【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第116話 胎動(途中からエレスディアside)
「———ねぇ馬鹿なの? お前は馬鹿なの? やっぱり馬鹿なんでしょ?」
俺の過去と思われる時間を過ごして早1か月ちょっと。
時折俺の意志とは反して身体が動いたりするが……今、俺の身体と心は完全にリンクしていた。
理由は———エレスディアの掌で転がされ、アーノルドとかいう貴族と決闘することになったから。
この時の彼女とは断じてやましいことなど1つもないはずなのに、なんでこんなクソ面倒なことに巻き込まれないといけないのか。
「わ、悪かったわよ……。で、でも、アイツを見たら嫌悪感が……」
流石に悪いと思ってるらしく、肩を掴んでガタガタと揺らす俺の力に逆らうことなく身体を揺らしつつ、スッと目を逸らすエレスディア。
だが、許すことなど出来ない。
「ヤダよ俺! なんで俺がお前を賭けて戦わないといけないの!? 俺は寧ろ変わりたいんだけど! それに付き合ってもエッチなこともしてないのにこんな戦いしないといけないとかやり損じゃん!」
「じゃあエッチなことしてたらやってたの?」
冷たい瞳を此方に向けながら、コテンと首を傾げるエレスディア。
記憶のない俺は、優しい瞳と微笑みを向ける彼女しか知らないので、この1か月くらいの口の悪い姿は逆に新鮮だった。
「ま、まぁワンチャン……?」
「はぁ……これだから男は……。まぁアンタに身体を許すことは絶対にないから安心しなさい」
絶対、ねぇ……。
そんな冷たいこと言ってますけどね、エレスディアさん。
未来では俺のことを『好き』とか『愛してる』とか言ってるんですよ。
なんて俺がニマニマとした笑みを浮かべていると。
「な、何よ、その顔……? あ、あんまり調子に乗るならぶっ飛ばすわよ!?」
ピクピクと眉を痙攣させながら、腕にバチバチと魔力を纏わせて拳を握るエレスディアの姿に、俺の身体はトラウマでも思い出したかのようにブルッと震える。
な、なるほどなぁ……未来でエレスディア話してたら、たまに身体が竦んだのはこれが理由だったんだなぁ……。
「ゼロ? アンタどうしたの?」
「い、いや、なんでもない。……じゃ、じゃあやるだけやってくるわ」
訝しげに眉を顰めて俺を見つめる彼女に内心を悟られぬよう、俺はにへらと笑みを浮かべて歩き出した。
———長い追憶の旅は、まだ始まったばかり。
「———ゼロ……」
嘗てのような生気の感じない様子ではなく、ベッドで穏やかな寝息を立てながら目を閉じる黒髪黒目の青年———ゼロ。
そんな彼を眺めながら……私は彼の手を優しく撫で、小さく息を吐いた。
「全く……いつも心配ばかりさせて……。———それで、一体何をしたらこうなるのですか?」
外に出してはいけないとされていたゼロを出し、ついでに私達を騙した張本人である黒髪黒目の女性———カエラム団長にキッと鋭い視線を向ければ。
「……えーっと、だな……」
何時ぞやのゼロのように、キョロキョロと目を右往左往させながら言い訳を必死に考えていた。
———というか。
「それ、貴女が彼に移したんですか?」
「そ、それ?」
「その口調、です。彼が言い訳を考える時に全く同じ抑揚で言うんですよね」
「そ、そうなのか? ふ、ふーん、そうかそうか。ゼロが私と同じ……」
平静を装いながらも、眠るゼロを見つめて嬉しそうに口元をニマニマと結んでは開けてを繰り返すカエラム団長。
これでも彼女の中では隠せた気でいるらしいが、嬉しそうなのが全然隠れていなかった。
「その顔止めてくれません? イライラするんですけど」
「へっ!? べ、別におかしな顔はしてないが!?」
「してますよ。……それで、彼はどうしてまた眠っているのです? 外に出してはいけないと言われていたのに無理矢理連れ出したのは何故です!?」
「っ!?」
自分でも想定以上に色々と感じ、思うところがあったらしい。
気付けばゼロのいる病室だというのに声を荒げていた。
「答えてください、団長! 彼は大丈夫そうに見えて、本調子じゃありません! まだ記憶だって……!!」
「……す、すまなかった……。わ、私はただ、彼に息抜きを、と思って……」
分かっている。
彼が浮かべるバカっぽい笑顔の裏側で悩んでいたことくらい。
彼のことを愛している団長が彼に危害を加えようなんて思っていないことくらい。
きっと彼女だって心配だから、副団長からのお叱りを受けてなお此処にいるのだ。
「す、すみません……つい」
「……いや、君に罵られても文句は言えない。言っちゃいけない。私の短慮な行動が招いた結果だからな……」
ゆっくりと首を横に振った団長は、己の不甲斐なさからか、ギリッと唇を噛んで力ない表情で項垂れていた。
拳は肉を食い破らんと握られ、その拳からはポタポタと血が滴り落ちる。
「だ、団長、血が……」
「もしもゼロが———」
団長が何か言おうとしたその時。
「———だ、団長、副団長!! いらっしゃいますか!?」
突然、病室の扉がバンッと大きな音を立てて開けられる。
そこから現れたのは———1人の精鋭騎士で、顔見知りだった。
しかし、その顔には今まで見たことない焦りが浮かんでいた。
「バードン……此処はゼロの病室だ、静かにしろ」
団長がいつものような凛とした姿で、先輩方の中でも1番ゼロと仲が良かったバードンに声のトーンを1つ落としつつ注意する。
だが、彼はグッと拳を握って団長の圧に耐えると、口を開いた。
「すみません、団長! ですが、今はそんな悠長なことをしている時間はないんです!」
「……なんだ?」
いよいよおかしいと思ったらしい団長が訝しげな視線を向けつつ問い掛ける。
そんな団長と、傍観している私、そして———寝息を立てるゼロに。
「———し、侵攻です! 帝国からの軍勢、約30万の!!」
そんな、無慈悲な言葉を告げた。
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次話は水曜日に投稿します。
新作です。
見てみてください。
『凡人が【死亡強化】スキルを手にした結果、激重美女達に囚われた』
https://kakuyomu.jp/works/16818622173338171946
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