【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第122話 2人の親友
「——出たぞ、教官が」
「おいおい嘘だろ……あの人が本当に出ないといけないって、状況はそんなにヤバいのか?」
部屋に窓1つ存在しない異質としかいえない王城の一室。
そんな部屋の扉の前で、こげ茶色の肌をした大柄の青年——ザーグが拳大の円形の魔道具を深刻な表情で眺めながら呟けば、茶髪の飄々とした青年——フェイが信じられないとばかりに表情を歪めた。
すると、フェイをザーグが呆れた様子で半目を向ける。
「フェイ……アシュエリ様の話を聞いていなかったのか? この俺でも覚えてるぞ」
「いやちゃんと聞いてるし覚えとるわ! ただ……未来のことをただ話されるのと、実際に起こるのとじゃ、全然違うだろ?」
「……無理も、ない」
「「アシュエリ様!?」」
2人の会話に入ってきた金髪と金眼の少女——アシュエリの姿に、フェイとザーグは仰天して慌てるも……先に少し落ち着きを取り戻したフェイが苦言を呈す。
「ちょっ、出てきてはいけませんよ!? ここは俺達が死守しますから、アシュエリ様はどうかお部屋に……」
「敵は、そこからだけでは、ない」
「え?」
アシュエリの言葉に、フェイが間抜けた声と呆けた表情を晒し、ザーグも当初聞いていた未来視の内容と違う少女の言葉に眉間に皺を寄せる。
「それは、一体どういうことですか……?」
「ん。あそこからも、来る。やっぱり、ゼロが絡む未来は、不透明」
そう言って、アシュエリはか細い人差し指で部屋の壁を指差した。
「か、壁からですか……? 王城には前回の反乱があって壁を強化したと聞いていますが……」
ザーグが予めアルフレート副団長から説明を受けていたことを発言するが、彼女はふるふると首を横に振った。
「……彼らは、この程度の防御性能など、意に介さない」
「ですが……」
「おいザーグ、そんなに廊下側が心配なら、お前が廊下側を見張ってろ。代わりに俺が、責任を持ってアシュエリ様、そして——」
3人の視線が、殺風景な部屋の一角——シングルベッドに横たわる1人の青年に向かう。
ベッドで眠りに付く黒髪の青年からはまるで生気を感じられないが、規則正しい寝息が生きていることを何より証明していた。
静かに眠る青年を悲しげに見つめていたのも束の間、フェイはニッと笑みを浮かべた。
「——ゼロを護ってみせるから」
普段ゼロとふざけ倒しているところしか見たことのないアシュエリは、そのどこかゼロに似た笑顔に、意外そうな表情でパチパチと瞬きをする。
「……ただの、ネタ枠かと思ってた」
「そんなこと思っていたんですか!? これでも俺、立場的にはゼロと同じ精鋭騎士なんですが!? ……おいザーグ、何か言いたいことがあるなら言ったらどうだ?」
笑いを堪えるように口元を押さえるザーグの姿に、不機嫌さを微塵も隠そうとしないフェイが鋭く問い掛ければ。
「ブフォッ——!! ガハハハッ! ネタ枠だってよ、フェイ! ネタ枠なら……ブフッ、大道芸でもどうだ? フフッ、ゼロが笑って起きるかもしれないぞ!」
噴き出して目に涙を浮かべるほど大笑いするザーグ。
当然笑われる側のフェイも、相手がザーグとあればただ黙って笑われているわけもなく、こめかみに青筋を浮かべて怒号を上げる。
「こ、この筋肉バカ……こっちが黙ってたら好き勝手言いやがって! テメェも大差ねぇんだよ! 今直ぐゼロの意志も乗せてぶん殴ってやる!」
「おい、アシュエリ様はゼロのことは言っていないぞ! 勝手にゼロの意志も……」
「——ゼロも、基本ネタ枠」
「アシュエリ様!?」
「フハハハハハハ!! さぁザーグ……俺とゼロ、2人分の鉄槌を喰らうが良い!」
思わぬアシュエリからの援護にザーグは悲痛の叫びを上げ、フェイは歓喜の高笑いを上げて拳を握る。
因みにこんなこんな馬鹿騒ぎをしていても、フェイもザーグもしっかり辺りに意識を向けている辺り、流石精鋭騎士と言える。
そして、そんな2人の様子を眺めながら、アシュエリはゼロの手をそっと握った。
(……私達は、だいじょうぶ。だから——)
——ドゴンッッ!!
突如、鳴り響く轟音と共に、薄暗い部屋が眩い光が照らされる。
その光を目に映したアシュエリは、壁が破壊されたのだと悟る——と同時。
——ガキンッッ!!
