【『勇者先生』5巻発売のお知らせ】
『勇者先生』5巻発売中です。
アメリカンな転校生レアが目立つ表紙が目印です。
イラストレーターの竹花ノート様のイラストがいつも以上に美しい一冊ですので是非よろしくお願いいたしいます。
惑星ドーントレスにて『オーバーフロー』を起こしている7つのダンジョン。
それらを全部を落ち着かせるのに、結局5時間以上かかってしまった。
ちなみにすべてのダンジョンに『オメガエネルギー誘導器』は設置されていて、今回の件が仕組まれていたものであることは確実となった。
ダンジョンを一つ攻略するごとに、ルカラスや青奥寺たちがどうなっているか、この国全体の様子がどうなっているかは逐一『ウロボロス』に報告を聞いた。ルカラスたちについては順調にモンスターの駆逐を行っていて、国全体に広がるオーバーフローの騒ぎは次第に収まりつつあるとのことだった。
7つ目のダンジョンから総統府のある首都まで飛んで戻ると、確かにモンスターの気配は来た時の半分以下になっているように感じられた。
空から見る総統府周辺のビル街はやはり相当に破壊されている。あちこちで銃声のような音や、モンスターの鳴き声などが飛び交い、この辺りはいまだ戦場であることが分かる。
見ると銀色のスーツに身を包んだアンドロイド兵が背中や足からジェットを噴射して飛び上がり、空中から地上のモンスターに向けて魔導銃を撃ちまくっている。俺が見ても驚異的なスピードでCランク以下のモンスターを駆逐していく。
「こりゃ冒険者いらずだな。確かにアンドロイドが厳しく規制されるはずだ」
特に短時間とはいえ空を飛べるのはデカい。青奥寺たちも魔法をかなり使えるようになってきたので、俺みたいに自由に飛ぶのは難しいにしても、『機動』魔法を少し教えておいてもいいかもしれない。
などと考えながら飛んでいくと、崩れた幹線道路の上に見慣れた女子たちの姿が見えた。
ルカラス、青奥寺、双党、新良、レア、雨乃嬢、絢斗、三留間さんとアンドロイド兵10体。
彼女らが向かう先には大型のモンスターが5体。『アースドラゴン』というBランク、『特Ⅰ型』相当の羽根のないドラゴンだ。
全長は20メートルを大きく超え、口から吐くブレスと長い尻尾、そして体当たりと噛みつきが武器のオーソドックスなモンスターだが、もちろん並の人間では勝ち目などまったくない。地球の戦車でも勝てる見込みはない程のヤバい奴だ。
しかし双党とレア、そして新良の射撃によって一体がハチの巣にされ、青奥寺と雨乃嬢が連携して一体を切り刻み、絢斗は一人で一体を翻弄しながら討伐してしまう。
残り2体はルカラスのブレスで灰になって戦闘終了である。う~ん、そろそろ青奥寺たちもAランクの弱い奴なら倒せそうな気がするな。サイクロプスあたりならいけるかもしれない。
俺が近くに降りていくと、それに気付いた青奥寺が走ってきた。
「先生、ダンジョンの処理は終わったんですか? モンスターの数が減ってきた気がしますけど」
「ああ、7つとも全部黙らせた。あとは今地上に出ている奴を掃討すれば終わりだな。青奥寺たちはどのくらい倒した?」
「多分全員で千は超えているんじゃないかと思います。正確には『ウロボちゃん』が数えていてくれてると思います。休みながら戦えるのが大きいですね。というより少しズルい感じがするほどですけど」
疲れたら『ウロボロス』に転送で移動して休憩とかしてるからなあ。ズルいといえばズルいが、銀河連邦の技術の前にはオーバーフローも実際はその程度の脅威でしかないということだ。今は魔力に対応できていないので苦戦をするが、『魔力ドライバ機関』が普及すれば怪獣みたいなAランクモンスターも楽勝になるだろう。実際魔力が使える異世界だと普通に攻撃機で倒していたしな。
「あ、それとこの先に人が隠れている場所があるそうなので、そこまで急がないといけないみたいです」
「おっと、じゃあ移動しよう」
ルカラスを先頭にして速やかに移動が再開される。
普通なら敵がとこに潜んでいるかわからないので慎重な移動になるところだが、上空からの『ウロボロス』の索敵やルカラス自身の気配察知能力もあるので、歩く速度はかなり速い。
数分進むと、出入口にバリケードが築かれたビルが見つかった。中に大勢の人間の気配もあるのでそこが目的地だろう。しかしいきなり現れたモンスターの大群から逃れて息を殺しているというのはどんな心境なのだろうか。というのは、勇者時代から時々思ったことである。
