【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第127話 返事
——俺、こんなに速かったっけなぁ……。
俺は軽く床を蹴って襲撃者の背後に回りながら、酷く緩慢に感じる世界で他人事のように思う。
衝撃者の男は俺が背後に回ったことは愚か、動き出したことにさえ気付いていない様子だった。
『ケケケッ、テメェは今までハンデを食らってたっつーわけだ。普通【高次元化】とかいうオレ達レベルまで強くなる魔法使っておいて、あんな神紛いの女に押されることの方がおかしいんだ』
『え、そうなん? 才能の差とかで弱くなってんのかと思ってたわ』
『テメェは本当に馬鹿だなァ……【高次元化】に辿り着くまでが才能なんだよ。その後は修練あるのみってことだなァ。つまり、あの団長はまだテメェより強いぞォ』
やっぱあの人チート騎士やん。この世界一番のバグですやん。
強くなればなるほどカーラさんの異質さが分かってくることに、順調に俺もバケモノになってんだなぁ……とか感慨深く感じつつ。
「さっさと倒してロウ教官の助けに行かねーとな」
俺は拳を握り締め、襲撃者の頭……ではなく胸に突き出した。
確かに頭が一番賢明な殺り方なのは知っている。
だが……コイツはフェイを殺した。
ザーグを瀕死に追い遣った。
——アシュエリを殺そうとした。
残念ながら、俺は物語の主人公のような心優しい人間にはなれないし、なろうとも思っちゃいない。
怒りだって湧くし、大切なモノを傷付けられれば憎むし……殺意を感じることだってある。
音など遠に置き去りにしたパンチは一切の抵抗も感じることなく容易く襲撃者の胸を貫き、遅れてやってきた衝撃波が身体の九割以上を消滅させる。
「————ぁえ?」
心臓や肺、胃や小腸を含んだ殆どの内蔵を跡形もなく消し飛ばされた襲撃者は、現状を理解できないといった様子で音を漏らす。
コテンと頭が落ち、ピクピクと痙攣している。
そんな男の耳元で、恐らく彼が人生で最後に聞くであろう言葉を囁く。
「——お前が貰った【権能奪取】は本来の力の三分の一程度しかないんだ。そしてその程度じゃあ俺の原初能力は奪えない」
「な……にが……」
「だから——俺が目を覚ました時点で、お前は詰んでたってわけだ。ハハッ、無駄な足掻きをするお前は見物だったぞ、皇帝の駒にもなれなかった無能さん」
「!?!?!?」
ニィィィッと俺の嘲笑を受けた男は大きく目を見開き……瞳の輝きを消した。
俺はソレを冷たく見下ろしながら、スラングの権能【魂食い】で捕食する。
『どうだ、権能は奪えそうか?』
『…………無理だなァ、既に回収されてやがる。バケモンだぜ、皇帝って奴は』
今までどんな時でも余裕そうにヘラヘラしていた危険とは無縁そうに感じていたスラングが、出会って初めて畏れや警戒心を露わにして吐き捨てる。
つまり——今から俺達が相手にする皇帝ってのは、神に引けを取らない悪魔をも警戒させる人外レベルのバケモノってことだ。
「ま、どっちにしろぶっ飛ばすけどな」
決意と共に小さく呟きつつ軽く跳躍、音もなくフェイの隣で寝かされたザーグの下に辿り着き。
「【原初能力:再構築】」
彼のお腹に触れ、能力を発動。
淡い光がザーグのボロボロの身体を包み込み、瞬く間に、まるで時間が巻き戻っているかのようなレベルで修復されていく。
五秒もすれば綺麗さっぱり、戦う前の……下手すれば戦う前より万全な身体になった。
「おいザーグ、起きろー。もう朝だぞー、早く起きないとロウ教官が——」
「教官俺は起きています!! …………ってゼロか、脅かすな……本気で焦ったぞ……」
「はっはっはっ、やっぱお前にはこれが一番だな。お寝坊さんのザーグ」
なんて笑い掛ければ、一年以上も前の話を蒸し返すなって……とか言って同じように笑みを零すザーグ。
さて、これで一先ずここは大丈夫か。
「それじゃあ——どしたの?」
「いや……お、お前、大丈夫か……?」
「ん、お腹痛い?」
何故かフェイとアシュエリにめっちゃ心配されていた。
でもアシュエリ、俺はお腹が痛いからってあんな殺し方しないからね?
