【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第129話 ゼロVS破天
「——テメェがゼロか？」
ロウ教官の前に立った俺を憤怒の表情で睨み付けた男が、吐き捨てるように言う。
随分と腹の虫がおさまらないらしい。
「そうだ、って言ったらどうすんだ？」
「どうもこうもねぇ。俺がこの手でぶっ殺してやる」
男がガンッと拳と拳を突き合わせ、獰猛に犬歯を見せる。
漆黒の魔力は、荒れ狂いながらも奴の身体を寄り添うように滞留していた。
「そりゃ怖いことで。ところでアンタは誰？ 生憎君みたいな噛ませ犬君程度の有象無象なんて、俺のスペシャルブレインには記憶されてないんだ」
「す、スペシャ……？ 何言ってんだテメェは。それに——誰が噛ませ犬だって？ 俺は破天様だぞ？」
視界に映っていた男——破天の姿は消え、先程まで遠かった声が突如真横で聞こえた。
だが、俺は動かない。怯んだりもしない。
なぜなら——奴に敵意はあっても、殺意はなかったからだ。
奴の言動を見る限り、卑怯な手を使うようなことはしないと考えた。
それに、仮に今、奴に身体を吹き飛ばされたとて死ぬことはないのだから、余計な動揺は必要はないのである。
「そういうところが噛ませ犬だって言ってんの。俺そっくり」
「テメェ、自分のことを噛ませ犬だと思ってんのか？」
「だって英雄の言動じゃないって言われるもん。これでも世界で大注目の不死者様なのにさ。どうよ、酷いと思わん？」
なぁ、と同意を求めるように肩を竦めれば、破天は憮然とした表情で鼻を鳴らした。
「どうとも思わねぇな。どの道テメェはここで死ぬんだからよぉ」
「ははっ、面白い冗談も言えるんだな。アンタに俺は殺せないと思うんだけどな」
「ギャハハ、ガキが吠えるじゃねぇか」
俺と破天の視線がかち合い、互いの気迫がぶつかり空間がひしめき合う。
辺りに火花が迸り、破裂音が炸裂する。
暫しの睨み合いののち——
先に動いたのは——破天だった。
——ブォォォォンッッ！！
虚空を切り裂く漆黒の拳は、寸分違わず俺の鳩尾目掛けて放たれる。
対して俺は、手の平を腹に潜り込ませてしっかりと拳を受け止めた。
「こんなもんか？」
「馬鹿か、軽いジャブに決まってんだろうが！」
煽るように俺が笑みを浮かべれば、破天は言葉を吐き捨てながら再び拳を振るう。
ただ今回のパンチのキレと速度は先程の比ではない。
——ま、俺からすれば大して変わらないが。
「なっ！？」
「おいおいそんな驚かないでくれよ。まるでお前が俺より圧倒的に弱いみたいじゃん」
奴のパンチを完全に見切って最小限の動きで躱した俺は、驚愕する破天を更に煽る。
これでコイツの意識が完全に俺の方にいってくれたらありがたいんだけど……。
流石の俺も、周りの一般人を巻き込む無差別攻撃なんかされれば些か手を焼いてしまう。
生憎この【再構築】は、ポンポン気軽に使えるものでもないのだ。
「チッ……ガキがッ！！」
破天は隠す素振りなど微塵も見せず、これでもかと苛立ちを露わにしながら次々と拳を振るう。
とはいえ、流石帝国でもトップクラスの力を誇ることだけあり、態度とは裏腹に殴打のキレは冴え渡っていた。
「へぇ……口だけじゃないんだな」
「……っ、テメェ……」
感心を示す俺の様子に、腹立たしげにギリッと歯噛みする破天だったが。
「ならこれは受け切れんのかぁ！？」
「！？」
一瞬奴の纏う魔力が跳ね上がったと同時。
「——【滅せ、天の拳】ィィィィィィッ！！」
全てを呑み込まんとする漆黒の輝きが破天の拳より放たれた。
威力など語るまでもなく、俺の視界全てを埋め尽くす漆黒に俺は喰われる——
「——【原初能力：再構築】」
なんてことはなく、漆黒の光はまるで風船が割れるかのようにパァァァァンと破裂した。
俺はもちろんのこと、街にも、道路にすら被害は出ていない。
「………………は……？」
破天が唖然とした面持ちで息を漏らす。
一体何が起こったのか、そう思っていそうな呆けた表情で。
無意識なのか、俺から離れるように数歩後ずさっていた。
一方の俺は、パンパン服に付いた砂埃を叩きながらコキコキ首を鳴らしたのち、ニパッと笑顔を咲かせた。
「うん、なんとなく理解したわ。俺の実験に付き合ってくれてありがとう！」
