【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第120話 破天
———エレスディアが堕天と、カエラムが皇帝と戦っていた頃。
「……ふわぁぁ……」
「おい、欠伸するな。今は精鋭騎士様達と魔法使いが帝国との戦っている真っ最中なんだぞ」
「そうは言うっすけどねぇ、幾ら帝国軍だってこんな場所まで来れないっすよ。国の戦力の大部分が出向いてるんすから」
王国の城門では、多くの騎士が出動したことにより、急遽呼び出された2人の中級騎士が門番をしているが……決して戦時中とは思えない緩んだ空気を纏っていた。
特に片方の切れ長の目をした金髪の騎士は、欠伸までしている始末。
「それは、確かにそうだが……」
「そもそもっすよ、俺達って今日は休暇のハズだったじゃないっすか! 折角ミーちゃんとデートだったってのに……」
「……お前、先週はレイという名の女性とデートに行っていなかったか?」
「ああ、レイちゃんは愛人っすね。ミーちゃんが本命っす」
金髪の騎士の屑発言に、綺麗に剃られた坊主の騎士がドン引きした様子で零した。
「……屑だな、お前」
「これでも貴族っすよ、俺。妾の1人や2人当たり前じゃないっすか」
「生憎俺は地方の小さな貴族家出身なんでな。妾なぞ囲む力も金もない」
「まぁ中級騎士って意外と薄給っすもんねぇ……」
ただ———現地に居ない2人……特に碌に戦地に赴いたことがなく、貴族の子息ともなれば気が抜けるのも無理はない。
例え国境が地獄絵図であったとしても、城門付近では国境での凄惨な光景も噎せ返る血の臭いもなく、門番である2人の眼前にはいつも通りの穏やかな光景しか広がっていないのだから。
オマケに帝国が攻めてきたと知って、自分達も巻き込まれることを危惧して王国にやってくる馬車も限りなく零に近く、こうして雑談に興じていても問題ないくらいに暇なのも原因の1つだろう。
「あー、速く元の担当戻ってこねぇかなぁ……」
「それには同意だ。この際遊ぶのは諦めるが、ちゃんと寝たい」
「それっすわ。俺も寝たいっす」
「お前は女のケツでも追っておけ。そしてそのまま顔面に一発痛いのぶち込まれて来い」
「ひどっ!? 先輩、ちょっと酷くないっすか!?」
「酷くないな。当然の報いだ」
なんて2人が笑っていたその時だった。
「———ギャハハッ!!生きた人間見っけぇ!」
お世辞にも愉快とはいい難い笑い声が2人の耳に届く。
2人がバッと声のした方に向けば……全身刀傷だらけの上裸の男が口角を吊り上げて笑っていた。
「っ、な、何者だ!」
「それ以上近付けば、容赦はしないっす!」
これでも2人は騎士。
警告と共に直ぐ様腰の剣を抜いて戦闘態勢に———
「———近付けば、なんだぁ?」
「…………………え?」
視界内に居たはずの男が消えたかと思えば直ぐ近くで聞こえる声に、金髪の騎士は呆気に取られたような声を上げる。
嫌な予感に金髪の騎士が横を向けば……『ゴシャッッ!!』と丁度、坊主の先輩騎士の頭が握り潰されていた。
「あ、え、せ、先輩……?」
「チッ、チマチマ殺してもおもんねぇ。早くゼロって奴をぶっ殺して帰るか。『龍を喰らう者』が陛下に殺される前にオレも戦いてぇし……チッ、それにしても遅ぇな。最近の兵士は弛んでやがる。———あ?」
愕然と頭の消えた先輩騎士を眺める金髪の騎士には見向きもせず、ブツブツと独りごちる男だったが……一瞬驚いたような表情を浮かべて黙り込む。
そして———。
「———ギャハハハハハハハハハハ、これだぜこれ! さっすが陛下ぁ! オレの使い方を分かってやがるぜぇ! ギャハハハハハハ!!」
狂ったように笑い声を上げ、無造作に振るった拳で金髪の騎士を殺すと。
「———ギャハハハ、大虐殺の始まりだぜぇええええええええ!!」
膨大な漆黒の魔力を帯びた拳1つで城門を破壊し、歓喜の雄叫びを上げた。
その叫びは魔力を内包して空間を伝播し———家屋が、道路の石が、城壁が一瞬宙を浮き、そして崩壊する。
