「ささ、どうぞ精霊様、巫女様。ささやかですが我が里の馳走を用意致しました!」
私達はタニクゥさん達に案内されて、隠れ里へと案内された。
そして大量の水を提供してくれたお礼として、料理を振る舞われていた……んだけど。
「不味い」
「不味いニャ」
さっそく残念精霊と残念猫が言わんでもいいホントの事をぶちまけてくれた。
「「「「も、申し訳ございません精霊様ぁぁぁぁぁ!」」」」
ほらー、里の人達がショックを受けちゃったじゃん。
「不味い物は不味いのニャ」
「そーそー。やっぱカコのご飯じゃないと駄目ねー」
止めろ止めろ。そこで私の名前を引き合いに出すな。逆恨みされたらどうしてくれるの。
お前等に人の心はないのか。
「ネッコ族ニャ」
「大精霊だし」
くっ、人間じゃなかった!
「「だからカコのご飯が良い」のニャ!」
「はいはい」
結局そうなる訳ね。まぁいつもの事だけど。
「そ、そんな、巫女様に料理をさせる訳には! すぐに作り直させますので!」
「良いから良いから」
「キッチンに案内するのニャ!」
すっかり勝手知ったる我が家のノリでキッチンに案内させる残念精霊とニャット。
「しゃーない、作りますか」
キッチンに案内してもらうと、私は食材をいくつか用意して貰う。
「と言っても、隠れ里の状況を考えると、素材を馬鹿みたいに使えないしなぁ」
私の料理の秘密は合成スキルによる素材の高品質化だ。
水だけでもこんなに困ってるんだから、食料だってあまりないだろう。
「どうしたもんか」
「肉がいるならニャー達が狩ってくるのニャ!」
「すぐ獲って来るから待っててね!」
言うが早いかニャット達はあっという間に外へとカッ飛んでいく。
そして少しすると、何匹もの魔物を抱えて戻って来た。
「って、もう帰って来た!」
「飯の最中で腹が減ってるからさっそく頼むニャ!」
そのままニャット達は里の人達をキッチンから追い出すと、私の料理風景を見れないようにしてくれる。
「はいはい。ちょっと待っててね」
この短時間で食材を用意してくれたんだし、ちゃっちゃと作りますか。
「そんじゃ、合成!」
私は同種の魔物食材を合成して品質を向上してゆくと、すぐさま調理に入った。
◆
「おおーっ! これは素晴らしい!!」
改めて料理を作った私達は、それを里の人達にも振舞っていた。
最高品質となった食材で作った料理を口にした彼等は、誰も彼もが大絶賛。
「まさか里の周辺で手に入る食材がこれほど美味くなるとは!」
うん、イカサマなんだけどね。
でもまぁみんな喜んでくれてるしいいよね。
「精霊様が里においでくださっただけでなく、このような美味い食事まで頂けるとは! 今日はなんと良い日じゃ!」
「精霊様ばんざーい!」
「巫女様ばんざーい!」
すっかり美味しい料理で気分が良くなった里の人達は大騒ぎだ。
まぁ少し前までは水が手に入らず大変な状況だったみたいだしねぇ。
「うーん、やっぱカコのご飯が一番よねぇ」
そんな風に皆が安堵からご飯を楽しんでいると、残念精霊がまったりとした様子で呟く。
「そりゃどうも」
そしてプカプカと宙を浮きながら、私の上にもたれかかって来る。
いや待て、色々と重量物が私の頭に乗ってるんですけど? もしかして宣戦布告ですかこの残念精霊。
「ところでさ」
けれど残念精霊は私の内心の臨戦態勢など知らぬかのようにのんきな口調で話し続ける。
「さっきのヤツ、私もやりたかったな」
「さっきのヤツ?」
はて、何の事だろう? 長がとった乾杯の音頭の事? それとも子供達が料理に燥いで踊りだした事?
「ほら、さっきカコ達がこの郷の子達に名前を名乗ったでしょ。アレ」
「さっきの挨拶? すればいいじゃない」
「だって私名前がないもん」
「名前が無い?」
ええ? そんな事ってある? だって名前だよ!?
「私達は人と違って名前って概念がないのよ。水の精霊とか、あとはあなたとかきみで事足りちゃうの」
「それだと誰の事か分かんなくなって混乱しない?」
だって水の精霊だけでも沢山いるだろうし、沢山水の精霊が居る所で水の精霊さーんって呼んだら全員はーいって答えちゃうよ?
「私達精霊はそれだけで誰の事を言っているのか理解できるのよ。それこそアレ、ソレでも通じるのよ」
マジかー、文字通りのツーカーの仲じゃん。
「だから人間達みたいに個を指す名前ってないのよね。だから欲しいなー」
ほう私に名前を付けろとな?
