「今の光に含まれていた膨大な力を吸ったお陰みたいね! やったわカコ! これで私も王の仲間入りよ!」
「え、ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
後継者の宝珠とエリクサーを融合したら、何故かミズダ子が精霊王になってしまった。なんでや。
「私何もしてないよ!?」
「ニャにかした奴はみんなそう言うのニャーッ! っていうかオニャーエリクサー作っただろーが!」
「それはその通りです!」
しまった、よく考えたら何かしかしてないわ。
「さぁ、全部吐いてもらうのニャ!」
「ま、待って待って、近いちか……ん?」
ニャットの圧に思わず仰け反った私は、ふわりと何かが体に触れる感触に振り返る。
するとそこには見たこともない沢山の草花が生い茂っていたのである。
「うわぁなにこれ?」
色とりどりの花は赤や白や黄色やピンク、珍しいものだと緑や青や金色って金色!?
「うわマジで金色だ。何これ純金の花?」
更に草も大きく育っていて、まるで真夏の野原のように伸びている。
「さっきまで背の低い草がまばらにある程度だったのにまるで草原みたいになってる」
いったいどういうこと?
よくよく周囲を観察してみるとさっきまで生えてなかった大木まで生えてるんだけど?
「もうわけわかんないよ!」
何でエリクサー作っただけでこんなことになるの!?
「これらの草花が活性化したのは今の光のお陰です」
と、そんな私の疑問に誰かが答えてくれた。
「って誰ーっ!?」
声に振り返れば、そこにいたのは何人もの美男美女。
しかも全員が燃えてたり水だったり半透明だったり体が岩で出来ていて……
「ってホントに誰――――っ!?」
何か知らん人達が増えてる!?
「我々は貴方様の光のお陰で力を授かった者です」
「力を授かった……?」
いやミズダ子がパワーアップしたからそれは分かるけど誰なのマジで?
「この子達はさっきからいた精霊達よ」
「ええ!? 精霊達!?」
あの小さくてふわふわしていた精霊達がこんなご立派に!?
「はい、お陰様で我々も大精霊に進化出来ました」
「大精霊に!?」
ええと、大精霊って事はミズダ子と同じレベルって事だよね!?
「大精霊ってそんな簡単になれるものなの!?」
「なれるわけないでしょ。精霊が格を上げるって大変なんだから。それこそ一生格が上がらない精霊だってザラよ。それにこの子達は以前の私と同じと言っても力は天と地の差だけどね。私は精霊王になりかけの大精霊でこの子達はギリギリ大精霊に足を突っ込んだくらいだから」
と、ミズダ子がかつての自分はもっと凄かったとドヤ顔でアピールしてくる。
「そういうものなんだ」
「そういうものなのよ!」
「そういうものなのです。ですから我等一同貴方様には心から感謝しております」
「「「ありがとうございます」」」
精霊達が膝をついて私に感謝の言葉を述べてくる。
「ちょ、別に大したことしてないから、そんな大げさにしないでよ!」
明らかに人間じゃないイケメンや美女に傅かれるとか、こんな光景誰かに見られたら変な勘違いされちゃうよ!
「ご謙遜を。我等大精霊一同、貴方様に深い感謝と尊敬をしております」
「同じ事言ってる! っていうかさ、なんか皆口調が変わってない?」
「精霊って格が上がると知性も上がるの。そうなるとこの子達みたいに口調を変える事って結構あるのよ」
「え?」
じゃあ、今、目の前にいる、自称大精霊で、今は精霊王を名乗ってる、ヤツは?
「私は己を確立しているから! いちいちキャラ付けとかしなくても揺るがないのよ!」
そんな事を言いながらエッヘンと胸を張るミズダ子。
成程、アホの子の魂百までってことか。
「はぁ、とにかくさっきの光で皆パワーアップしたって事だね」
「そういう事ね!」
「その通りです」
精霊って気軽にパワーアップするんだなぁ。人間もこのくらい気軽にパワーアップできたらいいのに。
「そんな話はいい加減どうでもいいから、何をしたか白状するのニャ」
グイッと割って入って来るニャット。
ヤバイ、話題が変わって助かったと思ったけどあんまり助かってなかった。
「ええとですね……」
観念して何をやったのかを白状すると、ニャットは深い溜息と共に額に肉球を当てる。
あの肉球にプニられたら気持ちよさそうだなぁ。
「お待ちを、人間達が近づいて来ています」
「え?」
言われて大精霊達の視線を追えば、遠くから馬に乗った集団が近づいてくるのが見えた。
「アレは騎士団だニャ。さっきの光を見られたのニャ」
「騎士団!? なんか面倒なことになりそうだから逃げよう!」
「やれやれ、しかたニャーのニャ」
近づいてくる騎士団を背に、私達は慌てて逃げだしたのだった。
◆騎士団◆
「何だあの光は!?」
ある調査をする為に国内の水源を調査しにやってきた我々は、突然現れた天へと上る光の柱に遭遇した。
「すぐに確認に行くぞ!」
馬を走らせていると、光が収まってゆく。
「場所は確認できたか!」
「おおよその位置は!」
近隣の地理に詳しい部下が光の柱が立ちあがった場所へ我々を誘導する。
「隊長、何か居ます!」
部下の言葉に隊の魔法使いが視覚強化の魔法を我々にかける。
「なんだ……あれは」
強化された視界に入って来たのは、信じられない光景だった。
光り輝く女神のような女性とその周囲に全身が炎や水で出来た人間達がひれ伏している。
「あれは……まさか大精霊!?」
「大精霊だと!?」
部下の言葉に我に返る。
