【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第101話 総力戦②……?
スーッ……遅くなって本当に申し訳ありません。
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「———ゼロ」
「あいよ」
アウレリアさんと教皇の一撃によって巻き起こった爆発の中、再生コンビである俺とエレスディアが迷うことなく爆発に飛び込んで先陣を切った。
生憎視界がなくとも気配や魔力反応によって位置を特定できる人外レベルに達してしまったため、迷うことなく一目散に教皇の下に行ける。
「盛大にぶっ放すわよ」
「りょーかい」
お互いに肩が触れるほどの距離まで近付くと。
「「【穿突】」」
漆黒と真紅の剣が輝き、全てを穿つ一撃を放つ。
空気を穿ち、粉塵を穿ち、距離を穿って———教皇の首を穿たんと牙を剥く。
しかし、繰り出した刺突はフッと消えた教皇の残像を穿ち、
「フッ、視えているぞ?」
俺の真横に、ニヤッと笑みを浮かべた教皇が音もなく現れる。
ただ、この程度、想定範囲内だ。
「ばーか、こっちもだよ」
ニヤッと笑みを返す俺の右手の白銀の剣が光り輝く。
同時———神速の速度で剣が振り抜いた。
「【閃剣】」
速度で言えば、穿突をも上回る全剣技最速の一撃。
その一撃を超至近距離から受けた教皇は、僅かに目を見開いて口元を動か———。
「———アタシらを忘れてねぇか?」
「!?!?」
教皇の背後に躍り出た姉御が紅蓮のオーラを纏った三叉槍を撃ち出す。
正確無比な一撃は教皇に運命を弄らせる時間を与えない。
———ズドンッッ!!
大凡人間に当たったときには出ないであろう轟音と共に、三叉槍が教皇に突き刺さる。
更に三叉槍から紅蓮のオーラが噴き上がり、教皇の身体を消滅させていく。
俺とエレスディアはそんな凶悪な攻撃に肝を冷やしつつ、発生した衝撃波に身を任せて距離を取ると。
「【万剣豪雨】」
悠然と宙に浮かんだクライスが、膨大な神力を迸らせながら腕を翳して唱える。
———ズドドドドドドドドドッッ!!
クライスの号令により、俺達と入れ替わるように空より超高速で飛来した剣達。
その圧倒的物量によって教皇の全身を刺し貫き、杭の如く押さえつける。
さながら剣の雨のようだった。
「クライスの奴、えっぐい技使うな……絶対痛いぞ」
「そうね、突き刺さったままだから再生も遅くなるわ」
何て再生話も程々に、俺達も間髪入れず磔にされた教皇に肉薄する。
反対側からはアウレリアさんが眩くも温かい光に包まれた剣と共に接近しようとしていた。
———だが。
「【過去の女神】」
何処か神々しくて、あまりにも無慈悲な声が辺りに響く。
同時に教皇の背後にあった時計の針が『カチッ、カチッ』と音を立てたかと思いきや……。
「…………マジかよ」
俺達の立ち位置以外の全てが戦う前の状態に戻っていた。
そして、まるで何事もなかったかのように無傷な教皇が悠然とした笑みを浮かべつつ立っている。
「フフフッ、私にこの力を使わせるとは……中々やるではないか」
「おい、チート騎士以上のチーター現れたんですけど。どうなってんだよ」
反射的に愚痴を零してしまうが、仕方ないと思う。
俺達はアウレリアさんの力で何事もなかったが、それ以外が完全に元通りに鳴っているのを鑑みるに……多分過去が修正されたのだろう。
———攻撃が始まらなかった、という過去を創り上げられたのだ。
何というチート。
散々カーラさんをチート騎士と言ってきたが、これはもうそこらのなろう系のチート主人公や勇者達よりよっぽどチートな能力ではないだろうか。
何て俺達が怯んでいたその時———青白い雷光が俺達の頭上から幾つも飛来する。
しかし次の瞬間には雷の軌道がねじ曲がり、宙に浮く剣に落ちた。
———ピシャアアアアアアア!!
「うるさっ!?」
安堵したのも束の間、俺はあまりの五月蝿さに耳を塞ぐ。
だが、塞ぐのが遅かったらしく、ちょっと耳がキーンとしている。
そんな耳鳴り中の耳に、何処かのキザな男の甲高い高笑いが聞こえてくる。
「フワーッハッハッハッ、僕に雷は効かないよ! 何と言っても、僕も雷を多少使えるから、剣に雷を纏わせれば雷を引き付けられるからね! これが避雷針ならぬ避雷剣さ!」
え、避雷針ってそんな原理だったの?
