【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第66話 戦略級魔物が怖い? いえ、美少女の方が100倍怖いです
「…………嫌な予感がするんですけど」
俺、エレスディア、セラの3人はそれぞれの全力を持って、僅か十分弱ほどの時間で戦略級を越える力を秘めた魔物がいるとかいう場所にやって来たわけだが……少し時間が経って冷静になったせいで、早速俺は腰が引けていた。
いや……何で自分から戦いに来たんだよ俺。
普通ならそんな危険な魔物は団長とか副団長にまかせればいいじゃん。
だって戦略級を越える魔物だよ?
普通にボッコボコにされる可能性がある相手だよ??
———ホンマ何してんねんッッ!!
何て内心過去の自分の愚行にキレ気味にツッコミつつ……どうせここまで来たらやらないといけないことを知っている俺は、諦めて辺りに視線を巡らせる。
この場所を一言で言えば……王都と有力貴族の領地を結ぶ陸路。
点々と10メートル前後の木が立ち、背丈の小さい草がチロチロと申し分程度に生えているレベルの中々の荒地だった。
また、陸路と言っても整備されているわけではなく、道も数々の行商人の馬車が通ったかのような車輪痕が自然と道を作った……といった感覚だ。
正直陸路と呼んでも良いのか分かんないレベル。
「ここまでは良いんだけど……これがなぁ……」
「……何よ、これ」
しかし、道から少し逸れた場所に———直径5メートルは裕にありそうな巨大な穴が開いており……明らかにこれが魔物の巣に続く道っぽかった。
そんな底の見えぬ穴を露骨に顔を引き攣らせたエレスディアと共に覗き込んでいると。
「———っ、来ますっ!!」
突然セラが魔力を練りながら鋭い声で警告してきた。
少し遅れて俺達もとんでもない気配を捉えて更に顔を引き攣らせる。
「ねぇ何だよこの気配っ! 明らかに俺より強いんですけど!?」
「くっ……文句言ってないでとっとと準備しなさい!」
「くそう、これが終わったら絶対沢山休暇貰ってやる……!!」
何て愚痴問答を繰り広げながらも……俺は涙目で【極限強化】を発動。
全身を薄い膜状に白銀のオーラが装飾すると同時に、言葉に言い表せない全能感が身体を支配する。
最近はすっかり使い熟せているので、殆ど痛みも感じない。
「2人とも準備……オーケーそうだな、うん」
チラッと2人を一瞥してみれば、俺以上に精錬された真紅のオーラをその身に纏わせたエレスディアの姿と、幾つもの魔法陣を自身の周りに展開させたセラの姿が目に写った。
おお……やっぱり2人ともスゲーな。
これが本当の天才って奴なのかね。
まぁでもこれでいつ来ても大丈夫———
「———キシャッ!!」
…………———ファッ!?
「「———いやキッッッッモッ!?」」
「…………2つの意味で気持ち悪いです……」
現れた魔物の姿に俺達は仰天する。
黒光りする硬そうな殻。
巨大な身体を支える6本の足。
鋭く尖ったギザギザの大顎。
クネクネと動く触覚。
巨大な複眼とよばれる目。
そう、俺達の眼の前に現れた魔物の正体は……アリだ。
———体長10メートル級の、だが。
小さいアリはちょっと可愛く見えるが……自分よりも何倍も大きくなったらもはやキモいという言葉しか出てこなくなるくらい気持ち悪かった。
セラなんて顔を真っ青にして口元を押さえている。
「うぅっ……は、吐きそうです……」
「だ、駄目だ! それだけはアウト! ゲロインなんかになったら一生不名誉なあだ名が付けられてしまうぞ! 頑張れ頑張れセーラ! 負けるな負けるなセーラ!」
「アンタ五月蝿いわよ! ほら、早く叩きのめ……」
『やぁ』と言わんばかりに穴から続々と現れるアリ達。
その姿にエレスディアの言葉が途中で途切れ……生理的嫌悪か純粋にキモいからか分からないが、顔を引き攣らせて何歩も後ろに後退った。
「き、キモいキモいキモい……あんな魔物がいるなんて聞いてないわよ!」
「いや俺に当たるなよ!? 俺だってあんなキモい奴が相手だって知ってたら来てないっつーの!」
俺は美少女2人にしがみつかれるという……普通の時なら有頂天になりそうな状況でありながら、涙目で剣を握ると。
「———か、掛かってこいやあああああああああああああっっ!!」
足が竦む2人の代わりに先陣を切る。
ドゴンッと地面が陥没し、俺の身体が弾丸を裕に越える速度で空気を斬り裂いてアリ型の魔物に肉薄。
ここで大抵硬すぎて跳ね返される〜〜みたいなテンプレがあるが、正直死ぬほどどうでも良いので、初っ端から全力でやることにした。
「【一刀両断】」
燃えるような白銀の魔力を宿らせた剣をアリの脳天へ垂直に振り下ろす。
———ズバァァァァァン!!
剣を伝って手に一瞬の抵抗を感じるも、難なくアリの頭を斬り裂いた。
アリの頭が縦に両断され、体液か何かが地面に大量に流れ落ちる光景は一種のグロ映画のようだった。
「死んでもキモいとか終わってるよ」
そうグチグチと言いながらも、勝てない相手ではないことにホッとひと息ついて剣を収めようとしたその瞬間。
「———ギチギチギチ!!」
「っ!?」
突然頭を真っ二つにしたはずのアリが動き出し、直径30センチはありそうな太い前足が鞭のように俺の身体を強打する。
俺は上に血がせり上がってくるのを感じつつ、驚愕に目を見張りながら吹き飛ぶ。
いやいやいや……今頭斬りましたやん。
え、普通に何で死なないの?
