【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第119話 衝撃的な事実
「———申し訳ありません、テン様。……ゲボルも謝罪しなさい」
「う、うむ……すまない、テン。言い訳ではないが……再生する相手など、些か我らと相性が悪いのでな」
先程までの怒りは一体何処へやら。
萎縮した様子で頭を下げる弓の女と申し訳無さそうに頭をかく盾の男の姿は、如何にあの朗らかに笑う彼の『堕天』を信頼しているかを物語っていた。
「大丈夫大丈夫、君達は良くやってくれたよ。———こうして僕がやって来るまでの時間稼ぎだけじゃなく、帝国軍を彼女から守ってくれたわけだしね」
「……はっ! 有難きお言葉……!」
「すまねぇな、テン」
……私が目の前にいるのに、この緩んだ空気……気に入らないわね。
これだとまるで、私なんて相手にすらならないと言っているようなものじゃない。
私が不機嫌そうに眺めていれば、堕天の奴がいきなりこっちに顔を向けた。
「君もごめんね、無視するような真似して。やっぱり上の者として、仲間のメンタルケアは何より大事だからね」
「…………」
帝国最強たる『天』の中でも最上級の強さを誇る第1席である『堕天』。
人という枠組みを越えた超越者ではあるものの実力こそ団長に劣る———が、一度知名度の話になれば、団長をも越えるだろう。
なんといっても———神を殺した『神殺者』だから。
現在において、神や悪魔といった高次元生命体が降臨することはまずない。
数百年前は教皇が少なくとも2回以上神または悪魔に出会っていることから、神がいないわけではないのは確かだが……今は世界中回ったとしても見つけられないだろう。
しかも彼は、ゼロのような擬似神とも呼べる者を殺したのではなく、本当に神という高次元生命体を殺した現在において唯一の人間……らしい。
もちろん信じてないわけじゃない。
でも、やっぱり神の力をこの身で受けたことがあるからなのかしら?
なんて私が訝しげに思っていたのが顔に出ていたのか、『堕天』ことテンが朗らかな笑顔と共に口を開いた。
「おや? どうやら君は、僕のことを疑ってるみたいだね? 恐らく神を殺した、という部分が納得いかないのだろう。まぁ神の権能を幾つも持っていた教皇と戦ったことがあるから仕方ないのかな?」
「……そうね、正直疑ってないと言えば嘘になるわ。それこそ団長くらいの強さがないと神なんて倒せないわよ」
私が言えば、テンは笑顔からキョトンとした顔に表情を一変させたと同時。
「———ぷっ、あははははははっ!!」
表情だけでなく性格すら変わってしまったかのような高笑いと共に、可笑しいそうにお腹を抱える。
「……何が可笑しいのよ」
「いやいや、君があまりにもおかしいことを言うからね。カエラム団長くらいの強さが必要? ———そんなわけないじゃないか! アレはそこらの神なんかよりよっぽど恐ろしいさ! 一度神と対峙してその命に終止符を打った僕でさえ、陛下との戦闘をサポートする程度しか出来なかったんだよ? なんなら陛下は、僕がいるとかえって戦いづらいとすら思ってそうだったよ」
…………カエラム団長って、一体何者なのよ……。
敵ながらあっぱれ、と言わんばかりに褒め称えるテンの物言いに余計団長の強さが分からなくなり、羨望とか以前に呆れて声も出ない。
そう言えば、確かゼロに憑いている悪魔も彼と同じようなことを言っていた気がするし、彼の評価に嘘偽りは一切ないのだろう。
つまり———彼なら私にも勝算はある、ということだ。
「お、いよいよやる気だね。そうだよね、僕達は敵同士。仲良く談笑なんてするタチじゃない、か……」
「良く分かってるじゃない。———さぁ、始めましょうか」
余裕あり気に肩を竦めるテンを見据えた次の瞬間。
———ガァァァァンッッ!!
