巨大ダンジョン最奥部、ボスモンスター『サタン』との戦いは熾烈ではあったが、数の優位もあって俺たち優勢で推移していた。
俺が放った超強化型『トライデントサラマンダ』を食らって地上に落ちた『サタン』は、3本の腕を前に突き出し全身から赤青緑黄のオーラが立ち上らせ、全力を開放する体勢を取った。
俺の隣に立つルカラスもそれを理解して、腰を低くして身構えた。
「む、ハシルよ、来るぞ」
「そうだな。俺も全力を出すか」
恐らくこの後に展開されるのは、クゼーロの時と同じ純粋魔力の撃ち合いだろう。
実はあの『ヘカトンケイル』戦で押しきれなかった反省から、俺は魔力を高めるトレーニングをずっと継続してきた。それをここで試せるのはラッキーかもしれない。
俺はその場で仁王立ちになり、両の手のひらを『サタン』に向けた。全身から立ち上るのは蒼白のオーラ。う~ん、いかにも勇者っぽいエフェクト、のはずだ。
『我が魔力の前にすべては飲み込まれるのみ』
『サタン』の3つの手のひらの前に魔法陣が無数に展開し、そこから無数の極彩色に輝く光球が射出された。どうやら四属性を交ぜた魔力の球のようだ。『魔導の秘奥』というスキルによるものか、さすがSランクモンスター、面白い技を使ってくる。
だが俺がこれから撃ち出す魔法も似たようなものである。両手の前に4枚重ねの魔法陣を30セット展開。そこから射出されるのは、赤青緑黄の四重螺旋の光の矢。つまりこちらも四属性を組み合わせた魔法の矢である。
「またハシルはとんでもない魔法を使いだしたものだな。魔法神も驚くのではないか」
「まだ未完成ではあるんだけどな」
『サタン』が放った魔力球と俺が放った螺旋の矢が互いの真ん中あたりでぶつかり合う。瞬間そこに黒い球体が生じ、そして地響きのような音が広い空間にこだまする。魔法がぶつかり合って黒い球が生まれるなんて初めて見るのだが、四属性混在の魔力同士が互いに打ち消し合うとそうなるのかもしれない。
ともかくその黒い球は次々と生じては消えていく。その度に轟音が周囲に鳴り響き、もはやその音に圧されて青奥寺たちは動きが止めてしまう有様だ。アンドロイド兵は依然として魔導銃を撃ちまくっているが、『ライトアロー』の光の矢も『ジャッジメントレイ』の太い光線も、俺と『サタン』の間に生じる圧倒的な魔力のうねりの中で掻き消えていくだけである。
一方でルカラスが吐くブレスは『サタン』の手前まで届きそうになるくらいには圧している。さすがに古代竜の力は凄まじく、そのおかげもあってこちらが徐々に優勢になっている。
『ぬううッ!! 我が魔力で負けるというのか!?』
「多勢に無勢だ、悪く思うなよ」
俺はそこでスパートをかける。魔法の行使スピードを1.5倍にすると、俺が放つ四重螺旋の矢がじわじわと『サタン』へと迫っていき、ついにその防御魔法の防御圏内に到達する。
『馬鹿……なッ!?』
その後は一瞬だった。ルカラスのブレスが『サタン』の身体に直撃すると、最後の均衡は一気に崩れ、『サタン』の全身を螺旋の矢が引き裂いていった。
『グオオォォ……!!!』
『サタン』の断末魔はルカラスの最後のブレスにかき消され、そして神話の堕天使を模したモンスターは、光の渦となって消滅した。
広大な空間は、それまでの激戦が嘘だったかのように一気に静まり返った。
俺は小さく息を吐き出して身体の調子を確かめる。かなりの魔力を使ったせいか軽い疲労感があるものの、この感じなら『サタン』ともう一戦くらいならできそうだ。
「ふう、ルカラスのおかげで楽に倒せたな」
「魔王に匹敵するほどのモンスターを楽に倒せたなどと言うのだから呆れるばかりよの。しかし我もここにきてこれほど力が上がると思わなんだわ。これはもしや、ハシルとつがいになったことの効果か?」
「まだつがいになってないんだから違うだろ」
「『まだ』ということは、いずれつがうつもりはあるのだな!?」
「そういう意味じゃないっての」
時と場所を弁えずに抱き着いくる白銀髪の少女ルカラスを引き剥がし、俺はそのこめかみを拳で挟んで落ち着かせてやった。
振り返って青奥寺たちの様子を見ると、今の漫才に反応する余裕もないようだった。皆疲れたような顔でぐったりしていたが、Sランクモンスターの圧倒的な力を間近で見てあてられてしまったのだろう。
代わりに白い靄人間のメンタードレーダ議長が、ゆらゆらと全身を揺らしながらやってきた。
『とても素晴らしいものを見せていただきました。あの『サタン』というモンスターも恐るべき力を持っていましたが、それを圧倒するミスターアイバの力は底が知れませんね。あれほどのエネルギーを一人の人間が生み出して操れるということに驚愕いたしました』
「自分は色々と事情がありますので。それより援護ありがとうございました。楽に戦えましたよ」
『大海に水を一滴投げ入れているようなものだった気がしますが、お役に立てたのなら嬉しく思いますよ。しかし魔導銃に関しては、アンドロイド兵が持っている強力なタイプの配備を進めないといけませんね』