「ッッ！？ て、テメェエエエエエエエエエッッ！！ 絶対にぶっ殺すッッ！！」
「——それは俺のセリフだよ、馬鹿野郎」
怒鳴り散らす破天との距離を一拍で詰めると。
「——【牢剣】」
【再構築】にて俺の魔力から灰色の剣を構築しながら剣技の名を紡ぐ。
剣が鈍い光を放ち、瞬きも終わらぬ間に幾百、幾千もの斬撃を全方位に繰り出す。
さながら——囚人を収容する牢獄のように。
——ズガガガガガガガガッッ！！
剣の光芒から少し遅れて幾重にも重なった轟音が鳴り響き、砂埃が宙に舞った。
——奴の気配は、完全に消えていた。
「…………ふぅ」
魔力によって構築された剣を消し、俺は強張り続けていた身体を弛緩させながら一息つく。
同時にドッと疲労感が全身を襲った。
……ひ、久し振りの運動って堪えるね……今すぐお布団に戻って寝たいよ、普通に。
あれだけ寝たっていうのに、もう既にベッドが恋しくなってきた俺の下に、アシュエリとロウ教官がやってくる。
「良くやったな、ゼロ」
「ありがとうございます、教官」
「……私の自慢の教え子だ」
ロウ教官は厳格ながらも険の取れた穏やかな表情で言う。
入れ替わるように、アシュエリが俺の目の前で止まった。
「……終わった？」
「ああ」
彼女の問い掛けに、俺はもはや原型を留めていない破天の死体が彼女の視界に入らぬように立ち位置を調節しながら頷く。
「……何、するの」
「いや、それはこっちのセリフだよ。アシュエリこと何してんの？」
せっかくこっちが配慮して見えないようにしてんのに、なんでわざわざ確認しようとすんの？
なんて意思を込めた資産を向ければ、何故かジッと見つめ返される。
「……な、なんだよ」
「……ん、心配してた。だって……彼女、だから」
「っ」
気恥ずかしそうに頬を紅潮させたアシュエリの姿は、俺の疲労困憊な身体を復活させるには十分すぎるものだった。
……ウチの彼女、可愛すぎないか？ こんなに可愛い彼女がこの世界に存在していいの？ これって合法？ 薬物より依存性高いけど大丈夫そ？
「……ありがとな、アシュエリ」
「っ！ んっ！」
「ははっ、よしよし」
ニパッとはにかみながら突き出されたアシュエリの頭を撫でれば、ご満悦な様子で目を細めた。
俺は一頻り彼女の頭を撫でた後、後ろ髪を引かれる思いになりながらも……それと同等くらいのもう一つの思いに従い手を離す。
「……これから、戦場に行ってくる。アシュエリはここでロウ教官といてくれ」
アシュエリは分かっていると言わんばかりの表情で頷いた。
理解のある彼女で助かる。……とんでもないクズだな俺。
「ん。ゼロも、頑張って」
「おうよ、頑張ってくる」
俺は彼女に背を向けて駆け出した。
——待ってろ、エレスディア。
ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）
応援する
フォロー
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われたの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録（無料）簡単に登録できます
この小説のおすすめレビューを見る
初めまして。
ファンタジーとラブコメを主体に書いている、例に漏れず銀髪大好きなひよこラノベ作家兼ラノベオタクです。
【書籍化作品】
◯ 精霊学園の隠れ神霊契約者〜鬱ゲーの隠れ最強キャラに転生したの…もっと見る
もっと見る
月見里 嘉助
★22,797異世界ファンタジー連載中278話2025年11月7日更新
みょん
★7,938異世界ファンタジー連載中42話2025年8月9日更新
破滅
★8,346ラブコメ連載中29話2025年6月7日更新
榊原イオリ
★11,277異世界ファンタジー連載中90話2025年9月24日更新
黒兎
★7,402現代ファンタジー連載中52話2024年11月24日更新
高野 ケイ
★3,737異世界ファンタジー連載中87話2025年10月29日更新
杯 雪乃
SF連載中336話2025年11月8日更新
20話分無料
瀬尾つかさ
SF連載中226話2025年6月20日更新
20話分無料
トップページマイページ閲覧履歴新着小説