たったそれだけ、彼——帝国の『破天』が喜びを表現しただけで半径数十メートルに及ぶ全ての物が吹き飛んだ。
「な、なんだ!? 何が起こっているんだ!?」
「襲撃だ!! 騎士は!? 騎士は何をしている!?」
「手を貸してくれ! 人が! 人が瓦礫の下敷きになってる!!」
「あなたーーーっ!! あなたぁぁぁぁああああっっ!!」
阿鼻叫喚。
そんな言葉が相応しい光景が一瞬にして創り出された。
だが、破天には数多の人々の叫びなど耳元でさえずる羽虫の如く、細かいことを気にする性分でもないが故に視線すら遣らない。
彼が見据えるは、王都の中央に位置する荘厳で豪奢な王城の一角——もう二度と脱出されぬように国随一の病棟から秘密裏に輸送されたゼロが眠る部屋、ただ1つのみだ。
「にしてもおせぇ……どいつもコイツもチンタラしてんなぁ!」
「———それは、貴方様が速いだけでは? というか1人行動はあれほど禁止だと陛下よりキツく言いくるめられていたのでは?」
忽然と隣に現れた細身の男性が苦言を呈す。
しかし、それに対して破天は面倒臭そうに舌打ちをした。
「変わんねぇよ。どうせ近くに転移したんだからよぉ。それにテメェはついてこれてるじゃねぇか」
「私は部隊長に任せて貴方を追いかけましたので」
「じゃあテメェはここで部隊が来るのを待っておけ。あと部隊はテメェが指揮をしろ。どうせこの王都に『龍を喰らう者』はおろか『炎帝』すらいねぇんだし、テメェらだけで十分だろ。オレは先に城に行って『不死者』を殺す。テメェらは合流次第陽動隊と小隊に分けて『未来視』を回収しろ」
「……はっ、承知いたしました」
細身の男は軽く頭を下げると、身体を翻して……刹那の内に姿を消した。
その姿を一瞥したのち、破天はグッと拳を握る。
同時に漆黒の魔力がうねりを上げて燃え上がり、拳に魔力と同じ真っ黒なガントレットがどこからともなく顕現する。
「コレを使うのもひっさしぶりだなッ!」
破天は獰猛な笑みを浮かべて腰を落とし、バネを縮めるように腕を振り絞ると。
「———【滅せ、天の拳】ィィィィッッ!!」
溜めに溜めた力を、拳を振り抜くと共に開放する。
———ズドォォォォォォッッ!!
刹那———触れるモノ全てを消し飛ばす極大な漆黒の光の奔流が唸りを上げながら空間を突き進む。
このままだと王都に巨大な一筋の穴を開けることになるだろう。
何人の人が死に、どれだけ建物の被害を被るか容易に想像できるレベルで、王都は大打撃を受けるに違いない。
この光景を眺める誰もがそう思った。
もはや絶叫すら上げられず、ただ呆然と視界に光の奔流を収めるのみ。
だが———突如、光の進行方向に人影が現れる。
「……あん?」
破天は首を傾げる、それと共に馬鹿な奴だ、と鼻を鳴らして視線を切———。
「【一刀両断】」
———光が割れた。
触れれば全てを消滅させるはずの神の力を有する天の光を真っ二つに。
「なんだと!?」
これには破天も驚愕に目を見開き、進もうと前に踏み込んでいた足を後ろに戻す。
そんな彼の視線の先には———軍服に身を包んだ、制帽を深く被り片目に眼帯をした壮年の男。
男は破天の様子を見て、意外そうに、そして少し嬉しそうに顎を撫でる。
「……ふむ、私を知らないのか。昔はそれなりに『身バレ』と言うヤツをしていたものだが……なるほど、随分と時が経ったようだな」
「何を言ってやがるクソジジイ!! そんなことよりテメェ……オレの攻撃を、陛下から賜った【天の拳】の攻撃を防ぎやがったなぁ!? そんな奴はこの王都にいねぇはずだ! ———誰だテメェ!?」
「天、か……どうやらこの国は、一本取られたらしいな。……それと、今貴様は私のことを『誰だ』と言ったな」
男は長年を共にした眼帯にそっと触れ、瞳を破天に向けると。
「———我が名はロウ。嘗ての時代の死に損ないだ」
———ゼロの兵士時代の教官にして、前王国最強と呼ばれた男———隻眼のロウは、全身を空色のオーラで装飾しつつ剣を構えた。
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