先頭のルカラスが、アームドスーツ姿の新良の方に顔を向けた。
「ここだな。リリオよ、いつものように声を掛けてくれるか」
「了解」
新良がバリケードを少し取り除いて、中に向かって声をかける。アームドスーツには拡声器も装備されているようだ。
「こちらは銀河連邦独立判事リリオネイト・アルマーダ。現在惑星ドーントレスの緊急事態に対処するために活動をしています。周囲の安全は確保されています。生存者がいればこちらへ来てください」
その呼びかけを2回繰り返すと、ビルの中から「救助か?」と声が聞こえた。
「救助隊です。転送にて安全地帯へとお送りしますので、身の回りのものを持ってこちらへ来てください」
「わかった。こちらは約100人いる。それから怪我で動けない者もいるんだ。動かすのも危険な者もいる」
「わかりました。治療を行いますのでその場に案内してください」
「わかった、頼む」
そんなやりとりがなさている間にも、10体のアンドロイド兵がバリケードの撤去を始めていた。見た目は美少女軍団なのだが、完全に重機みたいな力でコンクリートの塊などを移動していく。
人が通れる空間ができると、新良と絢斗と三留間さんがそこからビルの中に入っていった。どんな感じなのか見ておきたいので、俺もその後をついていった。
ビルの中はそこまで荒れてはいなかったが、大勢の人の気配と、汗と血の臭いが漂っていた。勇者をやっていた時によく嗅いだニオイだが、トイレが作動していたらしくそっちのニオイまではしないのが救いだろうか。
すぐにエルフの若い男が出てきて、新良のアームドスーツを見て驚いた顔をした。
「ああ、確かに独立判事だ。助かった。いや、済まない、怪我人はこっちだ。急いで治療を頼む」
案内された部屋には、30人ほどが寝かされていた。全員衣服のどこかしらに血がついていて、中には腕や足を噛みちぎられているようなのもいる。
野戦病院さながらの光景だが、新良や絢斗はともかく三留間さんも慌てた様子はない。
三留間さんは部屋の真ん中あたりに立つと、その場で杖を掲げた。
「それでは治療を行いますね」
案内した青年は「え……?」と要領を得ない顔をしていたが、三留間さんが治癒スキルを発動するに及んで、その顔は驚きの表情に塗り替わった。
三留間さんが部屋全体に放った白い光は、すべての怪我人を包み、そしてその傷を完全に癒してしまったのだ。かじられた跡すら一瞬で完全に元に戻るのは、多分銀河連邦の技術をもってしても不可能な芸当だろう。
というか俺もここまで強烈な力になっていることに驚きを隠せない。失われた手足が元に戻るレベルの治癒なんて、異世界でも勇者パーティの僧侶を含め数人しかできなかったことである。三留間さんは完全に聖女となってしまったようだ。
「え……、痛くない……」
「腕が……戻ってる? こんなことがあるの……?」
「なんだこれは……。夢でも見ているのか? それともこれが連邦の最新技術なのか……?」
と、口々に言う元怪我人たち。
三留間さんは、
「傷は治しましたが、失われた血液などは完全に戻っていないと思います。急に激しい動きをしたりはしないでくださいね」
と言って、少し恥ずかしそうな顔をしながらこちらへ戻って来た。
「いやすごいね。こんなに力が上がってるとは思わなかった。もう名実ともに完全な『聖女』だな」
「そ、そんなことは……。先生にいただいたこの杖がすごく強くて、力が何倍にもなる気がするんです」
「いやいや、その杖にそこまでの力はないから。でも今までそういう道具を使わないで鍛錬してきたから、その分魔力が強くなってるのかもしれないね。三留間さんの頑張りの結果だよ」
と褒めると、三留間さんは嬉しそうに「はい……!」と答えたあと、妙にモジモジした様子で、
「あの……、これで先生と一緒に生きていけるでしょうか?」
と上目づかいで聞いてきた。
「ん? ああ、そうだね、この後も三留間さんが一緒に来てくれるとありがたいね。それだけの治癒の力は貴重なんてものじゃないから」
「本当ですか!? では頑張った甲斐がありました!」
なんか質問内容が微妙に重かった気がするが、やっぱりこの惑星の状況にショックを受けているのだろうか。絢斗が三留間さんをニヤニヤしながら突っついたりしているので、そんな感じでもなさそうだが。
ともかく彼らも『ウロボロス』に頼んで、安全地帯まで転送してもらい、ここでの救助活動は終了となった。