【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第115話 長い追憶の旅の始まり
遅くなってごめんなさい。
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『———ゼロ、本当にこれで良いの? 今の君のボロボロな魂じゃあ【高次元化】なんてしたら、まず間違いなく無事じゃ済まないよ?』
見渡す限り真っ白な世界の中。
大の字にぶっ倒れた俺に———見た感じ10歳前後の光に照らされると七色に輝く髪を持った、思わず息を呑んでしまうほどに美しい少女が、その幼くも完成された端整な顔に此方を気遣うような色を浮かべて言った。
見たことない少女でしかも俺を心配してくれているのに……なんだろう、物凄く殴りたい。
俺って少女を見たら殴りたくなる人間なの?
流石にショックなんてレベルじゃなくて、誰が見たって擁護できない立派なクソ野郎なんですけど。
なんて自分自身に衝撃や情けなさを感じていると。
『……そんなの知ってるっつーの。てか分かってねーのにこんなクソ地獄な鍛錬出来るかよ』
俺は何もしていないのに、勝手に俺の口が言葉を発する。
身体も俺の意志に反して、小さな嘆息と共に肩を竦めた。
えー、俺の身体どないした?
ついに記憶が失っただけじゃなくて身体の制御権すら失っちゃった感じ?
いや、この感じ的に俺の消えた記憶でも見てんのか?
珍しく冴えてるなー、とか自分の身体の制御が効かないのに呑気に考えている俺を他所に、少女は複雑な表情で俺を見ていた。
『……君は私を恨んでいないの?』
『恨んでる。ちょー恨んでる』
『やっぱり恨んでるんだ!?』
恨んでるんだ……。
自分の口から出た中々に怨嗟の籠もった言葉に、自分のことながらちょっと引いてしまう。
だが、俺の意志とは別にペラペラと恨み辛みが出るわ出るわ。
『いやそりゃそうだろ。なんで俺の周りの女性陣は全員が全員意味分からんくらい重い過去やらヤバい状況持ってんだよ。俺の当初の夢は「下級騎士になったら地方に勤務して、平穏な生活を送る」だぞ。それが騎士殺しと対峙して、王国の危機に巻き込まれて、戦争に駆り出されて、悪魔と戦って、身体乗っ取られたカーラさんと戦って……今度は運命の神? 何? 俺のこと舐めてんの? 【無限再生】で対処できる領域越えてんだろ』
『……そ、それは、そうだけ、ど……』
うん、なんで俺が目の前の少女をぶん殴ってやろうとしたのか分かったわ。
俺にとんでもない運命背負わせてんな、おいコラ。
ま、俺の記憶は全然ないわけだけど。
『で、でも、仕方なくて……っ!』
『だからそれも分かってるって。だからこうしてやってんだろ? そもそも———』
俺はむんっと胸を張ると、自信満々に言い放った。
『———未来のことは未来の俺に任せてるからな!』
コイツとんでもないな!?
「…………いてぇ……」
真っ白な世界から一転、汚くはないが綺麗でもない天井が視界に映り込み、同時に筆舌に尽くしがたい鈍痛を伴った頭痛に視界が揺れる。
知らない内にどうやらベッドに寝ていたらしいが……目眩にも近い視界のブレに起き上がることが出来なかった。
痛いって、いやマジで。
別に頭打った記憶もないんだけど……もしかして俺、寝相悪い?
ワンチャン眠ってる間に何処か打ったのでは、と頭を触ってみるも……たんこぶのような膨らみもなければ、血が出ているわけでもなかった。
「ぃっつー……ってか、ここどこよ?」
頭痛に耐えつつなんとか身体を起こして辺りを見回せば。
素材である木の色や木目を隠すことなく作られた無骨な二段ベッド。
人一人通れそうなそこそこ大きい窓が1つ取り付けられた壁に沿って並べられた、これまた安っぽくて碌な装飾もされていない2つの机。
部屋の一角を占領するベッドや机と同じ材質のクローゼット。
天井に吊るされた、ランタンのような照明魔導具。
正しく必要最低限としか言えない、なんの面白みもない殺風景な部屋だった。
これほど面白みもない部屋なら返って覚えてそうな気もするが、残念ながら一切覚えがない。
ってか、ついさっきまで薄暗い森に居たと思ったんだけど……いつの間にこんなよー分からなん場所にいんの?
俺の世界は病室とカーラさんに連れて行ってもらった村だけなんですけど。
次々新しい場所出すの止めてくんない?
「あー、いてぇなマジで……なんでこんな痛いんだよ?」
ブツブツと1人で文句を垂れながら、よっこらしょ、とベッドから降りる。
二段ベッドの下だったのがせめてもの救いだ。
「まぁ……一先ず外出てみるか?」
だってここ、何も無いし。
それに、風にでも当たって夢の整理もしたいし。
あの夢はどうも俺が記憶を失う前の記憶らしい。
実際あの時の謎の少女も俺のことをゼロって言ってたし、声も俺と同じだった。
「ただなぁー、俺の中に記憶がないせいか知らんけど、全部他人事みたいに考えてしまうんよなぁー」
なんか一人称視点のゲームしてるみたいな?
いやゲームってなんだよ。
なんて1人でツッコんでいると。
———コンコンコン。
部屋に良く合った質素な扉がノックされる。
部屋の感じ的に、この部屋のもう一人の持ち主だろうか。
「はーい、どちらさんですかー?」
誰かなー、とかぼんやり考えつつ扉を開ければ。
「———……ゼロ、なんで昨日来なかったのか、聞いても良いかしら?」
俺の知っている彼女より少し幼い顔立ちの美少女———エレスディアが、思いっ切り眉を釣り上げて、私怒ってますと言わんばかりにドスの聞いた声で言ってきた。
そんな彼女の姿を見た瞬間———過去が〜とか、これからどうしよ〜とかの全ての思考が遥か彼方に吹き飛び、俺の身体と意志が完全に一致した。
「———本当に申し訳ありませんでしたっっ!!」
———取り敢えず土下座で謝っとけ、と。
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