「上位のモンスターだとあれでないと通じませんからね。逆に言えば、さっきの『サタン』以外ならあれで十分通用します」
さて、『サタン』が消えた後には、虹色の宝箱が残されていた。最上位の宝箱だが、早くも再起動した双党とレアが俺の方をワクワク顔で見てきたので許可をしてやると、2人は争うように走っていって宝箱を開けた。
「ん~? なにこれ?」
「大きな鍵みたいに見えまぁすね」
2人はパタパタと走って戻ってきて、俺に出てきたものを渡してきた。
それは確かに、古い時代の鍵のような形をした道具だった。形は鍵だが、長さが30センチくらいあり、ズシリとくる重さがある。ミスリル製に見えるので魔導具かもしれない。
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次元の鍵
次元の扉を開く鍵
開かれた扉は、別の開かれた扉とつながる
つながれた扉の間の距離は全て無視される
なお、この鍵は、次元の扉のある場所で自動的に使用される
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あ、これヤバい奴だ……と直感し、『空間魔法』に放り込もうとした瞬間、手の中にあった『次元の鍵』が発光し、すごい勢いでボス部屋の奥の壁にすっ飛んでいった。
「オウ!? 先生なにをしたんでぇすか!?」
「なにもしてない。勝手に動き出すやつだったみたいだ」
レアに答えつつ、仕方なくなりゆきを見守ることにする。
発光するカギはそのまま壁に突き刺さると、ズブズブと壁の中に沈んでいく。同時にその場所を中心にして、壁を形作っていた石材が、次々とその奥に吸い込まれるように消えていった。
そして奥の壁を構成していた石材がすべて消え去ると、そこには黒い穴が残された。穴といっても、それはあの『次元環発生装置』のそれと同じように奥は見通せず、ただ黒い壁がそこにあるだけにも見えるものである。
その変化に、その場にいたほとんどの人間が驚きの声を上げた。
新良が、アームドスーツのリストバンドを操作しながら俺に近づいてくる。
「先生、センサーによると、目の前の現象は、異世界や『はざまの世界』に行った時に通った『次元環』に近いものだと出ています」
「さっきの鍵は『次元の鍵』って名前だったから、目の前の穴はたぶん『次元環』に近いものなんだろうな。ただ微妙に違う気もするんだが……。ルカラスはわかるか?」
「うむ、似ているが『次元環』とは違うものだと我も思うぞ。『次元環』とは異なる世界をつなぐものであろう? これはそうではなく、同じ世界同士をつなぐものではないか?」
「転移装置みたいなものだということか?」
「そうだ。これほど巨大なものは見たことがないが、そう考えるのが一番近いのではないか」
そういえば、『次元の鍵』を『アナライズ』した時に「距離を無視する」なんて説明が出ていたな。とすると、確かに目の前のこれは巨大な転移装置なのだろう。一応この穴も『アナライズ』しておくか。
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次元の扉
別に開かれた次元の扉と、距離を無視して接続される扉
なお現在のところ、この扉以外の次元の扉は開いていない
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なるほどやはり『転移装置』と同じ類のもののようだ。とすると、さっきの『サタン』は一回限りのボスで、俺たちはまんまとこの転移装置を作ることに協力させられたという可能性が高そうである。
誰に協力させられたのか……というのは言うまでもないだろう。このダンジョンを設置した奴である。
もっともこのダンジョンは放っておいたら無限にモンスターを吐き出し続けただろうし、攻略しないわけにもいかなかった。結局このダンジョンが作られた時点で『詰み』だったわけだ。
「もしかしたら地球にも同じものを作ろうとしていたのかもな」
「どういうことですか?」
新良が光のない目を向けてくる。
「地球にもゼンリノが来ていて、『クリムゾントワイライト』の幹部スキュアの力でダンジョンを作ろうとしてただろ? あれも放っておいたらここみたいなダンジョンになったんじゃないか」
「なるほど……。しかしそうなると、この穴はなんのためのものかということになりますが――」
そこでメンタードレーダ議長が、念話で話しかけてきた。
『この奥から、あのゼンリノ師という人物が発していたものと同じ力をかすかに感じます。ミスターアイバの言う、「魔王」の力ということになるでしょう』
まあそうだよなあ。
俺は全身が脱力するのを感じつつも、奴との決着が近づいていることを強く感じるのだった。
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