確かに全身が水や炎で出来た人間などいるわけがない。
「信じられない。大精霊があんなに……」
「本当に大精霊なのか?」
大精霊と言えば歴史上数えるほどしか確認された事がない存在だ。
自然の化身とも言われ、たった一体で凄まじい力を行使するのだと。
「隊長、もしかしてここ最近町で起きている事件ってあの大精霊達が原因なんじゃ……?」
部下の言葉に私はこのところ我が国で起きている奇妙な事件を思いだす。
我が国はここ数年謎の水の汚染によって川や井戸、更には空気がおかしくなっていた。
水はまともに飲めず、水魔法使いの出した水頼り。さらに空気がおかしくなったせいで町の外の少しでもまともな空気の場所に避難しないと長時間居続ける事も出来なくなっていた。
国の偉い学者達が水源から水を調査したが、原因は不明と言われていた。
魔法使いを雇う代金、具合が悪くなる民達、国から逃げ出そうとする者が続出したのは言うまでもない。
だがそんな状況がここ一ヶ月の間に大きく変わることになる。
なんと汚染された水と空気を浄化するポーションが出回るようになったのだ。
久しぶりのまともな水と空気に皆大喜びした。
それとほぼ同じタイミングで信じられない出来事が起きた。
町が洪水に襲われたのだ。
だが何故か被害に遭ったのは黒い噂のある人物達の屋敷や商会ばかりだったのだ。
この奇妙な事態に誰もが首をひねったが、答えは出る筈もなく人々は精霊が悪党を退治してくれたのだと噂するようになった。
流石にただの噂だと思っていたが、怪しい者達の住処が洗い流されたのは事実であり、そして今向かっている先に精霊達の姿があるのも事実。
「まさか本当に精霊の仕業だったのか……」
「しかしあの光る美人は一体何者なんでしょうか。精霊達が跪づいてますし、まさか女神様?」
流石にそれはない……と思いたい。
「あれ? 待ってください、精霊達の中に子供が居ます」
「子供? その子供も精霊か?」
「いえ、普通の人間の子供です。ただ凄く可愛いです。あれ? 精霊達が膝をついているのは光る美人じゃなくて子供の方?」
精霊、いや大精霊が子供に膝をつく? 流石に勘違いじゃないのか?
「あっ、気付かれました!」
だが我々が疑問を解く前に、精霊達は我々に気付くと驚くべき速さで去ってしまった。
「今見た光景を記録しておけ。精霊の数もな」
「はい。後精霊達が去る時、子供をネッコ族らしき大型のネコが運んでいきました」
「ネッコ族?」
なぜあんな場所にネッコ族が? それともネッコ族の姿をした精霊か?
「そう言えば聞いたことあります。町の水を綺麗にする浄化のポーションを売っていたのは、小さな女の子とネッコ族の二人組だったと」
「小さな女の子とネッコ族の二人組?」
あまりにも辻褄が合い過ぎる情報で逆に疑いの感情が湧きあがってしまう。
しかし今見た光景と情報が一致する以上、報告の義務があるだろう。
そうこうしている間にも我々は精霊達が去った場所、光の柱が立ち上った場所へと到着する。
「なんだこれは……」
それは信じられない光景だった。
この辺りはほとんど荒野のような場所だったのに、ここだけ色とりどりの草花や木々が青々と生い茂っていたのだ。
「信じられない。ロランツァの花とセンデリアの花が一緒に咲いている!?」
「何がおかしい? どちらも珍しい花ではなかろう?」
「いえ、明らかにおかしいですよ。ロランツァの花は夏の花。対してセンデリアの花は冬の花です」
言われてみれば確かに。改めて生い茂る草花を見ると、違う季節の花が咲いていると分かる。
「それに薬草が何種類も生えている。これらの薬草は生息環境が違うのに……」
我々外周りの騎士は魔物との戦いで負傷した際に薬草を採取して治療を行う事がある。
その為この部下のように薬草に関する知識を持つ者が少なからずいるのだが、そんな部下から見てもここに生えている薬草はおかしなことになっていたようだ。
「しかしこの金色に光る花はなんだ? 本当に花なのか?」
薬草に詳しい部下も知らない花となると気になるな。
「慎重に採取しろ。後で調査に回す」
「はっ!」
だがこの花を調査した結果、さらに驚くべき事実が我々を襲う。
「伝説の花?」
「は、はい。この花こそ建国神話に出て来た女神の花、エルフリーデンです!」
エルフリーデン。伝説に語られる女神が降臨した地に咲いたとされる光輝く花の名だ。
「目撃報告は数百年に一度とされ、花の蜜は非常に希少なポーションの材料になるとされる花です。現存する花は内部の時間を止める古の魔法の袋に厳重に保存されているそうです」
「と、とんでもない花だったんだな。い一体いくらになるんだ?」
「値段!? そんなものつけようがないですよ! 生涯手に入らないのが当たり前の花です。国に差し出せば爵位が二つあがり、売れば大貴族の身代が傾くとまで言われる品ですよ!
この事が知られたら国中の、いえ近隣の国から売ってくれと人が殺到することになります!」
「さ、流石にそれは大げさな……」
そう言った私だったが、翌日、町に殺到した無数の人間達が領主の館に殺到したのを見て大げさでもなんでもなかったのだと思い知るのだった。
「「「「エルフリーデンを売ってくれー!」」」」
調査を再開しないといけない我々だったが、あまりにも町、いや領主の館に人が殺到し過ぎてそれどころではなくなってしまったのである。
「というか、何で昨日の今日で情報が知れ渡ってるんだー!」
結局あの精霊達と少女は何者だったんだ……