「では行きます!」
「「「「……」」」」
私が宣言をすると、人魚達が固唾を飲んで見つめてくる。
「ほっ!」
その視線の中、私は大きく洞窟の地面から海に向かってジャンプした。
そして空中で足をふんっ! と踏みしめる。
すると……
「「「「おおおおおおっ!? 止まったぁぁぁぁぁ!?」」」」
そう、私の体がピタリと宙に浮いたのだ。
「あっ」
ただし一瞬だけ。
そしてそのまま海の中に落ちる。
「ごぼぉっ!?」
「カコ!!」
海に落ちた私をすぐさまトルク達が引き上げる。
「げふっ、ありがとう」
「どういたしましてだ。それにしてもスゲェなその靴! 本当に宙に浮いたぞ!」
「一瞬だけどね」
「それでもスゲェって!」
そうなのだ。私は宙に浮いた。
しかしそれは魔法を使ったからじゃない。
その秘密は私が履いているこの靴だ。
勿論マジックアイテムとかじゃない。
秘密は人魚達から貰った空の魔物の素材にある。
人魚達の治療を終えた後、彼等からお礼として空の魔物の素材を貰った。
骨や魔石だけになってるのによく見分けがつくなと思ったんだけど、どうやら人魚には海の魔物と空の魔物の素材の見分けがつくらしい。どう違うのかと聞いてみたら……
「いや艶が違うだろ」
うん、全然わかりませんでした。
ちなみに素材の内訳は雲イルカ、雲イワシ、雲サーモン、雲マグロ、雲マンタの五種類の魔物素材だった。
……雲イワシだけ生態系ピラミッドの下位っぽいなぁ。と言うかファンタジー美食漫画に出てきそうな名前で美味しそう……
ともあれ素材を貰ったのなら最初にするのは合成だ。
私は素材を魔法の袋に入れると、人魚の郷から出て合成を始める。
「まずは雲イルカの魔石を一括合成! そして鑑定!!」
いつも通りに合成を繰り返し、鑑定を行う。その結果……
『雲イルカ変異種の魔石:希少な変異種の魔石。風属性。錬金術で靴と合成すると宙に浮く効果を得られる』
「ほわぁぁぁぁぁぁ!?」
ままままマジかぁ!!
宙に浮くってつまりアレですか!? 空を自由に飛べちゃうの!?
うぉぉぉぉぉ、これは是非とも試してみなくては。
「と言う訳でレッツ合成チャレンジ!!」
私は靴を脱ぐと、さっそく雲イルカ変異種の魔石と合成する。
その結果出来上がったのが……
『高品質な令嬢の靴:高品質な革を使って作られたオシャレな靴。貴重な染料を使って可愛らしい色に染められた上流階級のお嬢様御用達の逸品。歩きやすい様職人が技術の粋を凝らして作られている。雲イルカ変異種の魔石の力で弱い移動速度の向上と極短時間の空中歩行が可能』
「やったー! 大成功!! よーし、それじゃあ実験開始だ!!」
という経緯があって、私は見事宙に浮きあがり、そして海に落ちたのだった。
いやー、凄いね魔法のアイテム!!
一瞬だったけど確かに宙に浮いたよ!!
「でも一瞬なんだよなぁ。もっと長く宙に浮いている事は出来ないのかな……」
などと思いながら靴の説明文を見直していた私はある部分に気付く。
「極短時間の空中歩行が可能……って事は歩いている間は宙に浮いていられるってこと?」
ありえる。さっきはジャンプしたらそのまま止まっていたから墜ちたのかも。
「よし、もう一回チャレンジだ!」
「「「「おおー! 頑張れよー!」」」」
周りで見ていた人魚達はお祭り気分で私のチャレンジを眺めている。
まぁ実際マジックアイテムのお披露目なんてお祭りみたいなもんか。
「ではいっきまーす!」
私は再び空に向かって飛びあがる。
「一歩! 二歩! 三歩!!」
「「「「おおーっ!! 歩いたぁー!」」」」
なんか赤ちゃんが初めて歩いたみたいなノリだけど、確かに私は歩いている。
「おっとっとっ」
「「「「ああっ!?」」」」
一瞬考え事をしたせいで歩みが止まってしまい、体がぐらつく。
「よっとぉーっ!」
慌てて足を踏み込むと、足の裏に地面を踏んだ感触が生まれ、再び宙を歩き始める。
「「「「ほっ」」」」
私が落ちずに済んだ事で人魚達がホッと息を吐く。
そのまま数十歩歩くと、私は地面の上に戻って来た。
「実験成功!!」
「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」
「いやぁ、凄いなお前さん!」
「本当だよ。薬を作れたりマジックアイテムを作れたり、とても子供とは思えないよ」
「寧ろ妖精なんじゃないのか? 小さいし」
いや待てや。誰だ今子供とか小さいって言ったヤツは!?
しかし犯人を捜しだす前に私は人魚達に担がれわっしょいわっしょいと胴上げを始められてしまった。
ひえぇぇぇ、胴上げって意外に怖い! 浮いてる! 浮いてるぅ!!
自分で浮くんじゃなくて他人に浮かされるのって超怖い!!
その後も私は、合成作業を繰り返していた。
というのも私の靴の実験を見た人魚達から自分達にもマジックアイテムを作って欲しいと頼まれたからだ。
「俺達は弱い海の魔物なら人間以上に戦える自信があるが、巨大な魔物が相手だとそうもいかん。海には地上以上に大型の魔物が居る所為で隠れる場所のない少ない地形や外洋は危険なんだ」
成程、確かに地球でも海にはシロナガスクジラみたいな超大型の生き物がいるもんね。
それが魔物なら地上以上の脅威なんだろうなぁ。
とはいえ、私はマジックアイテムを一から作れないんだよなぁ。
どうやって誤魔化そう……あっ、そうだ!
「えっと、ここだと武器を作れるような工房が無いので一からマジックアイテムを作るのは無理なんです」
「そ、そうなのか……」
望みが断たれてガッカリとする人魚の戦士達。
「その代わりに皆さんの武器を強化するという事なら可能ですけど……どうします?」
「「「「是非っ!!」」」」
うわっ、ビックリした。
「一からマジックアイテムを作るよりは弱いですけどそれでも良いんですか?」
「今より良い武具が手に入るのなら全然問題ない!」
「よろしく頼む!!」
と言う訳で人魚の戦士達からの依頼を受ける事になりました。
人魚さん達もけっこう切実な状況なんだなぁ。
「礼なのだが、我々は人族の金と言うものを持たない。海で採取してきた魔物素材などでも良いだろうか? 勿論武具を強化する為に必要な素材があればすぐに取って来る」
「はい、全然かまいませんよ。珍しいものなら何でも持ってきてください」
おっしゃ、タダで合成の練習素材が手に入る上に素材までゲットですよ!!
なんて事をしながら私は人魚達との日々を過ごしていた。
そして数日が過ぎたある日……
「人族の船が来たぞ!!」
遂に迎えと思われる船が来たのだった。