言っておくが私は自分のネーミングセンスに自信があるぞ。
生まれて初めて飼った犬にポチ太郎って名付けたら、喜びのあまりゴロンとひっくり返ってヒャンヒャン鳴きだしたくらいなんだぞ!
他にも小学校で授業の一環としてメダカを飼う事になった時、クラス全員分のメダカが用意されて、自分のメダカに名前を付ける事になったんだけど、その時のメダカにメデ吉って名付けたら、よっぽど嬉しかったのか水槽内を猛スピードで泳ぎ回って何度も水槽から飛び出した程なんだからね!
正直合成したマジックアイテムとかにも私のスペシャルな名づけをしてあげたかったけど、あれはもう合成した時点で鑑定先生が名前を付けてたしなぁ。
「って事で私に名前を付けて!」
「うーん、名前ねぇ」
ふ、ふ、ふ、良いだろう。私が最高の名前を付けてあげよう。
水の、一応大精霊なんだよね。水の大精霊。水、ウォーター、精霊……ええとエレメンタルだっけ? 大はビッグ。
ウォータービッグエレメンタル。それに女の子だから、ウタ子……うーん、パンチが弱いな。
水……ウォーター、水……ーォター、ミズダ子!!
「ミズダ子ってのはどう?」
うん、これいいかも!
なんか水の生き物っぽいし!
「ミズゥィーダーコゥ?」
けれど残念精霊は微妙におかしなアクセントで反芻する。
「いやミズダ子」
「へぇー、古代語をもじったのね」
「え?」
古代語?
「ミズゥーイは人間達が大昔に使っていた古代語で貴婦人って意味でしょ。で、ダーコゥは大いなるとか包容力に溢れたって意味よね」
「いや、違……」
待って待って、そんな厨二病みたいな含みないから!
「良いわねミズゥィーダーコゥ! 気に入ったわ! 貴方達、今日から私はミズゥィーダーコゥよ!」
「だから違っ」
「ミズゥィーダーコゥ様?」
「それが精霊様のお名前なのですか?」
「そうよ! カコが名付けてくれたの! 私の名前よ!」
「ミズゥィーダーコゥ様!」
「ミズゥィーダーコゥ様!!」
「そうよ! それが今日から私の名前! 契約の名よ!」
そして凄い勢いでミズダ子の名前がミズゥィーダーコゥとして広まっていく。
「い、いや、だからミズダ子……」
「カコォー!!」
皆の間違いを訂正しようとする私だったけれど、そこにニャットが慌てた様子で駆けこんできた。両手に山盛り肉が盛られた皿を抱えて。
「おニャーあの残念精霊に名前を付けたのニャ!?」
「あーいや、正しくはミズダ子……」
「付けたのニャ!?」
「う、うん。名付けて欲しいって言われたし」
実際呼び名が無いといつまでも残念精霊のままだしね。
「な、なんてことをしちまったニャァ~!」
なのにニャットは何故か物凄くショックを受けた様子を見せる。
「え? 何でそんな驚いてるの?」
「フリーの精霊にとって、同意で名前を名付ける事は契約を結ぶ事になるのニャ!」
「え?」
契約? 私が残念精霊と?
「アイツはめっちゃカコと契約を結ぶ気満々だったから、名前を付けた時点でアイツとの契約が成立してしまったのニャ!」
「って、契約!? 私が!? マジで!?」
「マジニャ!」
名前を付けるだけで契約出来ちゃうとか、精霊との契約のセキュリティガバガバ過ぎない!?
「ええっと、契約するとどうなる訳?」
「カコと魔力で繋がって、何処に行っても付いてこれるようになったのニャ!」
うーん、それくらいならまぁ、別に構わないような気も……
「どこに逃げても追いかけてメシをたかって来るようになるのニャ! つまりニャーの取り分が減るのニャ!」
あー、そう言う意味で嫌なんだ。
「ふっふーん、遂に正式にカコと契約を結べたわ! これでいつでも力のあるご飯が食べ放題よ!」
「え? もしかしてそのつもりで名前を付けてくれって言ったの!?」
「最初からカコについていくって言ってたじゃない。だったら名前を付けて貰って契約した方が便利でしょ? という訳でこれからよろしくね。私の巫女!」
「カーッ! おニャーに余分に食わせる飯はニャーのニャ!」
「ほーっほっほっ、それを決めるのはカコよ! 私の方が役に立つと分かったら私のご飯の方を大盛りにしてくれるに決まってるわ!」
「そんな訳ニャーニャ! ニャーの飯はいつだって大盛りなのニャ!」
そんな事を言い争いながら、二人の口論は激しくなってゆく。
「っていうか、二人共勝手に大盛りにするじゃん」
けれど、そんな私のツッコミは二人の耳に入る様子はなかったのだった……
「こんの飯泥棒クソ精霊ーっ!」
「私の名前はミズゥィーダーコゥでーす!」
とりあえず長いので私だけでもミズダ子と呼ぶ所存。