【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第112話 目の前に。
「———カーラさーん? どこ行ったんですかー? ここに1人ってのはお化け屋敷に取り残されたような気分になるので、聞こえてるなら返事くらいして欲しいんですけどー!」
そう呼び掛けてみても、返ってくるのはどこまでも続く静寂だけで。
辺りを見回せど、見えるのは変わり映えのない薄暗く、鬱蒼としたおどろおどろしい光景だった。
ハッキリ言って超絶不安である。
「はぁ……マジでどうなってんのよ……。いきなり目の前から人間が消えるって、もはや魔法じゃん」
いや、そう言えばこの世界って魔法が発展してるんだった。
なら寧ろ魔法の可能性の方が———って。
俺はふと歩みを進めていた足を止め、首を傾げる。
「———この世界って何言ってんだ……?」
俺はゼロという人間で、皆んなが言うには間違いなく生まれも育ちもアズベルト王国のはずだ。
そしてアズベルト王国もそうだが、他の全ての国も魔法という学問の行き着く先とも超常的とも呼べる力を持って発展してきた。
ただ、そう考えると先程の俺の思考は不可解である。
魔法という世界の常識で当たり前のことをさも特別な、摩訶不思議なモノとして捉えているようだった。
そう、まるで———俺という存在がこの世界の者ではないと言わんばかりに。
それなら、俺は一体何者なのだろうか。
カーラさんやエレスディア、アシュエリ様やセラと同じ人間なのだろうか。
本当にゼロという存在はこの世に存在していたのだろうか。
俺と英雄と呼ばれるゼロは、果たして同一人物なのだろうか。
「…………」
大地に根を張る大樹の如く足が動かなくなる。
動けと思おうとして……これまでの俺の認識を覆すような考えが頭を過る。
記憶喪失とか皆んな言うけど……本当は記憶喪失なんてモノは起きてなくて、何かしらの理由を持って俺を『不滅者』として仕立て上げているんじゃないか……?
皆んなが皆んな、俺を騙して、信じ込ませて、利用しているんじゃないか……?
…………分からない。
何が本当で。
何が嘘で。
今の俺は一体誰で。
過去の俺は一体誰で。
———俺は、何のために生きている……?
いけない、これ以上はヤバい。
この状況でこれ以上思考を巡らせれば、ドツボにはまる気がする。
この世の全てを信じられなくなってしまう。
「…………参っちまうよな、本当にさ……」
なんて俺は鬱屈としたため息と共に吐き出すと。
「……あー嫌だ嫌だ、この常時精神系のデバフが付きそうな場所のせいでネガティブ思考になっちゃうじゃん。人生何が起きても大抵はなんとかなるってのにさ」
パンッと頬を叩いて、蔓延する余計な考えを霧散させる。
どうせうだうだ考えたところで、真実も嘘も答えは出ないのだ。
なら、わざわざそんな無駄なことに思考を使うだけ無駄なのである。
「さーて、早くカーラさん見つけて夜ご飯でも奢ってもらお———」
俺が気を取り直して、再び歩き出そうとした瞬間。
『———……ち……』
………ん?
何かの音が微かに聞こえた。
それは自然で鳴る音ではなく、何方かと言うと人の声のようなモノで……否応なしに俺の身体をその場に縫い付けた。
「…………」
再び聞こえるんじゃないかという僅かな期待に、俺は耳を澄ませる。
研ぎ澄まされた聴覚が微弱な音も逃さず集音し、脳へと電気信号となって逐一送られる。
そしてその中に。
———こっち。
「聞こえた」
何者かの声で俺を呼ぶ声が聞こえた。
生憎俺を呼んでいるのかは知らないが、とにかく人間ならば誰だって良い。
例えこれが俺にとって不利益となるものであろうと。
「……行ってみるか」
今は、1人であるこの状況から、ただ逃げ出したかった。
「———さぁてどこだいここは」
なんて茶目っ気たっぷりに言ってみるも、先程以上に生い茂る木々や一寸先すら見えぬ暗闇に囲まれた俺の心境は、当たり前だが穏やかではなかった。
顔がこれでもかと引き攣っているのが自分でも分かるほどだ。
普通に不気味すぎんだろ……こんな時にモンスターでも出てみろ、ビビった拍子に心肺停止で死んじゃうからな。
出てくるなら『あ、今から目の前通りまーす』くらい言ってから通ってくれない?
「はぁ……なんで1人でこんな所まで来ちゃったんだよ俺……。絶対最初の場所で待ってた方が良かったじゃん……」
俺は過去の大いなる過ちを深く後悔しながら大きなため息と吐くが……どうせ何度戻ったところで、あんな気になる声がしたら行っちゃうと分かりきっているので、過去のことは一先ず考えるのを止めた。
因みに俺がここまで来る事となった元凶である謎の声は、最初の殆ど聞き取れない声量から、今では普通の会話程度の大きさにまで近付いてきている。
もはや帰る道も分からない俺にとって、謎の声だけが唯一の頼りだった。
それにしても……うーん……なんか聞いたことある声なんだよなぁ。
いやまぁ他人の空似ってのもあるんだろうけど、絶対聞いたことがある気がする。
「ま、声の方に進んでたら分かるか」
なんて極力楽観的に考えるようにして先に進もうとしたその時だった。
———ピカァァァァッ!!
決して音があるわけではないが、音すら聞こえてきそうなほどに燦々と光り輝いた白銀の輝きが、真っ暗闇だった森を明るく照らしたではないか。
その輝きは闇を一瞬で消し飛ばし———俺の視力も消し飛ばされた。
「まぶしっ!? うぉぉぉ……クソ目がチカチカする……! ヤバい、なんも見えないんですけど! 俺のお目々ないなった?」
綺麗に光による目潰しを食らった俺は、眩しいとか通り越して痛みすら感じる目を押さえて顔を思いっ切り顰めながら悶える。
少しすると目の感覚が消え、視力どころか目自体が無くなったのではないかと錯覚してしまうほどに何も見えない。
というか直に強烈な光を浴びたせいで目が開けられない。
な、なんなんだよいきなり……!?
奇襲か、俺を狙う敵の奇襲なのか!?
悪いけど、今の俺はホント雑魚だし、人質としての使い道もないのでどうかそっとしておいてください。
なんて相変わらず目を押さえつつも、敵襲を警戒するどころか土下座でもして見逃してもらおうと考えている最中、俺の耳が例の謎の声……ではない別の声を捉えた。
『ふぅ、何とか間に合ったか。大丈夫か、少年?』
その声は、女の声だった。
ただ、大人の女性というには少々幼く聞こえ、少女というには少し大人びているように聞こえた。
声の主の言葉的に、何者かに話し掛けているらしい。
『……どうして、俺を助けたんだよ……。折角……折角———死ねると思ったのに』
対するのは、明らかにまだ子供だと思われる高い声。
だが、その子供っぽい幼い声色からは考えられないほどの敵意や怨念、憎悪といった負の感情が籠もっていた。
その会話を聞いた俺は———反射的に目を開く。
先程まで真っ白だった視界は既に元に戻り、そんな俺の視界に映るのは。
———黒髪に白銀の輝きを纏った少女と、黒髪に輝きを失った瞳を持つ少年。
俺の中で、ドクンッ、と脈を刻んだ。
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