【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第105話 最終決戦
「———わ、私に最後をくれてやるだと……? 先程まで手も足も出なかった貴様如きが……? フフフフ……フフフフフフ! 面白い冗談を言うではないか」
「冗談だと思いたいならそれでも良いよ。でも、さっきまでの俺だと思ってたら痛い目を見ることくらい、アンタが一番分かってんじゃない?」
必死に笑おうとして酷く歪んだ表情を浮かべる教皇に対して、俺は『もう分かってんだろ?』と含みのある笑みを返した。
するとどうだろう、教皇の顔からスッと表情が抜けるではないか。
案の定俺の指摘が図星だったようだ。
「……不滅者よ、随分と言うようになったの」
「如何せん強くなったら気も大きくなる性分なんでね。気にしてるなら謝るよ、悪かったな、オバサン」
そう俺がニッと口角を上げて挑発したと同時。
「【雷神】」
ピカッと一瞬光が瞬いたかと思えば、俺の頬を一条の雷が掠り、背後の観客席を破壊する。
———ピシャァァァン!
遅れてこの世の終わりかのような雷鳴と破壊音が耳朶を揺らし、空間の揺れが衝撃波となって俺の頬を撫でた。既に頬の熱は冷めていた。
「お、そんなに嫌だったの? 人間やめてるくせに、嫌に人間っぽいんだな。しかもわざわざ威嚇してくるとか……自分の年齢分かってる?」
「……いい加減その口を閉じろ。次はないぞ?」
俺に帯電状態の人差し指を向けた教皇が抑揚のない声で告げる。
それだけで神力が現象となって暴風を生み出し、天候が雷の降る雷雨に。
正しく神を取り込んだ人間に恥じない空間干渉力だ。
少し前の俺ならば逆立ち……それこそ天変地異が起こったとしても勝てはしなかっただろう。
だが、今は違う。
「ふぅ……」
恐怖とは違う、一種の緊張感に強張る身体をほぐすようにゆっくりと息を吐く。
顔に当たる冷たい風と雨を目を閉じて感じる。
ゆっくりと、全身に酸素を回すように息を吸う。
身体が弛緩した。感じていた物全てが頭の中で整理された。
「……よし」
俺はクリアになった視界を開く。
暴風にたなびく灰色の髪が目に入るのも気にせず、一直線に教皇を見据える。
———酷く、小さく見えた。
その瞬間、俺の中で欠けていたナニカが嵌まった気がして……思わず零していた。
「……なんだ、もう抜かしてたのか」
「———っ、戯けがッッ!!」
露骨に顔を歪めた教皇の人差し指から、再び一条の光が放たれる。
神々しくも破滅的な輝きを纏いながらジグザグに空間を駆ける青白い雷。
それは俺の心臓を的確に狙っていた。
———狙っているのがハッキリと見えていた。
俺はその雷を目で追いながら、灰色のオーラを纏った腕を振り上げると。
「【劣化原初能力:再構築・剣】」
刃から柄まで、構築された物全てが灰色で統一されたロングソードがオーラから創られる。
その柄を俺は握り———寸分違わず雷を真っ二つに斬り飛ばした。
音もなく斬られた青白い雷は呆気なく霧散し、辺りに残り火の如く小さなスパークが散る。
攻守交代、次は俺の番だ。
間を空けることなく、俺は軽く地面をタップ。
たったそれだけで爆発的な推進力が発生し、身体が俺の進みたい方向へ、教皇の目の前へと移動する。
今更ながらに後方からタッと軽快な音が静かな空間に響いてきた。
だが、その音が俺の耳に届いたときには———既にやることは終わっていた。
俺は眼前で目を見開いている教皇と目が合う。
その瞳は驚愕や困惑に染め上げられていた。
「き、貴様……」
「俺どうこうより、自分の心配をした方が良いんじゃね?」
「なんだと……? ———は?」
俺の言葉に、何気なく自らの手を見ようとして……まるで砂が散るかの如く風に飛ばされて宙に散る手だったモノを前に、困惑の声を漏らした。
しかし、もう遅い。
1度欠ければ、連鎖的に他の部分も砂の城のように崩れ去っていく。
正しく教皇の身体は砂の城だった。
欠陥部分から形が崩れ、結果的に跡形もなく腕、肩、上半身、下半身、と雪崩のように一気に崩壊してしまった。
後に残るは、静寂ただ1つ。
風は止み、雷は鳴りを潜める。
だが、そんな静寂に俺は一石を投じる。
「なぁ、どうせ死んでないんだろ? 焦らさなくていいから早く戻ってこいよ」
そう言った瞬間、風がある場所を中心に渦のように発生し———再び無傷の教皇が姿を現した。
だがその顔には隠しきれない動揺が居座っていた。
背中の機械仕掛けの時計は半壊し、力なく点滅している。
「ハッ、ハッ、ハァ……ハァ……な、何が起きた……? 貴様、私に何をした……?」
「別に……今までウチの悪魔がやってたことと同じだよ。テメェを斬った、ただそれだけ」
「き、斬った、だと……!? ふ、巫山戯るな……!!」
そう言って大仰に腕を広げた途端、天より幾つもの雷が落ちてくる。
どれも即死級の威力を持った、正しく神の怒りを体現するような稲妻。
時間にしては刹那にも満たない内に俺を消し飛ばすだろう。
「……これはちょっとキツいなぁ」
俺は視界に収まりきらない程の範囲から降り注ぐ雷を眺めつつ、苦笑交じりにポツリと呟いた。
だが、周りには大切な人がいる。
キツいなどと言ってられなかった。
「理不尽な世界め」
俺はそう零したと同時、もう1つ剣を創造してタッと地面を蹴る。
宙に浮かび上がった身体を追うように進路を変えた雷。
まるで生き物のようだった。
気持ち悪ぃ……雷なら大人しく落ちとけよ。
俺は内心毒づきつつ、迫りくる雷を対処していく。
時に打ち消し、時に逸らしてぶつからせて、剣技も織り交ぜながら確実に数を減らしていく。
が、流石にこの量の稲妻を一気に対処するのは無理だったらしい。
「……っ」
3分の2くらい対処した辺りで1つの稲妻が横腹を穿ち、風穴が開くと共にとんでもない電流が体内を暴れ回る。
痛みが頭に直接響く。
視界がチカチカして、全身が燃えるような熱を持つ。
それにより、一瞬。ほんの一瞬だけ動きが止まった。
静止したその瞬間が命取りだった。
———ピシャアアアアアアアンッッ!!
