【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第65話 アシュエリ様は未来が視えている
「———……思った以上に、ダメージ大きい」
「…………それは俺の言葉ですよ。美少女のバニー服姿を見て鼻の下伸ばしながらデッレデレしてるクソド陰キャキモオタ状態を見られたら消滅してくなりますって」
アシュエリ様の番に変わったは良いものの、俺達は絶賛ズーン……と周りに暗い影でも纏っているかの如く項垂れていた。
身体1つ1つを動かすのに力がいるのを鑑みる限り、個室の重力が何処ぞの野菜人の惑星みたいに10倍になっているかもしれない。
因みにそれぞれが項垂れている理由は、アシュエリ様が身近な2人がとんでもない姿と表情を見てしまったからで……俺はもちろん、普通に後から自分で思い返して悶え死にそうな姿を身近な美少女に見られたからだ。
心身のダメージが大きいのは何方か言うまでもないだろう。
もうね、恥ずかしいのレベルを超越してるのよ。
あの時の自分の姿を冷静に客観視出来るレベルに達しちゃったのよ。
まぁそんなこと言いながらも顔は真っ赤なんだろうけど。
「というか、アシュエリ様は何で30分も経ってないのに覗きに来たのですか?」
俺がジトーっとした視線を遅れば、アシュエリ様がスーッと俺の視線から逃げるように目を逸らした。
「……気になった」
「その好奇心のせいでエレスディアがダウンして10分ちょいしかご褒美タイムがなかったんですけど!?」
そう、俺はエレスディアとのご褒美タイムは3分の1の時間で終了してしまった。
理由はもちろん、アシュエリ様がこの部屋を覗いたがために……エレスディアが恥ずかしさの限界に達して気絶してしまったからだ。
まぁでも、あのままだったら普通に襲ってしまいそうだったので、良いタイミングと言えば良いタイミングではある。
もちろん一生許すことはないだろうが。
何てお互いに無言の時間が続く中……俺達は1度目を見合わせて頷いた。
「お互い、見なかったことにしましょう。アシュエリ様はエレスディアが出ていってから少し経って入ってきた。何も見ていない、ということにしましょう」
「……ん、忘れる。時間が勿体ない」
そう言ったは良いが……やはり直ぐ様切り替えることは難しいので、ここは責任を取って俺が咳払いと共に話を切り出す。
「ごほんっ! ———アシュエリ様、マッサージしてくれませんか?」
「……マッサージ? それだけ?」
アシュエリ様は、拍子抜けと言わんばかりに表情を殆ど変えることなくキョトンと首を傾げた。
確かにえっちなことも軽くなら可能なこの空間において拍子抜けと言われればそれまでだが、それだけという言葉は非常に心外だ。
「分かってないですね……アシュエリ様。マッサージは有象無象のえっちなんかよりよっぽど気持ち良いんですよ! この疲れている状況において、俺はえっちより全身の疲れを取ってくれるマッサージを取りますね!」
分かる人いない?
お店の全身揉みほぐし受けたら普通にとろけちゃいそうになるんだよ。
日頃の疲れが綺麗に浄化されてさ。
何て力説する俺に、アシュエリ様が不思議そうに目をしばだたかせる。
「……さっき、えっちな———」
「おっと、それは存在しない記憶だと言いましたよね?? てか俺、人生で1度でも良いから超絶美少女に全身を揉みほぐして貰いたかったんです。お願いしますアシュエリ様、1度でいいんです。1度で良いから美少女の手でマッサージを受けて癒やされたいんです……!!」
俺はアシュエリ様の前で平伏しながら涙まで流す。
最終的には土下座で泣き落としという、我ながらおねだりのレパートリーが情けないことへ集中特化してる気がしなくもないが……これが俺なりの出世術だ。
ダサいだの格好悪いだのという異論は一切認めん。
何て心の中で誰とも知らない者にガンを飛ばしていると。
「別に、やらないとは、言ってない。ただ、ゼロだから、えっちなお願いかと思っただけ」
「何てこというんですか、アシュエリ様。俺はそんなエロいことばかり考えているような奴じゃ……奴じゃ……ない、かもしれませんよ……?」
アシュエリ様が呆れを孕んだ視線を向けつつ不名誉なこと口にしたので、反射的に言い返すも……今までのことを思い出してどんどん尻すぼみに小さくなっていった。
そんな肩を縮こませる俺を見て、アシュエリ様が仕方がないとばかりにため息を吐いて肩を竦めると。
「そこ、寝転がって」
「いやっふぅぅぅぅぅ!! さっすがアシュエリ様!」
そう言って個室の中のソファーを指差した。
もちろん俺は大喜びでソファーに寝転がり、いつでもマッサージされても良いとのオーケーサインを出す。
「さぁ、幾らでもどんなところでも———」
「……むぅ、やっぱり時間切れ」
「…………えっ?」
突然拗ねた様子で呟かれた言葉に俺が素っ頓狂な声を上げると同時———。
「———ゼロ、私とセラのご褒美はまた後で」
何処か険しい表情を浮かべたアシュエリ様がそう告げて個室から出ていく。