もしかしてお前も俺とかあの悪魔と同じパターン?
「ゼロ、大丈夫?」
数十メートル吹き飛ばされた俺に、一刀の下に2体ほどのアリをぶっ殺していたエレスディアが心配そうに声を掛けてくる。
そんな彼女の呼び掛けに、俺は軽く手を振って応えた。
「ごふっ……いやダイジョブダイジョブ。ちょっと不意を突かれただけだし。別に反応できなかったわけじゃないし」
「別に言い訳しなくてもいいわよ」
「い、言い訳じゃないし! ほんとに隙を突かれてだけですぅー!」
何て、呆れを孕んだ瞳を向けてくるエレスディアに俺が苦し紛れの言い訳……もとい事実を述べつつ、俺を吹き飛ばしたアリに目を向けると。
「【火精霊の剛腕】」
———ドゴォオオオオオオオ!!
セラの契約精霊である炎の身体を持った精悍な男が、何倍にも膨れ上がった自身の腕を振るい……アリの身体の3分の1を消し飛ばすと共に炎上させていた。
ついでに周りの何体かも巻き添えを食らって藻掻き苦しんでいる。
……じ、地獄絵図や……あのアリが一網打尽にされてるじゃん。
てかセラさん、強すぎませんか?
あの時ホントに何で勝てたんだよ、俺。
「ゼロさんを傷付けた罪は重いのです。そのまま炎と共に消えなさい」
「いやセラさーん?」
影を落としたような表情でアメジストの瞳に何の感情も宿さず無慈悲にアリ達をフルボッコにしていたセラが、俺の声に気付いたらしく……パッと表情を明るくしたかと思えば、遠慮がちに手を振る。
「ゼロさんっ、私が仇は取りましたよっ!」
「あら可愛い———じゃなくて。俺、全然死んでないからね? 仇もクソもないからね?」
「気持ち悪い見た目の虫風情がゼロさんに触れただけで重罪ですよ?」
キョトンとした表情で首を傾げるセラだったが……その姿にあまりにも不釣り合いな物騒過ぎる言葉を吐いた。
「いやそんな純粋な目で怖いこと言わないでよ。いつからそんなにお口が悪くなったのっ!? 先生、本当に悲しいわっ!」
「ご、ごめんなさい……虫けらと言い直すことにします」
「全く変わってないですけど!?」
何て俺達が言い合っていると。
「———へぇ……こんな時にイチャつくのね? 私1人に仕事を任せて?」
後ろから冷水をぶっかけられたかのような冷たい声が響く。
俺はその声を聞いた瞬間、振り向くまでのコンマ数秒の内に渾身の媚びた笑みを浮かべる。
「へへっ、滅相もないですぜ、エレスディアさん」
「その口調やめなさい。キモいから」
「はいごめんなさい」
エレスディアの軽蔑すらしていそうな視線に俺は流れるように謝罪に入る。
もう色んな人に謝りすぎたお陰で、土下座と一緒で無駄がない。
そんな俺の完璧な謝罪術には、あの鬼であるエレスディアも仕方ないと言わんばかりにため息を吐く———。
「———ふふっ、そう見えても仕方ないですよ。だって……仲良しですから、私達」
俺の腕を抱いて、セラがニコッと笑った。
これには、流石の俺も腕に感じる胸の感触を堪能する間もなく飛び退いた。
「セラさん!? 君、そんなに喧嘩腰だったっけ? あ、あれか! 戦ってるからアドレナリンが出てるんでよな!? そうだよな!?」
「? 違いますけど……?」
ほなもう無理です。
俺は恐る恐るエレスディアの方を見て……悲鳴が出そうになるのを寸前で抑え込んだ。
「……っ、へ、へぇ……言うようになったじゃない。斬り刻まれたいのかしら?」
エレスディアは露骨にイラッとした様子で眉と口角をピクピクさせ、燃えるような真紅の瞳とは正反対の絶対零度の色を灯していた。
ついでに先程のセラに負けず劣らずの物騒な言葉も添えて。
しかし、俺だったら即座に土下座で謝り倒すであろうエレスディアを前にしても、セラは穏やかな笑みをたたえていた。
「ふふっ、そんなに怒らないでくださいよ。事実を言っただけですよ?」
「あら、そう? でも……悪いけれど、ゼロは私の方が仲良いのよね。私はゼロが弱っちい時からずっと一緒に居たもの」
「……ふふっ、御冗談が上手ですね? 時間なんて些細なことではないですか?」
「そうは思わないわね。それに……私はコイツと幾つもの死線を潜り抜けてきたわけだしね?」
あ、あのぉ……そろそろ味方同士でのマウントの取り合いはやめませんか?
ほら、2人から出る空気が怖すぎてアリ達も後ずさってるから。
てかやっぱり2人とも俺のこと好きだろ。
俺は2人を見てギチギチと大顎を鳴らして後ろに下がっていくアリ達の姿を眺めながら……。
「……今の内に数でも減らしておこうか。うん、触らぬ神に祟りなしって言葉もあるもんな」
普通にアリより2人の方が怖かったので……2人の間に入るのは諦め、ここぞとばかりに怯んでいるアリ達へと突撃した。
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