耳を劈く硬質な音が鳴り響き、私の仕掛けた最速攻撃が受け止められたことを証明していた。
「……これに反応するのね。それにアンタ———槍使いなの?」
私は、自身の真紅の剣を受け止める黄金色の槍に目を遣る。
長さは人間の身長の2、3倍はありそうなほどで、私の魔力を塗り潰すように呑み込まんする黄金色の魔力を纏っていた。
「一応、かな。1番使ってて手に馴染んだのが槍ってだけだよ。使おうと思えばなんでも使える、さッ!」
「!?」
彼が裂帛の声と共に力任せに槍を薙ぎ払ったことで、踏ん張っていたにも関わらず私の身体ごと弾かれる。
とても力があるようには見えない体格だが……最初の私の身体の半分を消し飛ばしたのを顧みれば、納得といえば納得だ。
「ふっ———!!」
冷静に彼奴の力を推察しつつ空中で体勢を整え、着地と共に弾かれるように飛び出して再び肉薄。
槍使いを相手に距離を取るのは愚策中の愚策、勝つなら限りなく零距離に近い位置取りが必要になってくる。
それに———力なら此方も負けない。
「———【剛剣】」
剣の切っ先を空に向け、テンへと音も空気抵抗すらも置き去りにして叩き付ける。
速度も然ることながら、斬ることよりも押し潰すことを目的としたこの剣技の威力は、比較的簡単な剣技とは思えない破壊力を秘めている。
———ドゴォォォンッッ!!
「おお、凄い力だね!」
槍の柄で受け止めたテンが自らの沈み込んだ地面を一瞥して楽しそうに声を上げる———が。
「———僕には及ばない」
反応すら出来ない速度で射出された槍によって、私の上半身の半分に風穴が開く。
全身に激痛が走る。同時に私の身体を蝕んでいくかのような、今まで感じたことのない不快感が押し寄せてきた。
———だが、その全てをグッと堪えてカッと目を見開く。
「及ばないのはアンタよ———【不滅の炎よ】ッッ!!」
瞬間———私を中心に天にも昇る勢いで蒼と赤の炎が燃え上がる。
視界の全てが炎で彩られ、何もかもを一瞬で灰に変える。
それはテンとて例外ではなく、魔力によって侵食を防いでいるようだが……徐々に身体の末端から炭化していく。
「くっ……」
思わずといった様子で苦渋の表情を零すテンを前にニヤリと笑みを浮かべる。
「私を格下だと油断していたのが運のツキね。この炎はアンタが魂ごと消えるまで決して消えないわ」
「……認めるよ、君は強い。油断も慢心もしてはいけない相手だったって。なら———僕も本気を出そう」
そう言った瞬間だった。
「———【全てを貫け、神の槍】」
彼が言葉を紡いだ。
その言葉が私の耳に届いた頃には———何もかもが貫かれた後だった。
「う、うそ……」
不滅のはずの炎はまるで最初からなかったかのように消し飛ばされ、私の身体は心臓部分を中心に、身体の7割が一瞬の内に欠損する。
これほどの欠損ともなると、流石に一瞬では回復出来ず……私の残り3割の身体がベチャッ、と地面に落ちた。
そんな私を見下ろして、テンはなんとも言えない表情で言った。
「びっくりだよ……。まさか、僕の一撃で死んでないなんて……流石不死鳥の転生体ってことなのかな……? ただの神獣の生まれ変わりでこれなら、余計生きている内に会ってみたかったな———」
「———この世界の創造神、ヘレンの最後の権能である【再構築】を身に宿す青年———ゼロに」
——————今、なんて言った?
「おや、もう再生したのかい? 随分と速いね」
「……アンタ、今なんて言ったの? いや———」
私は再生した自らの足で立ち上がり、少し驚いた様子のテンをキッと睨み付けると。
「———ゼロに、何をしたの———ッッ!!」
この身に迸る怒りに呼応するかの如く吹き荒れる膨大な魔力の奔流の真ん中で、怒号を上げる。
テンは一瞬キョトンとしたものの、私の言葉の意味を理解したのか納得げに頷いた。
「ああ、まだ君達は知らないのか。実はね、僕達は陛下も含めて、謂わば捨て駒なのさ。たった1人———創造神のお気に入りであるゼロという青年を殺すための、ね。そのためにこんな場所で戦いを起こし、騎士も魔法師達もおびき寄せたんだ。きっと今頃『天』の1人が城に向かってるはずだよ」
呆然とする私に、彼は今までの朗らかな笑みとは全く違う、歪んだ笑みを浮かべて言った言葉で悟った。
「目に映る全てを破壊する狂戦士———『破天』が、陛下より対【再構築】の権能を授かってね」
私達が掌で転がされていたことを———。
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