バタンと相変わらず哀愁すら感じる扉が閉まる音が耳朶を揺らしたが最後、静まり返る個室に1人取り残された俺は……ポツリと零した。
「…………お預け……マ?」
———場所は変わり……アシュエリ様の部屋にて。
「「「…………」」」
「……へろいふぁい」
途中で邪魔されたエレスディアと良い所でお預けを食らった俺。
そして———ただ行って無意味に待っただけという不憫過ぎるなセラ。
全員が全員、未来を視れる美少女———アシュエリ様に翻弄された者達の代表として選出された俺が、絶賛アシュエリ様のほっぺをグニグニしていた。
頬を弄ばれるアシュエリ様は、彼女にしては珍しく視線を右往左往させて身を縮こまらせている。
「アシュエリさん……」
「んみゅ、にゃに———!?」
「全部、知っていたのですよね?」
ずっと顔を俯かせていたセラが、威圧感マシマシの黒い笑みを浮かべて、全く笑ってない瞳でアシュエリ様を覗き込む。
これにはアシュエリ様も目を見開いて、逃げようとジタバタするが……それはエレスディアが許さなかった。
「あら、逃がさないわよ? さぁ、全部吐きなさい?」
「だゃんこきょひしゅりゅ」
「拒否権があるとお思いですか?」
ウチの女性陣が怖い。
こういう時は余計な口を挟まず、大人しくアシュエリ様のほっぺをムニムニする係の役に徹するに限る。
俺にだって学習能力はあるのだ。
ただ途中で考えるのが面倒臭くなるだけで。
何てアシュエリ様のすべすべモチモチなほっぺの感触を堪能していると……。
「ゼーロー?」
「ゼロさん??」
何故か分からないが、アシュエリ様を詰問していた2人がジトーッとした目で俺を見ていた。
ただここでは余計なことを話せば殺されると本能的に悟った俺は、ギギギッと顔を向ける。
「ハイナンデショウ」
「顔が弛んでるわよ? 私が引き締めてあようかしら?」
「結構です。アシュエリ様、早く吐くのが身のためですよ?」
これ以上白羽の矢を立たれるのは敵わないので、俺はアシュエリ様のほっぺを少し強めにつねってみる。
すると、流石に観念したのか……『いふ。ちゅねるのひゃめて』と言って俺の手を軽くタップした。
「……ん、やっと普通に話せる」
「アシュエリさんが強情なのがいけないんですからね?」
「……セラ、怖い」
ホッとした様子で自らの頬に触れるアシュエリ様に、平坦な声でノータイムで切り返してくるセラ。
これには流石のアシュエリ様も普段ぼーっとしている瞳を若干潤ませて俺の後ろに隠れて視線から逃げようとする。
マジ分かるわー。
セラって怒ったら超怖いんだよな。
マジで余計なことを言ったら消されそうな雰囲気。
何て内心アシュエリ様の言葉に激しく同意していると。
「あと少しで、団長が乗り込んでくるところだった」
「「「!??!??」」」
突然アシュエリ様がとんでもない爆弾発言をぶっ込んできた。
え、今なんて言った?
あと少しでカエラム団長が乱入してくるところだったって??
「私が言わなかったら、今頃……」
「「「本当にありがとうございます」」」
俺達は3人同時に掌を返してアシュエリ様を崇め讃える。
それほどまでに、俺達3人にとって団長はトラウマ者だった。
いやマジで団長があの場に来てたら詰んでたわ。
普通に死ぬ。
まさか知らない所でそんな地獄が待っていたとは知らず、思わずホッと安堵のため息を吐いていると。
「……これから数十分後、ゼロとセラに王都から数キロ離れた場所に現れた魔物の討伐が命じられる。エレスディアは、アルフレート副団長と反対側」
どうやらお巫山戯ムードは終わりらしく……俺の後ろから出てきたアシュエリ様が緊張感を孕んだ声でそう告げる。
しかし、俺にはその言葉が大げさに聞こえた。
「え、でもさ、何で俺達が出ないといけないんだよ? 俺とセラとか、エレスディアと副団長とかってあまりにも過剰戦力じゃん」
「……ゼロ達が対処する魔物は、戦略級以上。しかも、戦略級とか上級の魔物を従えてる」
…………め、面倒臭え……!!
何で俺がわざわざ癒しの時間を割いてまで討伐に……ちょっと待てよ?
俺はそこまで考えた所で、名案が浮かんだ。
———『今から向かってボッコボコにすれば良くね?』である。
折角分かっているなら、わざわざ待つ必要もない。
てか何が戦略級魔物だよ。
俺のご褒美タイムを邪魔するとか万死に値するだろ、ぶっ飛ばしてやる。
とっととぶっ倒してもう1度ご褒美を貰うんだ……!!
何て下心満々なことを考えつつ、俺は自信ありげな笑みと共に口を開く。
「なぁ……俺にちょっといい考えがあるんだけど」
「奇遇ね、私もよ」
「ふふっ、私もです」
「……ん」
俺達はお互いに目配せをしたのち———。
「「「———今直ぐ倒す」」」
馬鹿と天才は紙一重とは良く言ったもので……俺達全員が全く同じ考えの下、一斉に動き始めた。
「……ゼロは、私が救う」
ただ1人———未来を見通す少女だけが金と碧の瞳に覚悟を宿し……自らを救ってくれた、顔に被った笑みの下に苦悩を隠す少年を見つめるのだった。
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