【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
最終章第一部 不滅者
第108話 おいこら
「———ゼロ様、ご機嫌は如何でしょうか?」
特に何もすることなく、ぼーっと窓の外を眺める俺に、看護師の女性がやって来ては何百と聞いた言葉を投げ掛けてくる。
俺は辟易とした気持ちを隠し、ゆっくり窓から顔を動かしつつ看護師さんに目を向けると。
「あー元気です、はい。いつも通りピンピンしてます」
「畏まりました。では、何か体調に変化がございましたら、文字通り何時でもお呼びください。例え死の間際でも参ります」
「流石にそれは来ないで!? まずは自分の治療が優先でしょ!?」
「何を仰っておられるのですか?」
それは俺の台詞だよ。
どういう思考を経たらそうなるのか是非とも聞いてみたい。
なんて至極真剣な面持ちで突飛なことを宣う看護師に、俺も真顔になる。
「……過剰過ぎじゃないですか?」
「過剰? そんなことはございません。ゼロ様は我が国の英雄です。全てにおいて優先されなければならないのです。私の命など、貴方様の腹痛より優先度は低いのです。あと、私に敬語は不要ですので、『さっさとしろブタ』くらい言う心意気でお願いします」
「絶対に言いません。それと、ちょっと1人にしてください」
「敬語はなし———」
「ちょっと1人にさせてくれ!!」
「かしこまりました」
頭を下げて何事もなかったかのように出て行く看護師のお姉さん。
対する俺は既に疲労困憊。動いてないのにぜぇぜぇ息を吐く。
も、もう怖いよマジで。
この病院の人達ってどういう教育受けてんの?
教育というか洗脳のレベルなんですけど。
因みに俺がこんな病院に軟禁状態なのは———俺が記憶喪失らしいからに他ならない。
記憶喪失といってもレベルがあるが、どのくらい憶えてないかっていうと、日常生活以外のほぼ全てが頭の中からすっぽり無くなったってレベル。
最初……1ヶ月前なんて、周りからゼロと呼ばれなければ、自分の名前すら分からなかった。
そんな状態からいきなりさっきみたいな対応受けてみろ、心労で死ぬど。
てか俺が国の英雄とか考えられないんですけど。
しかもエレスディアっていう超絶美少女から話を聞けば、俺は何度も死にかけ……いや何回か死んでいるってマジ?
———だが、それよりも信じられないのが1つある。
正直死んだや死んでないは、魔法のあるこの世界ではまだありそうな話だ。
国の英雄ってのも信じられないけど……周りの反応から本当なんだろう。
問題は———。
「———ゼロ? 入ってもいい?」
「あ、エレスディアさんか。はい、どうぞ」
「ふふっ、やっと敬語を外してくれたのね、嬉しいわ。でも……私の名前は呼び捨てにしてくれないの?」
「いやまぁ……善処はするよ」
———目の前の超絶美少女と両想いだったって話だ。
腰まである真紅の綺麗な髪に、力強さの中に優しさや好意を宿す真紅の瞳。
目が飛び出るほどの端整な顔立ちに、健康的ながら女性らしさのある肢体。
身長は俺より10センチほど低いくらいで、総合的に評するなら『気の強そうな美少女』といったところか。
そんな美少女が———記憶喪失前の俺と両想いだってよ。
いやいやホントか? 新手の詐欺とかじゃないよな?
話によると、俺の記憶喪失は彼女と深く関係しているらしい。
なんでも彼女のピンチを救い出したとか。
更に記憶喪失前の俺は、他に3人もの美女、美少女を救っているらしい。
内の1人は何回か此処に来ているので知っているが、彼女もエレスディアに負けず劣らずの超絶美女だった。目ん玉飛び出た、普通に。
いやどんな主人公だよ。
そんなのラノベでも見たこと…………ラノベ……?
ごめんごめん、ラノベってなんぞ?
まぁええか。
俺は考えるのを止め、俺のベッド横にある椅子に座った美少女———エレスディアを眺める。
何度見ても度肝を抜かれる美少女っぷりだ。
さっきの看護師のお姉さんも顔は整っていたが、ちょっとレベルが違う。
「どうしたの?」
「……いや、何でもない」
「こらっ、顔を逸らさないで。どうせ私が綺麗だって思ったんでしょ?」
俺の両頬に手を添え、自らの方に優しく向けてくる。
彼女の手に従って頭を動かせば、少し誇るように微笑むエレスディアの顔が直ぐ近くにあった。
嬉しそうに輝く真紅の瞳が此方を覗き込んでいる。
この美少女……中々やりおる。
俺が疑り深い男じゃなかったら落ちてた。
いや、記憶喪失前は好きだったらしいし落ちてるのか?
「なにか下らないこと考えてるわね?」
「な、なぜにバレた……!?」
そう、目を見開いて驚く俺に。
爛々と瞳を輝かせるエレスディアは蠱惑的な笑みを浮かべた。
「———愛、かもね?」
……そんな堂々と言って恥ずかしくないんですかね……?
言われた側である俺が顔を赤くするという現状に情けなく感じると共に、こういうのも悪くないと思ってしまう俺は、きっと変態なんだろう。
いや、こんな素晴らしい日常を送れるなら変態で構わないまである。
なんて俺がニマニマ締まらない顔をしていたその時。
「———おいおい記憶喪失って聞いて来てみたら……ブフッ、なんて顔してんだよお前……ぶふーっ! ぶわははははははははっ!!」
「———がははははははっ!! ようゼロ、普段以上に締まらない顔をしてるな! 人には見せられないってのはこういうのか!」
……なんか知らない男2人に爆笑されてるんですけど。
てか2人目、お前普段から俺の顔が締まってないって言いたいのか?
どっちも初対面なのに随分と失礼な奴らだなコラ。
なんて、大爆笑する茶髪の細マッチョの青年とゴリマッチョの大男を眺めていると。
「あら、フェイとザーグじゃない。久し振りね」
「ようエレスディア。てか随分俺達とゼロで扱いに差がないか?」
「当たり前じゃない。ゼロは好きな人で、アンタ達は彼の親友。差がないわけ無いでしょう?」
「がははははっ、それもそうだ!」
エレスディアが男2人と仲良く話し始める———が、それよりも引っ掛かったことがある。
こ、この2人と親友……?
嘘だろ……記憶喪失前の俺は病んでたのか……?
ちょっと記憶喪失前に戻りたくなくなった。
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これより最終章第一部の開幕です。
よろしくおねがいします。
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