【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第63話 おっと??
「———やけにゼロがソワソワしていると思ったら……こんな男の欲望が詰まったかのような場所に来るためだった、というわけね」
「うぅ……はい……。日頃の疲れを取ってもらおうと思ってぇ……」
店の個室で3人の無言の圧力に身体を縮こまらせながら涙目で説明をする俺へ、エレスディアが面白くなさそうにジト目を向けてくる。
ただこれでも3人の中ではエレスディアが1番マシな方で……アシュエリ様とセラの王族組は何処までも冷たい瞳で俺を見つめながらも、終始無言を貫いていた。
こ、怖いよぉ死にたくないよぉー!
てか何でついさっきまで天にも登る気持ちだったのに地獄で閻魔大王の判決を待つ罪人みたいな緊張感を味合わないといけないんだよ……!
何て理不尽に思っていると。
「(お、おいゼロ! どうしてここにエレスディア達がいるんだよ!? てかアシュエリ第一王女殿下がいても大丈夫なのか!? 隣の美少女も佇まいからしてめちゃくちゃ位が高そうなんだけど!)」
未だ戸惑った様子ながらも3人を見て満更でもなさそうなフェイが、コソッと小さな声で問い掛けてくる。
そんな彼に、俺はいたたまれない気持ちから顔を伏せる……という芝居を打って口を開いた。
「(ふっ、ご明察だよフェイ。聞いて驚くな? 謎の美少女の正体は———元『殲滅の魔女』であるセラ・ヘレティック・フィーラインだ)」
「(ふんふん『殲滅の魔女』———ファッ!? おいおいおいおい何でフィーライン公国最強の魔法使いがこんな場所にいるんだよ!)」
「———何を話しているのかしら? 騎士の私に聞こえないとでも?」
コソコソと話し合う俺達に、冷たい声が突き刺さる。
そこからの動きは速かった。
「「少し話してただけですやーん」」
「フェイに御三方のことを教えてあげてただけですやーん」
「ホントに教えてもらってただけですやーん」
眉を吊り上げて首を傾げているエレスディアに、俺達は指し示したかのように三下風の媚びっ媚びな笑みを浮かべつつ揉み手を擦る。
因みにフェイも似非関西弁が使えるのは、偏に俺が普段から似非関西弁を多用して使っていたからに過ぎない。
なので別にフェイも転生者でした、的なオチはないです。
「てか何で3人がここにいん……いるのですか? まさか俺を見送った3人は幻覚か何かですか?」
俺が恐る恐ると言った感じで3人の顔色を窺いながら訊けば、セラが小さく笑みを零して言う。
「いえ、違いますよ? ちゃんとさっきまで王城のアシュエリさんの部屋にいましたよ?」
「あらあらこれはセラさん。随分抑揚のないお言葉ですね。もしかしてこっちが幻覚とか———はい何でもないです」
「コイツ馬鹿ね」
「うん、コイツとんでもねー馬鹿だわ」
ついつい調子に乗って普段通りに話しかければ最後、表情こそ綺麗で可憐な笑みを浮かべているものの、瞳の奥に極寒の世界を宿したセラの視線が俺を射抜き、スーッと目を逸らす。
しかし目を逸らした先で、俺の様子にエレスディアとフェイの呆れた視線が突き刺さり……居た堪れなくなって目線を自らの膝に固定させざるを得なかった。
いやだから怖いですって。
あと地味に2人の視線も心に来るんですけど。
何て思いながら涙目で下を向いていると。
「———私が、未来視で視た」
「「超絶能力の無駄遣いすぎる……!!」」
アシュエリ様が何てことない風に呟いた言葉に、反射的に俺とフェイの渾身のツッコミが炸裂する。
いやホントに何で王族固有の能力をこんな下らないことに使ってんのよ。
もっと色々と使う場面あるでしょ……仮に全然無くても間違いなくこの場面じゃないでしょうに。
「……その後、セラの魔法でここに来て、王族の権力を使って、一時的に店員になった」
「んんっ!?」
凄いでしょ、と言わんばかりにドヤ顔でむんっと胸を張るアシュエリ様。
その際物凄くお胸が揺れるが……今はそれどころではなく、ダラダラと冷や汗を書いた俺は対面に座るエレスディアの肩を掴んでガタガタと揺らし始める。
「おおおおおいエレスディア……何でそんな暴挙をお前が止めない!? 明らかに権力乱用じゃんか!」
「…………」
「おいこら目を逸らしたってそうは行かないぞ! あと、アシュエリ様もそんなポンポン権力を使っちゃ駄目でしょう!? 国王陛下に怒られるのは恐らく俺なんですからね!?」
「……ん、気付いたら終わってた」
何だよその気絶してましたみたいな言い訳は。
そんなんで俺が許すとでもお思い———
「———あ、あれ? そう言えば……ざ、ザーグは?」
………………ほぇ?
フェイの戸惑った声が耳朶に触れると共に反射的に自分の横を見つめ———まるで最初から何もなかったかのように誰も居ないことに気付いて、俺はビシッと固まって目を見開く。
い、いない……だと……!?
しかもあの巨漢がいないことに俺達が気付いていなかっただと……!?
通りで普段より静かだと……じゃない!
