【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第110話 団長とのデート
「———あの……俺って外に出ちゃいけないんじゃ……それに、さっきエレスディア達に召集かけてませんでしたっけ?」
「ああ、かけたな。外に出てはいけないのも合ってる」
俺の問い掛けに、黒を基調としたおしゃれな服装に身を包んだカエラム団長が気にした様子もなく頷く。
なるほど、俺の認識に間違いはない、と。
だとすると———。
「———何してるんですか、団長」
俺をお姫様抱っこしながら、文字通り空を駆けるカエラム団長の行動が明らかにおかしいことは容易に分かった。
いや……え、デートって……エレスディア達どうするの?
もしかして待ちぼうけに……結構ガチでフェイ達が可愛そうなんですけど。
なんて、ジトーっとした視線を彼女に向ければ。
「…………ふっ、きっとアルフレートがなんとかする」
「いつかパワハラで訴えられますよ」
「その時は黙殺すればいい」
「副団長になんてことしようとしてるんですか」
笑顔でアルフレート副団長を力尽くで黙らせると、パワハラ上司もビックリな方法で対処しようとするカエラム団長にドン引きする俺。
きっと今の俺はこれでもかと表情が引き攣っているだろう。
「あと……ゼロ」
「はい、なんですか? お願いですから打たないでくださいよ?」
「君を私が打つわけ無いだろう……手合わせがしたいと言われれば話は別だが」
「絶対やらないので大丈夫です」
無意識に断ってしまうほどに俺の全細胞が告げている。
この人とは何があっても戦ってはいけない、と。
いや一体記憶喪失前に何されたんだよ……。
「てか、それなら他になんなんですか?」
「———カーラ」
「え?」
「君には、私のことはカーラと呼んで欲しい」
なんて、チラチラ此方に視線を向けながら頬を僅かに赤くするカエラム団長。
心做しか俺を抱く手に力が籠もっていることから、結構勇気を出した、といった感じに見えた。
な、なんだよ……突然乙女みたいな表情と仕草をされると、此方としても恥ずかしくなるじゃん……。
おい記憶喪失前の俺、一体どんな方法でこの人を誑かした?
「わ、分かりました。では———カーラさん、と」
「……っ、ありがとう、ゼロ」
「べ、別に感謝されることのことでは……」
俺が頬に熱が集まるのを自覚しつつ言えば、先程よりも更に頬を赤くするカエラム団長———もといカーラさん。
耳まで真っ赤にして口元をニマニマさせる姿は、彼女を女性として強く意識させるものだった。
「それでも……ありがとう」
彼女が頬を緩めながらボソッと呟いたのを、俺はただ見つめていた。
「———ここは……?」
「私が行きたかった所———アイラ村だ」
「いや……村というにはちょっと都会すぎる気が……」
俺はぐるっと回りを見回し、苦笑交じりに頬をかく。
カーラさんの言うアイラ村は、普通に村という規模ではなかった。
先が見えないくらいに長い大通りが伸び、その両沿いにはそこそこ大きい建物。
昼間にも関わらず中々の賑わいを見せており、建物が立っていない場所にも幾つもの露店が開かれ、大通りは無数の馬車が行き交っていた。
王都には建物の大きさも人々の数も届かないものの、それでも村というには些か大き過ぎる。
なんて考えが顔に出ていたのか、カーラさんが肩を竦めて言う。
「君の言いたいことも尤もだ。だが、この村は元々此処は王国の領土ではなかったのだ。本来は小さい村だったが……地理的に他国との貿易に向いていてな。王国も力を入れて開発を行った結果———村の規模を越えた。だが、国民にとってはアイラ村の方が馴染み深いということで、名前がそのままなんだ」
「ほぇ……」
ここが元は小さな村ねぇ……想像できねー……。
「それで、どうして此処に来たんですか?」
「この店に入ろう」
「あ、ちょっ」
楽しそうに笑みを零したカーラさんが戸惑う俺の手を引いて、女性比率が高いおしゃれなカフェっぽい店に入る。
中に入れば、店員と思われる女性が笑顔で口を開く。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「2人だ」
「カウンターでもよろしいですか?」
「ああ、それで良い」
「ではご案内いたします」
未だ流れについていけずに困惑顔の俺は、カーラさんに連れられて大通りが見えるカウンター席に向かう。
そして理由もわからぬままに着席を促され、少し高い椅子に座った。
「私がいない間にこんな店が出来たのか。中々に良さそうな場所だ」
メニュー表と店内の風景を交互に見比べるカーラさんの行動に、俺は小さく目を見開く。
「え、全く知らない店だったんですか? 行動が常連客みたいに迷いが無かったんですけど」
「? 初めてだからといって何というわけでもないだろう?」
頭に疑問符を浮かべて不思議そうにコテンと首を傾げるカーラさんの姿に一種の尊敬を覚えてしまう。
いや……それは貴女だけなんですよ。
普通は入った瞬間か、もしくは入る前にもうちょっと物珍しそうにするんです。
「それで……どうして此処に来たか、だったな。もちろん君がエレスディアとばかりイチャイチャしているから、というのもある」
物凄く私欲じゃないか。
職権乱用を地で行く人だなこの人…………ん?
「……その言い方だと、他にもあるんですか?」
「……まぁ———君にも息抜きが必要だと思ってな」
息抜き……?
いや、別に俺はそもそも寝たきりな上に美人な看護婦さん達からの手厚い介護もあって特に疲れていることなんかないんだけど……。
なんて首を傾げる俺に、カーラさんは全てを見透かすような、酷く優しい微笑みを浮かべて言った。
「———英雄、そして他人からのゼロ。そのあまりにも今の自分と乖離する自分の姿に、向けられる期待の重圧に……君は苦悩しているだろう?」
ドキッとした。
彼女の子供を見つめる保護者のような優しい笑みから。黒曜石のような漆黒でありながら温かみのある瞳からスッと目を逸らす。
一言一句、当たりだった。
隠していた、隠しきれていたと思っていた事が筒抜けだったのが恥ずかしく、目を逸らすしかなかったのだ。
「なんで分かるんですか……?」
「例え君が記憶喪失になろうと……ゼロ、君は君だ。君の考えを見抜くなんて、私からすれば朝飯前さ」
「……カーラさん、貴女は何者なんですか……?」
驚愕や困惑、混乱の籠もった声色で俺がそう問い掛ければ。
「———君を愛している女の1人さ。ただの、な」
頬杖を付いて俺を見つめながら、『まぁそういうことだから、今日は何も考えずに楽しもう』とか言って、余裕を感じる大人っぽい魅惑的で蠱惑的な笑みを浮かべるのだった。
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