「や、全然大丈夫よ? ほら、身体も元気だし」
「い、いや……お前、すんげぇキレてたじゃん。普通にめちゃくちゃ怖かったって」
「ん。ゼロは、怒ったら悪魔より怖い」
「いや待て待て! 俺は絶対悪魔より怖くないが!? あんな人格破綻者達と一緒にしないで!?」
フェイとアシュエリが顔を見合わせて頷き合う姿に俺が言葉だけでなく全身で遺憾の意を示せば、それにケチ付けてくる奴が一人。
『おいゼロテメェ、オレに喧嘩を売ってんのかゴラァ!!』
そう——一番身近な悪魔にして一番の人格破綻者だと思われるスラングである。
先程までのシリアスな雰囲気は一体何処へやら、結構な勢いでブチギレてきた。
とはいえ、俺も俺ですごすごと引き下がるなんてことはしない。
「売ってんだよ聞けば分かるだろ! だぁれがお前に例えられて嬉しく思うんだこのイカレ野郎が!」
『い、イカレだと!? て、テメェにだけは言われたくねェなァ! 女一人助けるために何度も死ぬような奴によォ!!』
「いやあん時は神様いたじゃん! お前が俺の身体を奪った——」
「——ゼロ、返事、聞いてない」
突然、俺とスラングの喧嘩に口を挟んできたアシュエリの言葉に——俺はピシッと石化してしまったかの如く動きを止める。
チラッを目線だけアシュエリに向けると、表情こそ殆ど変わらないものの、特大の期待と不安の籠もった金色の瞳でジーッと俺を上目遣いで見つめていた。
「あ、あー、えーっと……」
「ゼロ、私は、告白した」
「は?」
「ん?」
どうやらフェイとザーグが察したらしく、素晴らしい連携プレーで俺をアシュエリから引き離し。
「ゼ〜ロ〜く〜ん〜? 一体どういうことかな〜?」
「ゼロ、俺はエレスディアと良い感じと聞いていたが? それも許せないがな!」
右肩にフェイ、左肩にザーグの手が置かれ、至る所に怒りマークが付いていそうな笑顔で詰められる。
「俺達との約束はどうした? ん? 彼女が出来るときは申請する約束は?」
「そう言えば昔、それで俺は胸ぐらを掴まれたな。痛かったな、あの時」
こ、コイツら……律儀に覚えていやがったのか……!
確かに俺もちゃんと覚えてたし、二人に出来たらどつきまわしてやろうとか思ってたけど!