てかこの世界にも避雷針があるんだな。
「クライスお前……実は頭良かったんだな! ただのアウレリアさん大好き馬鹿じゃなかったのか!」
「ふっ、ゼロよ……僕はミス・アウレリア大好き馬鹿なのではない! ミス・アウレリア愛してる馬鹿だ!!」
「そんなのどっちでも良いわ! でもありがとう、お陰で痛くならなくて済んだ!」
「どういたしまして!」
何て明らかに場違いとしか言えない軽口を叩き合う俺達を見て、今まで笑みを絶やさなかった教皇が始めてピクッと眉を痙攣させた。
その様子に俺は訝しげに眉を潜め……スラングがケラケラ嗤い出した。
『カハハハハハ、そう言うことかァ!』
『お、おい、どういうことだよ……教えろよ』
『嫌だ。馬鹿なテメェ説明すんのも面倒だし———ちょっと貸せ』
そう言うと同時、俺の意識が引き剥がされると。
「ケケケッ、オレには分かってるぞォ……テメェは攻撃手段がもう【神雷】しかねェってことはなァ?」
「「「「!?」」」」
「……っ」
スラングが俺の口を借りて話し始める。
突然俺の雰囲気や口調が変わったことにエレスディア達が驚いているが……まぁ後で説明すれば良いか。
何て達観する俺を他所に、俺の身体を使うスラングが、俺を険しい表情で見つめる教皇にニィィィと口を歪める。
「ケケケッ、道理でおかしいと思ったぜェ。さっき死んだ男が契約なんざ言っていたが……あんなのまやかし、全くの嘘だな? そも、テメェの正体は———」
「———オレの力を研究した魔法使いか何かだろォ?」
そこまで言われると、流石の俺でもピンとくる。
いや、俺が実際に使ったことがあるからこそピンときたのだ。
だから、エレスディアを始めとしたスラングの力を知らない者達にはきっと話の意味が分からないだろう。
「大方、オレが数百年前に【魂喰】で喰らいまくってた時に見て、原理に気付きでもしたのかァ? ケケケッ、大層な観察眼に才能だぜェ……オレの力を契約なしに模倣するどころか、自分好みにアレンジまでしてんだからなァ。それで神まで吸収しやがったのか?」
「…………」
「ケケケッ、沈黙は肯定の証だぜェ? 効果は……魂の吸収と譲渡に力の抽出を加えやがったってところかァ……。———ケケケッ……カハハハハハハハハハ!!」
「ゼロ……?」
俺の身体を使うスラングが顔に手を当てて天を仰ぎながら大声で嗤う。
これには流石のエレスディアも、心配そうに眉尻を下げて俺を見つめながら呼びかけてくる。
そこで俺は返事をするべく取り戻……取り戻そうと……。
『お、おい、スラング……何で戻れないんだ?』
「ケケケッ、すまねェなゼロォ。それはオレの別次元にいる本体の魔力を使って、テメェを縛り付けてるからだ」
そう言うと同時———身体はないはずなのに、実際に何か縛られるような感覚が鮮明に感じられるようになる。
恐らく奴の言う通り、俺の魂を何かしらの魔法で縛り付けているのだろう。
それを自覚したことによって感覚に現れたって感じか……ってそんなこと言ってる場合じゃねぇ!
『おい、早く戻せ! 教皇のクソ野郎は俺がぶん殴るんだぞ!』
「ケケケッ、それは出来ねェ相談だ。……おい、ゼロの女ァ」
『ちょっ、おいぃぃ!?』
「ゼロの女!? わ、私のことかしら……?」
ぶっきらぼうなスラングに呼ばれたエレスディアが、若干頬を染めて嬉しそうにしつつも、直ぐに表情を引き締めて目を細める。
「な、何かしら? アンタ……もしかしなくても悪魔よね?」
「ケケケッ、ゼロと違って頭が良くて助かるぜェ」
こいつ後で絶対シバく。
何てやっすい挑発に乗る俺を他所に、2人は会話を続ける。
「何で悪魔のアンタが———ってアンタまさか……!!」
「ケケケッ、落ち着けよ。ちゃんと後でゼロに返してやっからよォ……オレもアイツのことは気に入ってんだ。でもよォ———」
そこで1度言葉を切ったスラングは、少し苛立ちの孕んだ瞳を教皇に向け、不機嫌さを隠そうともしない声色で。
「———神と悪魔の規約を破りやがったのもそうだが……何より、オレの力を勝手に模倣しやがった分際のくせによォ……我が物顔で振るいやがってるそこの女だけは許せねェんだよなァ!!」
同時———膨大な漆黒のオーラと言うより魔力が俺の身体から噴き出す。
今まで俺が使っていたものより遥かに濃くて、暗くて、深い———純粋な漆黒。
「あ、アンタ……」
「っ!? き、貴様……!?」
教皇が初めて声を荒げ、人間離れした端正過ぎる顔を思いっ切り歪めつつ、慌てた様子で神力を練り始める。
そんな教皇を余裕そうに見つめるスラングが、俺とエレスディアだけでなく、アウレリアさん達を含む全員に言い聞かせるように告げた。
「———ケケケッ、悪いが、こっからはオレの戦いだ。誰も邪魔すんじゃねェぞォ?」
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