【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第67話 天才美少女エレスディア
「———俺、正直アリを嘗めてたわ」
途中から言い争いを中断させた2人の獅子奮迅の活躍もあって、地上に現れたアリを駆逐し……親玉を倒そうと巨大なアリ型の魔物の巣に入ってから十数分。
俺は雑兵アリの巨体を五等分の輪切りにして殺しつつ……結構マジな声色で呟く。
そんな俺の言葉に同意するように、同じく雑兵アリを相手取っていた2人も顔に僅かな焦燥感を浮かべて頷いた。
「そうね、私もよ。3人いるから余裕かと思っていたけれど……」
「ギリギリ、ですね……。一向にアリ達が減っている気配もしませんし、この先に彼等の主君がいることを視野に入れると……魔力が心許ないです」
「だよなぁ……」
俺はチラッと後ろを一瞥して大きなため息を吐く。
背後に続く巣の道は、まるで台風が通った後の畑のように……全身をバラバラに斬り刻まれたり、身体を真っ二つにぶった斬られたり、全身に無数の風穴を開けられた様子でピクリとも動かないアリ型の魔物の死骸で埋め尽くされていた。
もちろんやったのは俺達だが。
はぁ……こんなに倒したのにまだうじゃうじゃいるのかよ……もういいって、お腹いっぱい通り越して吐きそうだって!
こんなのアルフレート副団長でも勝てないだろ!!
てか———。
「———コイツら幾ら何でも強すぎない!? え、何でどいつもこいつも戦略級ばっかなの!? 普通にこいつらに一気に攻められたらアズベルト王国も陥落しそうなんですけど!?」
もう何百体と倒しているが……その1体1体が戦略級と同等か僅かに劣るレベルの力を有しているのだ。
大国であるアズベルト王国でも100人程度しかいない精鋭級が今確認しただけでも数百はいると考えれば、俺が叫ぶ気持ちも分かってくれるだろう。
しかも俺達が進む先数キロ奥にはもっとヤバイ奴がいる。
戦略級を凌駕する……それこそ戦略級の上———小国級魔法である【身体進化・鬼】を使用したバルバトスや本気を出したセラと肩を並べる程の気配を放つ化け物が。
こんな状況———馬鹿な俺でも、異常だと分かる。
何て俺が柄にもなく危機感を抱いていると。
「———キシャァァァアアアアアアア!!」
突然、硬い物を擦り合わせたかのような耳を劈くほどの甲高い怒号が響き渡った。
あまりの音の反響に、巣全体が揺れてパラパラと土が落ちてくる。
それは、やばいやばいと言いながらも何処か大丈夫だろう……何て気を緩ませていた俺達の気を引き締めるには十分だった。
「……マジかよ、ガチギレじゃんか……」
「まぁ……沢山倒しましたからね」
剣を構えながらも、嫌だなぁ……という感情が全面に顔に出る俺と、その俺を見て苦笑を零しつつも……隙無く徐々に全身から魔力が湧き出し始めるセラ。
そして———。
「……出し惜しみしてる暇はなさそうね」
何処か覚悟を決めた様子のエレスディアが、真紅の双眸で前方を鋭く睨め付ける。
剣を握る手に力が籠もるのと同調するかの如く真紅のオーラが揺れ動き……セラの全力には僅かに劣るものの、オーラに変換された膨大な魔力が激しく燃えるように彼女の全身から迸った。
その姿に一瞬目を見開いたのち……俺は仕方ないとばかりに肩を竦めた。
「エレスディア———ご注文は?」
「ゼロ———1分よ、1分でけりをつけるわ」
そう、此方を見ることなく告げるエレスディアに答える代わりに、俺は【固有魔法:限界突破】を発動。
白銀と赤黒いオーラが渦巻くように俺の身体を覆い、ビキビキと全身に真紅の亀裂が走る。
「むっ……何だか妬けますっ……」
『相変わらず可愛いねーセラは』
『ガハハハ!! 主も面倒な奴にごペッ!?』
『馬鹿かよテメェは。テメェがセラの気持ちを言ってどうすんだ?』
『全く……ドワーフさんはお騒がせ者ですねぇ』
俺達の姿を見てジトーっとした瞳を向けてきているセラの周りには、久し振りに四色の精霊達が勢揃いで姿を現していた。
相変わらず目ん玉飛び出るくらいの魔力量だ。
「さて、俺達は準備万端だけど……どうですか?」
俺は此方に向かってくる強大な気配を感じていつでも動ける様に剣を握りつつ、額に大量の汗を浮かべながらオーラを制御しているエレスディアに問い掛ければ……小さく息を吐いたのち、いつもの勝ち気な笑みを浮かべた。
「———今終わったわ。«我が身を揺蕩う数多の魔力よ、我が身に進化を齎し給え»———小国級強化魔法【身体進化・不死鳥】」
———真紅と蒼の神々しい聖なる鳥が翼をはためかせた。
無数の蒼炎の羽が空を舞い、炎の身体を持つ不死鳥が鳴き声を上げる。
大きな翼を広げた真紅と蒼の不死鳥が守るようにそっとエレスディアの全身を包み込めば、不死鳥の身体から燃えるような真紅のオーラが噴き上がり……その全てが一点に収束してゆき———。
