればいいよ」
という感じでそれぞれのキャプテンの先生が的確にポジショニングをしてくれた。
まあなんというか、かなり気を使ってもらったようで、大変申し訳ない気分でいっぱいである。
やはり勇者の能力をもってしても、不規則に動く(あくまで主観)ボールを扱うのは難しい。
練習で精神的に疲れたが、夜はいつもの通り夜8時から宇宙戦艦『ヴリトラ』で生徒たちの魔法トレーニングの監督はあった。
監督といっても、トレーニング場となっている『ヴリトラ』の広大な格納庫、その端にセットされたリビングスペースでのんびりしているだけではあるのだが。
古代龍が白銀髪の少女になったルカラスと、白い九尾の狐であるクウコもそこにいて、それぞれソファの上でタブレットをいじったり、丸くなって寝ていたりする。
「のうハシルよ。クウコに言われて始めてみたのだが、このインターネットというのは本当に便利だの」
「なんだ急に。まあ便利なのはその通りだけど」
「この技術があれば向こうの世界もさらに発展すると思うのだが、伝えることはできんのか」
「あ~……こっちと向こうが本格的につながるなら可能性はあるかもな。ただインターネットってのは膨大な設備が必要な技術だからな。たとえ技術が伝わったとしても、使えるようになるまでは時間が相当かかるぞ」
「そこは仕方なかろう。ハシルはこちらと向こうをつなぐのはあまり乗り気ではないようだが、いい影響も双方にあるであろう?」
「俺だって別にこっちと向こうがつながるのをなんとしてでも止めたいわけじゃないけどな。俺とは関係ないところでつながるなら勝手にやってくれればいいさ」
「そのようなものか。ま、なんでもかんでもハシルが関わる必要もあるまい。そのような態度でよいのではないか」
「おう。しかしルカラスがそんな優しいことを言うとは、一緒に旅してた時は思わなかったな」
なんだかんだ言って勇者としての俺を知っているのはルカラスしかいない。だからこそ妙に気遣ってくれるところもある気はする。
などとちょっとだけ思っていると、ルカラスはタブレットを置いて俺の方にすり寄ってきた。
「あの時はハシルには魔王を倒してもらわねばならなかったからな。我も甘いことは言えなんだのよ。だがハシルは見事に魔王を倒し、しかも一度はその身を犠牲にして世界を守ったのだ。今はいくらでも甘くしてやるぞ」
「そりゃどうも。まあ俺ももうああいうのはやらないつもりだ。やり残した『魔王』だけは倒すつもりだけどな」
「『魔王』が昔の力を取り戻したとして、今のハシルには敵わぬであろう? 無論我も力を貸すし、あの娘たちも喜んでハシルの力になろうしな」
ルカラスの視線の先には、魔法の練習を一心不乱にやっている青奥寺たちがいる。
確かにこのまま力を伸ばせば、勇者パーティを超える可能性は秘めた娘たちではある。ただその域に達するには、あと1万匹くらいはモンスターを倒さないとならないが。
2人でやや物騒な話をしていると、銀髪猫耳アンドロイド『ウロボちゃん』が格納庫に入ってきた。
手には近未来的なデザインのライフル銃を持っていて、それを両手で俺に差し出してくる。
『艦長、「魔導銃プロトX」が完成いたしました~』
「すまんそれ初耳だよな」
『あれ? あ、そうかもしれません~』
いやいや、そういうのAIが忘れることないでしょ。可愛く首をかしげても騙されませんからね。
「で、どういう銃なんだ?」
『艦長がお持ちだった魔導銃を解析し、こちらの持つ技術力で再設計し量産可能にしたものでっす。今のところ、「魔導銃タネガシマ」と同等の威力と精度を実現していまっす』
「それはすごいね」
なんかもう俺の知らないところで色々進んでるっぽいな。大丈夫なんだろうかと思わないでもないが、まあ深く考えるのはよそう。
俺は『魔導銃プロトX』を受け取っていじってみるが、銃は門外漢なので正直よくわからない。
と、いつの間にか横にミリタリー大好きツインテール少女の双党がいて、目をキラキラ輝かせて『魔導銃プロトX』を覗き込んできていた。
「先生先生、それなんですかっ!?」
「どうも『ウロボちゃん』が俺の『タネガシマ』を研究して同等品を作ったらしい」
「うええっ!? それってすごいことなんじゃないんですか!?」
「たぶんメチャクチャすごいと思うんだがな。双党、撃ってみるか?」
