前衛的なデザインの銀ピカ高層ビルが立ち並び、その間には幅の広い道が3重構造になって四方に伸びる。
地球人から見たら未来都市のような惑星ドーントレス最大の都市は、すべてがボロボロに食い荒らされていて、まるで廃墟のようになっていた。
ビルの壁面やガラスは破壊され、路上には放置された自動車が無秩序に並んでいる。
人間の気配はまったくなく、所々に残る血痕がなにかを想像させるが、それ以外は瓦礫の間から顔を覗かせるモンスター以外動くものはない。
道路の真ん中に転送された俺とルカラス、青奥寺、双党、新良、雨乃嬢、絢斗、三留間さん、そして10体のアンドロイド兵は、周囲を見回してそれぞれ武器を構えた。
新良はすでにアームドスーツ姿、三留間さんは3体のアンドロイド兵に守られる形になる。
俺たちの姿を見てか、近くの瓦礫の影から豚頭人身のモンスター『オーク』が6匹現れた。片刃の斧を振り上げて襲い掛かってきたが、瞬時に青奥寺たちに斬り捨てられる。人型でも容赦がないのは以前『クリムゾントワイライト』の人造兵士と戦っていたからだろうか。
俺の隣に来たルカラスが、いきなり口から火の球の散弾ブレスを吐き出した。遠くからこちらに飛んでくるハーピー――両腕が翼になった半鳥半人のモンスター――の群れがまとめて火だるまになって落ちていく。
「この様子は四天王ザメラに襲われた王都を思い出さぬか、ハシルよ」
「言われてみればそんな感じかもな。ただこっちのほうが規模ははるかにデカい。一日じゃ終わらないかもしれないな」
「その分兵隊も多い。あの時は我らだけだったからな」
「そういやそうか。思えば無茶をしたもんだ」
人口50万の王都を4人プラス1で救った記憶がよみがえる……といっても、俺の主観だとまだ3年くらい前のことだ。
今回は四天王がいない分だけ楽、ということもないか。とにかく規模が大きすぎる。
「よし、俺はダンジョンを回ってオーバーフローの元を止めてくる。ルカラスたちは『ウロボロス』の指示に従って動いて、モンスターどもを根絶やしにしてくれ。もし怪我人とかが見つかったら三留間さん頼むよ」
「はい先生。任せてください」
皆の中で一番青い顔をしていた三留間さんだが、『聖霊の杖』を握りしめて力強く答えた。多分この先結構エグいものを見てしまう可能性もあるが、彼女の身に着けている『聖霊のローブ』は『鎮静』の効果もあるから大丈夫のはずだ。
「じゃあ無理をしないようにやってくれ。疲れたら『ウロボロス』に戻って休むこと。じゃあ俺は行ってくる」
「気をつけてな」
「先生、お気をつけて」
「お早いお帰りをお持ちしてまぁす」
皆に送られつつ、俺は『機動』魔法で空に飛びあがる。
眼下には多くのモンスターが蠢いているが、俺はそれらを無視して、まずは最寄りのダンジョンへと飛行を開始した。
そのダンジョンは山間部にあった。
山と山の間の、谷になっているところに不自然な大岩が隆起していて、その側面にデカい穴が開いている。
気になるのは、そのダンジョン入口の周辺にいくつもの建物が立っていることだ。いわゆるプレハブ工法による簡易的な建築物だ。
多分このダンジョンを管理していた役人や、『洗脳チップ』をつけられて無理矢理ダンジョンアタックさせられていた人間が生活していたのだろう。
だがその建物は、ほぼすべてが破壊されて原型を留めていなかった。
俺が見ているうちに、ダンジョンからデカいモンスターが出てきた。巨大ライオンにドラゴンと山羊の頭を追加した四足歩行の獣『キマイラ』だ。
本来Bランクのモンスターなのだが、小型の奴だったので『アナライズ』したらCランクだった。俺は小型キマイラを『魔剣ディアブラ』で真っ二つにしながら着地した。
そのままダンジョンに入ろうとしたが、周囲にいくつか人間の気配があった。どうも地下に隠れているらしい。
俺は気配のある場所に当たりをつけ、その上に山になっている瓦礫を風魔法で吹き飛ばした。
すると地面――というか元は建物の床だが――に金属製の分厚そうな蓋があるのが見えた。マンホールの蓋くらいの大きさで、どうやらそれが地下への入り口らしい。
蓋を叩いて反応を見る。蓋の表面にはいくつか小さな穴が開いていて、それがカメラになっているようだ。俺の顔が映れば出てくるだろうと思っていると、果たして蓋がスライドして、中から青年エルフが顔を出した。ひどくやつれていて、まるで地獄でも見てきたかのような顔をしている。