「あ、あのな、それは……」
「——何の、話? 今は私とゼロの大事な話。邪魔するなら、減給」
「「ゼロ、おめでとう! 俺達は残党が居ないか確認してくるわ!」」
アシュエリという圧倒的権力を前に尻尾を振って、笑顔で逃げ出す二人。
その際、二人からパチッとウィンクを貰った辺り、恐らくロウ教官の援護に行ったのだろう。
——俺達が話す時間を稼ぐために。
……なんだかんだ言って、アイツら良い奴だよなぁ……。
そんな二人に彼女が居ないなんて、世の女性は見る目がない。
どうか二人にもいい縁を、とどっかの神に祈りつつ。
「……これで、二人きり。スラングは、出てこないで」
『……分かった分かった』
「なんでコイツ、アシュエリにこんな従順なの? 俺の言うことも聞けよ」
なんて言ってみるものの、アシュエリが言った通り無言を貫くスラング。この野郎一発ぶん殴ってやろうかな。
素直なスラングに心底ムカつくも、大きく息を吐いて気分を落ち着かせると。
「……アシュエリ、幾つか確認したい」
「ん」
コクンと頷いた彼女に、俺は向き合う。
アシュエリは一見いつも通りの表情で平気そうに見えるが、瞳は不安に揺れ、口元を結び、その小さな手は小刻みに震えていた。
当然だ。好きな人に告白して緊張しない人間なんていない。
俺だってエレスディアに告白した時は緊張……いや、他の女性のことを考えるのは厳禁だな。
だからこそ——確認しなくてはいけない。
「……俺は、エレスディアが好きだ」
「ん、知ってる」
「付き合うって約束もしてる」
「それも、知ってる」
「俺は——」
突然俺の唇に——細く温かな指が触れる。
それは彼女の指だった。
アシュエリの人指し指が俺の言葉を遮ったのだ。
「な、何を……」
「シーッ」
いきなりのことで困惑の声を漏らす俺に、いたずらっぽく笑うアシュエリが自らの唇にも人差し指を当てて唇を震わせた。
「——もう言わなくてもいい。全部、受け入れる。私は、ゼロと居られるだけでいい。他に、何も望まない」
だから、返事を聞かせて、と。
……あぁ。
本当に、本当に彼女は凄い人だと思った。
好きな人に別の人のことを好きだと言われてなお、その表情を浮かべることなんて俺には出来ない。
多分、そんな彼女だからこそ——俺は逃げ出さなかったのだ。
王城での反乱の時、俺は自分の行動指針とは矛盾する行動を取った。
死にたくないと宣う人間が、わざわざ死地に向かったのだ。
勝てない、死ぬと分かっていながら陛下達を助けに行った。
それは何故か?
当然——俺のような思いをさせたくなかったからだ。
両親を失った俺は、自暴自棄になった。
彼女にはそんな目に遭ってほしくなかったのもある。
しかし——それだけじゃなかった。
それに埋もれ、隠されたもう一つの理由があった。
自分でも気付いていなかったもう一つの理由に——今やっと気が付いた。
俺はただ——彼女に笑っていて欲しかったんだ。
わがままだけど、全てを背負おうと頑張った尊敬する彼女に。
そして——。
「…………ははっ、やっぱ俺ってチョロいなぁ……」
なんて呆れの孕んだ苦笑と共に、俺は唇に添えられた手にそっと触れる。
いきなり触れられたことで少し驚いた様子でビクッと手が震えたが、それも一瞬のことで、直ぐ様俺に委ねられる。
俺は可愛らしくきめ細やかな彼女の手を優しく握りながら、片膝をつく。
そしてその白く、頼りなく見えて頼りになる彼女の手の甲にキスを落とし——。
「——俺は、アシュエリが好きだ。俺と、付き合ってほしい」
誓いを立てるように、言葉を紡いだ。
対する彼女は——。
普段の無表情で、感情の読み取れない彼女の姿でなく。
全てを諦めたかのような絶望を纏った彼女の姿でなく。
「——はい、喜んで……っ」
金色の瞳のように眩く、希望に満ち溢れた笑顔を浮かべて——濡れそぼった目を柔らかく細めるのだった。
——————————————————————————
お久しぶりです、あおぞらです。
最近原稿に追われて更新できていませんでしたが、また更新していきますのでお願いします。
それと、ここからは書籍情報なのですが——この作品の書籍の特典情報が発表されました!
まずは三種の限定SS。
エレスディア、アシュエリ、カエラム団長とのものです。
次に有償特典として、エレスディアのタペストリー。
一巻収録のエレスディアがゼロの背を流しに来る場面です。
そして有り難いことに、ゲーマーズさんで発売記念フェアが開催されます。
対象のお店でこの作品をご購入いただけると、私のサイン入り複製原画がいただけるらしいです!
詳しい情報やリンクは作者の近況ノートにありますので、興味のある方は覗いてみてください。
この作品の続刊を出すためにも、9月15日頃発売のこの作品のご予約や布教、是非ともよろしくお願い致します!
ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)
応援する
アカウントをお持ちの方はログイン
カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る