「ぜひやらせてくださいっ!」
双党は銃を受け取るとすごいニコニコ顔であちこちいじりまわし、「へぇ~」とか言いながら銃を持って魔法練習場に歩いていった。
どうやら新良とレアもかなりの興味を持ったようで、そちらに集まっていく。
双党の構えはさすがに堂に入っている。引き金を引くと銃口から拳大の火球が飛び出し、一瞬で的に着弾して小さな爆発を起こす。初級魔法の『ファイアーボール』、なるほど『タネガシマ』と同等の威力はありそうだ。
双党と新良、レアが交代で撃ちまくっていたが、30発くらいで魔力切れになったようだ。
銃を持って双党たちがこちらに戻ってくる。
「ねえ『ウロボちゃん』、これって魔力はどうやって充填するの?」
『魔力はカートリッジ式になっていまっす。こちらと交換してください~』
『ウロボちゃん』が四角いスマホくらいの容器を渡すと、双党は慣れた手つきでそれを交換した。
「なるほど、普通の銃のマガジン交換と同じ感じなんだ。これは使い勝手がいいかも」
「カートリッジにはどうやって魔力を充填するの?」
こちらの質問は新良だ。かなり真剣な顔なので、この魔導銃は銀河連邦的に無視できない感じか。
『カートリッジには専用の充填装置を使って魔力を充填しまっす』
「その充填装置というのは?」
『艦長がお持ちになった「次元環発生装置」に魔力ジェネレーターが内蔵されていたのでっす。そちらをコピーして充填装置を作りました~』
新良が光のない目で俺を見てくるが、俺としても肩をすくめてみせることしかできない。
新良は再度『ウロボちゃん』に向き直る。
「その魔力ジェネレーターというのはどのような装置なのか教えて」
『理論は現在解析中ですが、恐らく大気中に存在する希薄な魔力を収集する装置のようでっす。「深淵の雫」や「魔石」を魔力に変換する能力も持っているようですね~』
「大気中に魔力が……? 先生、そうなのですか?」
「ん? ああ、そうだな。実は魔力ってどこにでもうっすらと存在するらしいんだよ。それをかき集める魔道具なんてのも『あっちの世界』にはあったな」
「そうですか……」
なにごとか考え始める新良。
代わりにレアが興味津々な顔で『ウロボちゃん』に迫る。
「『ウロボちゃん』、『魔導銃プロトX』やカートリッジは量産できるのでぇすか?」
『そうですね~。ダンジョンからとれる金属、艦長の言う「ミスリル」と「魔石」もしくは「深淵の雫」が必要になりますので、今のところは1000丁くらいしか生産できないと思いまっす。ただ今後ダンジョンから「ミスリル」などが継続的に採取できれば、逐次生産は可能でっす』
「それは『ウロボロス』でないと生産できないのでぇすね?」
『「ウロボロス」と「ヴリトラ」の汎用工作システムでないと製造できないと思いまっす』
「う~ん、そうでぇすか……」
「なにが気になるんだ?」
レアが肩を落としているので聞いてみる。
「今後ステイツにもダンジョンが出現したときに、ステイツには対応できる人間がいないのでぇす。もしこの銃が作れるなら、対ダンジョン部隊が作れると思ったのでぇすが」
「ああ、なるほどな。普通の銃器じゃモンスターに通用しないもんな」
「そうなのでぇす」
「先生はこの銃を外に出すつもりがあるのですか?」
こちらは考え事をしていた新良だ。妙に距離が近い、というより眼力が強い。
「新良はこの魔導銃、そんなに気に入ったのか?」
「いえ、そうではありませんが、銀河連邦でも今後ダンジョン対策が必要になると思いまして」
「あ~……。でも銀河連邦は携帯用ラムダ兵器で対応できるだろ?」
「携帯用ラムダキャノンはそもそも運用が非常に難しいのです。『深淵窟』で使用しているようですが、やはり『深淵獣』相手だと消費するエネルギーの割に効果が低いそうで、現場ではかなり苦労があるようです」
「なるほどなあ……」
う~ん、そうなるとこの魔導銃プロトXは、量産体制が整ったら売ったりするのもアリだろうか。
今の話だと地球の技術では生産不可能のようだが、銀河連邦は『ウロボロス』の汎用工作システムと同等以上の設備を持っているだろうし、材料さえあれば現地で生産は可能になるだろう。
問題はこの銀河連邦の技術と異世界の技術を融合した新技術を、そんな簡単に広めていいのかってことなんだが……さてどうしたものだろうか。