「救助に来たんだよな……?」
「まあ結果的にはそうなるかもしれない。ここの職員か?」
「そうだ。そこの『アビスホール』を管理していたんだ。普通にアビスビーストを倒していれば大丈夫と言われたんだ。ところがいきなりビーストがあふれ出してこんな状況だ」
「いきなりか。前兆はなかったのか?」
「なかった。気をつけろと言われていたからそこは全員注意していたんだ。あまりに突然だった」
7カ所同時にオーバフローが起きるなんて明らかに妙である。管理不全が原因ではないのは俺もなんとなく感じてはいた。
「わかった。俺はこのダンジョ……アビスホールを静かにさせてくるから、あと少しここに隠れててくれ。食い物は?」
「2日間何も食べてない」
「あらら」
俺は『空間魔法』から食料を出して青年に渡した。地下シェルターには23人いるらしいのでその分も出してやる。
「あんた、まさかアビスホールに入るつもりなのか?」
「俺はそういうのが専門なんでな。とにかく今、この国全体にアビスビーストが溢れてて酷いことになっている。気をしっかり持てよ」
「本当なのか? ああ……妻子が心配だ……」
残念ながらこれ以上青年の相手はできない。俺は無理矢理青年を穴の中に押し込めて、ダンジョンへと向かった。
さて、突発的なオーバーフローというのはなくもないが、今回のものは明らかに何者かの意思が働いている。それがダンジョンの底でわかるかどうか、気になるのはそこだけだな。
入ったダンジョンは全3階の、比較的浅いタイプのものだった。
出てくるモンスターはザコがDランク、『深淵獣』で言えば『乙型』相当、ボスがその上のCランクで『甲型』相当である。もちろん俺にとっては呼吸するように倒せるモンスターなので、魔石などの回収をしないで進めばダンジョン踏破まで30分もかからない。
問題は、その最下層のボス部屋だった。
岩をくりぬいて作ったような四角い大部屋なのだが、いかにも怪しげな魔導具が、壁にめり込むように設置されていたのである。
銀色の円筒形をしたそれは、どうも異世界で見た『魔導廃棄物』を集める『誘導器』になんとなく似ているような気がする。
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オメガエネルギー誘導器
オメガエネルギーを指定された空間に凝集させることができる装置。
凝集したオメガエネルギーは、任意のタイミングで放散させることができる。
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『オメガエネルギー』というのはたぶん魔力のことだろう。
ドーントレスでは魔力を扱う装置のことを『オメガ機関』と呼んでいたので、それと対応していると思われる。
つまりこの魔導具は大量の魔力を集めておいて、それを設定しておいたタイミングで解放するもののようだ。ダンジョンでは魔力が濃くなりすぎると『オーバーフロー』が起きると言われているので、これは完全に『オーバーフロー』発生装置ということになる。
「なんかひねりもなんにもない感じだが、ゼンリノ師が仕掛けていったものなんだろうな。協力するフリをして、特大の爆弾を仕掛けておいてこの星を『魔王』好みに仕立て上げる。おおかたそんなところか」
ある意味予想通りだが、予想通りすぎて逆にまだなにかあるような気がしてしまう。
とはいえ今はそれを詮索している時でもないので、俺は『オメガエネルギー誘導器』を回収し、さっさと地上に戻った。
「『ウロボロス』、ちょっといいか?」
『はい艦長、なんでしょうか~』
「俺が今いる場所の地下にシェルターがあって、そこに20人ちょっと人が避難してる。モンスターの駆除が進んだら救助を寄越して欲しい」
『了解でっす。安全が確保できしだい揚陸機を派遣しまっす』
シェルターの連中にも一言後で必ず助けが来ることを伝え、俺は次のダンジョンへと向かった。
【『勇者先生』5巻発売のお知らせ】
11月25日、『勇者先生』5巻が発売となりました。
アメリカンな転校生レアが目立つ表紙が目印です。
内容はいつもの通り、Web版の全体的な改稿+エピローグ、書き下ろしの追加となっております。
イラストレーターの竹花ノート様のイラストがいつも以上に美しい一冊ですので是非よろしくお願いいたしいます。