彼女の目の前に踊り出るは、紫のオーラを身に纏う1人の騎士。
その騎士——フェイは、侵入者である黒装束の男達の攻撃を二本の剣で防ぎつつ声高らかに叫ぶ。
「——«我が魔力に従い、彼らを汎ゆる悪から護る盾となれ»——【神盾】!!」
瞬間、アシュエリとベッドを丸々覆い尽くすように無数の半透明の盾が現れる。
彼が詠唱し、展開したのは——騎士には使うことの出来ないはずの結界魔法。
それも彼が発動したのは、世界でも使える者は極僅かしか存在しないと言われる超高位の結界魔法だった。
「な、なんだこれは!?」
「こ、攻撃が通らない……!?」
襲撃者達が巧みな連携によってフェイを抜け、アシュエリに攻撃するも……フェイの発動させた盾に傷一つ付けられず困惑の声を漏らす中、フェイが鼻を鳴らした。
「ハッ、テメェらの腑抜けた攻撃が通らないなんて当たり前だろ! 部分ごとにしか【極限強化】も出来ない俺が、どうやって精鋭騎士になったと思ってやがる!」
そう、フェイは二年近く経った今でも完全な【極限強化】を使うことが出来なかった。
全身ではなく一部分にでも発動できているので決して騎士の才能がない、というわけではないが……本来ならば精鋭騎士と認められるには少し実力が足りない。
しかしその代わり、彼は稀有な才能の持ち主であった。
それこそが——結界魔法。
騎士は魔法が使えないというのが常識である。
実際、フェイも当初は使えるなど思ってもいなかったが……今はここにいない少女——セラが彼の才能を見抜き、彼に結界魔法を伝授していたのだった。
「ば、バカな! 結界魔法を使える騎士など——いやそもそも強化魔法以外の魔法を使える騎士など見たことない!」
動揺が伝播し、襲撃者達の連携による猛攻に隙が生まれ始める。
そして、それを見逃さない人間が1人。
「——【極限強化・最高出力】」
ザーグの身体から膨大な黄色のオーラが噴き出した刹那——襲撃者の1人が身体を袈裟斬りにされ死亡する。
ところが彼はそれに留まらず、続けざまに2人、3人……とその巨体に似合わぬ目にも止まらない速度で次々と襲撃者を屠っていく。
ザーグはフェイやゼロのように特別な力や才能があるわけではない。
もちろん【極限強化】を使えるだけで才能に溢れているのだが……周りにゼロやフェイ、果てにはエレスディアが居たためザーグにとっては違った。
だからこそザーグは、上級騎士になったと同時に精鋭騎士でもトップクラスの実力者であるアルフレート副団長に師事を乞うた。
運が良いことに彼はアルフレートと魔力の質が似ており……アルフレートの圧倒的な速度をモノにすることが出来たのである。
「……すごい」
盾の中で2人の戦いを見守っていたアシュエリはポツリと零す。
当然彼女はこの未来も見ていたが……フェイも言った通り、未来視で視るのと実際に見るのとでは臨場感が段違いであった。
しかし——アシュエリはもちろん、フェイやザーグも知っていた。
一見すれば圧倒しているかのように思える戦況、それが長く続かないことを。
「——来る!」
アシュエリの警告の言葉と同時——突然フェイとザーグの身体が吹き飛ぶ。
「ゴハッ!?」
「グッ……!?」
ザーグは間一髪で受け身を取ったことにより殆ど吹き飛ばされなかったが、瞳にのみ【極限強化】を使用していたフェイの身体は乱入者の攻撃に反応できず、壁をぶち壊して城の奥へと消えていく。
しかしザーグも片足を折られ、横腹を抉られるという重傷を負っていた。
アシュエリは2人を痛ましげに見つめたのち、最初に壊された壁——外から恒星の光が入り込む壁——に立つ1人の細身の男に目を向ける。
「はぁ……こちらも、向こうも鍛錬が足りませんね。我らが皇帝の御力を賜っていながらこの程度ですか……」
男は床に転がる絶命した黒装束の者達、そして王都で派手にぶつかり合う破天を一瞥したのち、落胆した声色で独りごちる。
しかし男はアシュエリ……その隣で眠るゼロの姿を視界に収めると。
「本当に同じ場所に居ましたね……流石陛下。破天が足止めを食らい、私のターゲットの近くにもう1人のターゲットもいる——これすらも予見して、彼ではなく私に権能を授けたのでしょうか?」
野暮ったい目に僅かな驚きを灯して、無数の——もはや読むことすら叶わない数多の言語と思わしき情報の集合体を右手に生み出した。
しかし、そんな彼の耳朶を2つの声が揺らした。
「「——俺達を忘れてんじゃねぇええええええええ!!」」
全身血まみれのフェイとザーグが紫と黄色のオーラに身を包みながら現れた。
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