「え、ザーグは? アイツ、さっきまで居たよな?」
「お、おう……居たはずだぜ? だって確かにゼロの隣に座って———」
「———は〜い、ザーグ君は隣の個室にいるわよ〜」
俺達の疑問に答えたのは、まるで指し示したかのように現れた……この店に入って最初に話し掛けてくれた大人の妖艶な雰囲気を纏った美女の店員さん。
彼女はひょっこりと開けた個室の扉から顔を出してはニコニコしており、結構殺伐とした空気となっていることなど一切お構いなしと言わんばかりに口を開いた。
「フェイ君もおいで〜? お姉さん達が癒してあげるよ〜?」
「対戦よろしくお願いします」
お姉さんの言葉に一瞬で満面の笑みを浮かべたフェイが、持ち前の騎士としての身体能力を活かして天井スレスレまでジャンプすると共に扉の前に着地すると。
「ゼロ……あとは任せたっ!」
「フェイテメェえええええええええッッ!!」
満面の笑みのままグッとサムズアップしたかと思えば、デレデレと鼻の下を伸ばしてお姉さんに腕を引かれながら出て行った。
バタン……と無情に閉まる扉の音が無言の個室へと木霊する。
残るは俺と女性陣のみ。
相変わらず……というよりさっき以上に異様な緊張感が空間を支配する。
あー……終わった。
この状況だったら俺が死んでも誰も見てないしバレない……ふっ、まぁ死ぬのが美少女の手というのも悪くねーか。
精神的支えであり、3人の無意識のストッパーとなっていた2人が居なくなったことで、とうとう俺は死ぬのか……と半ば覚悟を決める俺の耳に。
「———ふぅ……何とか計画通りに行きましたね」
「まぁ計画なんて言えないくらいグダグダだったけれどね」
「ん、ちょっと遅かったけど……お金を渡した甲斐あり」
そんな度肝の抜かれる声が聞こえてきた。
これには俺も状況が全く飲み込めずにポカンと口を半開きして呆けてしまう。
「…………えっ?」
あのぉ……計画通りとは何ですかね?
しかもしれっと賄賂渡したって聞こえたんですけど?
えーっと……はい?
何て、もう何が何だかさっぱり分からない俺が視線を3人の間で彷徨わせながら所在なさげにオロオロしていると……エレスディアが少しバツが悪そうに視線を逸らしながら話し始める。
「……ゼロがこの店に来るのは、2週間前から知ってたのよ。まさか直行してくるとは思わなかったけれどね」
「え、ガチで?」
「ん。今までのは、7割お芝居」
「3割は本気だったんですね」
まさかの言葉に俺が素で驚きつつアシュエリ様の方を見れば、彼女もエレスディア同様にバツが悪そうにスッと目を逸らして小さくコクンと頷いた。
つまり、俺の行きの遠回りは完全に無意味な行動だったらしい。
「……ん? なら何でわざわざ知らないフリをしてたんだ?」
そう、1番の問題点はそこだ。
知っていたなら最初から止めればよかったはずで……なぜわざわざこの店に来させたのかがさっぱり分からない。
何て首を傾げる俺に、セラが少し頬を染めて告げた。
「———ここでなら、周りを気にせずゼロさんを癒せると思いまして……」
「詳しく聞こうか」
何故か物凄く追い風が吹き始めたこの状況に前のめりになった俺は、過去一レベルの真剣な表情を作る。
ここに一切のお巫山戯はナシだ。
「それで、何で知らないフリを?」
「元々、私達の間でゼロさんに日頃のお礼を……と思っていたのですが、職場である王城では知り合いが多くて恥ずかしいという意見と、色々な制約があって出来ないことが多く……」
知り合いが多くて恥ずかしいの部分で俺がエレスディアを見れば、フッと目を逸らされたので、どうやら彼女の意見だろう。
「そんな最中、アシュエリさんの未来視でゼロさんがこの店に行くと分かったものですので……人目を気にする必要もなく、元々色々な物が揃っているこの場所でゼロさんの好きそうなことをやろう、ということになったのです」
良く分かってるじゃないか。
俺は下手なプレゼントより女の子とのボディータッチや遊びの方がよっぽど喜ぶってな。
誰が発案者か知らんけど褒めてやりたい。
何てキリッとした表情の下で考えつつ、一応確認として尋ねる。
「……3人は分かっているのか? ここがどんな所で、どんなことをする所か」
ここはコンセプトとしてちょっぴりエッチなことはセーフなのだ。
彼女達がそれを是としてこの企画を考えたのかは聞いておかなければならない。
そんな意図を孕んださながら面接官の如き空気を放つ俺の問い掛けに、各々が反応を見せる。
「———も、ももももちろんよ。あ、アンタを癒やしてあげるから……お、大船に乗ったつもりでいなさいっ!」
気恥ずかしさからか顔を真っ赤にして瞳孔をぐるぐると回しながらも、必死に勝ち気な普段通りの笑みを浮かべようとするエレスディア。
「———ん、任せて欲しい。ゼロがとろけるように頑張る」
恥ずかしさや躊躇の欠片もなく、寧ろ頼り甲斐すら感じるほどの自信満々なドヤ顔で頷くアシュエリ様。
「———ふふっ。日頃の感謝を込めて、沢山甘やかしてあげますね?」
まるで聖母のように、全てを包み込んでしまいそうなふわっと可憐で包容力を感じる笑みを浮かべるセラ。
そんな3人の意気込みを聞いた俺は、1度ゆっくり瞑目すると。
「———じっくり堪能したいので、1人ずつでよろしくお願いします」
カッと目を見開いたと同時に———恥や外観を捨てて、全身全霊を籠めた土下座を決め込んだ。
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次回、ヒロインズ達の癒しスタート。
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