一瞬の時など無限だと言わんばかりに稲妻が一気に俺の身体を破壊し尽くした。
全身が焼き切れ、炭化して消滅していく。
「フフフフフフフ、よいぞ、殺せ、殺してしまえ……!!」
そんな言葉がかすかに聞こえてくる。
だが、今の俺にその言葉を気にする余裕はない。
……クソ痛え……。
俺はそんな思考を最後に———完全に消滅した。
———【劣化原初能力:再構築】。
何てことはなく、稲妻が消えると同時に身体が再構築されて、無傷な状態の俺が宙に再び爆誕する。
一応ちゃんと全身が元通りになっているか確認し、小さく頷いた。
「よし、大丈夫そうだな」
「——————は?」
困惑極まった様子の声が聞こえ、漏らした主———教皇の方を落ちながら向く。
彼女は愕然とした表情で落ちる俺を見つめる。
が、直ぐ様腕を振るって雷を落としてくる。
「おいおい」
俺は呆れ気味に吐き捨て、落下状態のまま真上からの一撃を剣で斬り裂いた。
更に追撃とばかりに降り注ぐ、両手の数くらいの稲妻を見据えると。
「【閃剣】」
閃光が瞬いた。
同時に稲妻が一気に霧散する。
バチッと稲妻の名残のようなスパークが空を駆け、やがて消滅すると共にスタッと地面に着地。
瞳孔まで見開いたままの教皇へと目を向けた。
「あんなおざなりな攻撃じゃ、俺にダメージは与えられねーよ。テメェも遂に底が見え始めたみたいだな?」
「あ、有り得ない……こんなこと……あって良いはずが……!! 貴様の速度があの悪魔をも上回っているとでも言うのか!!」
よく分からないが、過去一くらいに激昂する教皇。
しかも、突然錯乱した様子で『巫山戯るな……!!』とブツブツと呟きながら頭を掻き毟り始めたではないか。
ブチブチと真っ白な髪が何本も何本も千切れるが、お構いなしに更に強く、早く狂ったように掻き毟っていた。
……えーっと……コイツ急にどしたの?
何か俺したっけ……?
俺がしたことと言えば、雷を真っ二つに斬ったのと、教皇が反応を示す前にミリ単位の細かさまで全身を斬り刻んだくらいで……こんな狂乱状態に移行するようなキッカケは何も無いはずだ。
何て俺が全く状況が掴めずオロオロしていると。
『———あの人間はオレを越えるのが目標だったんだよ。それなのに、自分よりテメェが先に越えたからイカれちまったってわけだな。ケケケッ、情けねェ』
『……なんでお前話せるの? え、ホントに何でなん?』
俺の疑問に答えたのは、教皇でも教皇を知るアウレリアさんでもなく……高次元化によって取り込んだはずのスラングだった。
意味が分からないと首を傾げる俺に、スラングはケラケラと嗤う。
『甘ェんだよテメェはよォ。お前の【高次元化】は他の奴らとは違うんだ。———このオレと契約してやがるからなァ……習得が不完全なんだよ』
『は? 完璧に習得…………あ』
そう言えば習得の時、スラングいねぇわ。
俺単体なら完璧でも、スラングとかいう余計な奴が居るから不完全なのか。
『ケケケッ、オレを面と向かって余計な奴呼ばわりするのはテメェくらいだぜェ?』
『この際は確実にそうだろ。何ならお荷物な』
俺はまだ、テメェが俺の身体を奪ったことを許してないからな。
『ハッ、奪われる奴が悪———』
何かウザいことを言ってそうだったので一先ず会話を遮断し、荒い息を吐きつつボサボサな髪の隙間から殺気でギラついた瞳を覗かせる教皇に目を向ける。
とても嬉々として大勢の人間の人生を狂わせた奴には見えぬ、惨めな姿だった。
「……私を見下すな……そんな目で私を見るな!!」
「あっそ。なら、さっさと終わらさせてもらうぞ。これ以上テメェを見てんのは気分が悪いからな」
俺は鈍い輝きを放つ剣を無造作に振るう。
発動させたのは、剣技の初歩技である【飛燕斬】。
音もなく振るわれた剣から音速など比にならない速度を誇る斬撃が飛び、教皇の身体を真っ二つに———する直前、教皇が懐からナニカを取り出すと。
「———そんなはずはない……私がこんな小僧に負けるはずがないッ!!」
身体が上半身と下半身で真っ二つになるのも一切気にせず、教皇は取り出したナニカ———小瓶に入った真っ赤な液体を飲み干した。
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相変わらず更新遅くて申し訳ないです。
あと数話でこの章も完結ですので、引き続きお願いします。
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