「———約束通り、アンタと隣で戦える力を手に入れたわよ」
真紅の髪を靡かせて頭に蒼の羽の冠を被り……背中に燃えるような真っ赤な翼をはためかせながら全身を炎のアーマーで装飾した———美しさの中に凛々しさも包括した美少女が現れる。
そのあまりの美しさに見惚れるも……俺はあまりの凄さに肩を竦めるしかなかった。
「……相変わらずバケモンだな、お前」
「あら、化け物のアンタに近付くには……私も化け物にならないといけないでしょ?」
そう言って俺と精霊を召喚したセラを一瞥した。
「……買い被り過ぎだっつーの」
「……凄いですね、エレスディアさんは」
「私の先にいたアンタらに言われるとむず痒いわね。……っと、そろそろお出ましよ」
エレスディアの言葉と共に———沢山のお仲間を連れた体長30メートルは裕に越える灰色の胴長な女王アリが怒り狂った様子で現れた。
「キシャァァァアアアアアアアッッ!!」
「キモい虫のくせに五月蝿いわよ。———ゼロ」
「あいよ。人使いが荒いな」
俺はグッと身体を沈み込ませると、刹那の内に女王アリの周りにいるアリに肉薄。
「———ウチの相棒が死をお望みだ。まぁ死んでくれや」
少し前とは別次元の威力を誇る剣技———【一刀両断】で撫でるようにアリの身体に剣を滑らせ……顔から尾の先まで綺麗に両断する。
そのまま身体を捻って方向転換すると共に反応出来ていない隣のアリに接近して剣技———【牢剣】で全方向から数体を巻き込んで剣撃を食らわせ、細切れにした。
「ふぅ……ハハッ、セラもエグいねぇ」
俺が5体ほど倒す間に残りの十数体を魔法で一網打尽にしているセラの姿に乾いた笑みを浮かべつつ……女王アリとバトっているエレスディアに目を向ける。
「チッ、硬いわね……【飛燕斬・連式】」
「援護します! ———【土精霊の土遊び】【火精霊の剛腕】」
エレスディアが翼を使って宙を縦横無尽に駆け回りながら、無数の真紅の斬撃を飛ばし、女王アリの強固な身体に深々と傷を付ける。
そんな彼女を援護するようにセラが地面を隆起させて女王アリの身体を拘束すると共に、精霊であることを活かした炎精霊が下から炎の拳を叩き込んだ。
———ズガァアアアアアアア!!
「キシャァァァアアアアアアア!?!?」
「だから五月蝿いわよ! ———【一刀両断】ッッ!!」
———斬ッッ!!
裂帛の声と共にエレスディアの身長の2倍くらいに膨張した真紅の剣が女王アリの身体を両断したかと思えば———エレスディアの身体が掻き消える。
「!?」
え、どこにいった!?
この目でも見失うこととかあります!?
今までにないことに何もしていない俺が動揺して辺りを見回すと。
「終わりよ———【灰燼の翼刃】」
「終わりです———【火精霊の剛腕】」
———ズドォオオオオオオオオオッッ!!
気付けばセラとエレスディアが女王アリを挟むように立ってそれぞれの最高火力技を放っており———眩い光と膨大な熱量が辺りを支配した。
……えー、つっよ。
ゆっくりと視界が晴れる中……跡形もなく消し飛んだ女王アリの居ない場所に佇む2人の姿に、俺は感嘆のため息を漏らした。
「…………」
俺は安心したように笑みを零す彼女達を眺めたのち、自分の手を見つめて———言葉では言い表せない焦燥感にグッと拳を握ると。
「———おいおいボスを倒したからって油断は禁物だぜ? それに此処、めっちゃ臭いしとっとと帰らん?」
2人に近付きながらへらりと笑みを浮かべて肩を竦める。
そんな相変わらず【無限再生】のお陰でピンピンしている俺へとエレスディアとセラの視線が向けられたかと思えば、2人揃ってクスッと笑みを零した。
「……そうね。アンタに言われるのは癪だけど」
「疲れてても俺への口撃力は変わらないね、君」
「ふふっ、私も少し疲れました。帰ったら湯浴みをして汗と臭いを流したいです。あ、ゼロさんも一緒に入りますか?」
「入りたいです!!」
俺は、セラにクスクスと揶揄うような笑みと共に告げられた大変素晴らしい提案に速攻で食い付く。
すると案の定、鬼や悪魔より怖いで有名なエレスディアが呆れた様子でため息を吐いた。
「あ、アンタねぇ…………まぁその身体で待たせるのも悪いし、良いわよ」
「はいはいどうせ駄目———なにぃぃぃ!?!?!?」
何かノリツッコミをしたみたいになったが……結構ガチで驚いている。
もはや寛大すぎて怖いまである。
「お、お前は誰だ!? セラ、本物のエレスディアが何処にいるか知らないか!?」
「分からないですっ!」
「アンタ達それ以上言ったら海に沈めるわよ!?」
「あ、本物だわ」
「本物ですね」
「帰ったら1回ぶっ飛ばしてあげるわ」
眉をピクピクさせて追い掛けるエレスディアから、俺達はケラケラと笑いながら逃げるのだった。
———ドクンッ。
心臓が強く鼓動を刻んだ気がした。
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