【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第68話 苛立ち
今回短いです。
キリが良いから許してください。
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「———ふぃ……いい湯だったな」
パパッと風呂に入った俺は、誰も居ないアシュエリ様の部屋のバルコニーで夜風に前髪を弄ばれながら……つい先程の戦闘を思い出していた。
ササッと入ったとは言え風呂から出たばかりということで、僅かに火照った顔をなぞる風が大変気持ち良い。
これだからどんなに疲れていても風呂に入るのだけは止められないのだ。
因みに2人とは一緒に入っていない。
正直2人との混浴は大変魅力的なものではあったが、今は何だか1人で居たい気分だったので、血涙を流しながらお断りしたのだ。
ん? 血涙流すくらいなら入れば良いじゃんって?
あーはいはい、そう言っちゃうパターンの人ね?
あーそっち行っちゃうかぁー。
———全くもってその通りだよ。
ええ、ぐうの音もでないド正論ですね。
現在進行系で物凄く後悔してるもんな。
こんなんだから馬鹿って言われるんだよ、分かるか俺?
「ああ……マジで断らなきゃよかったぁぁぁ……今から入っても大丈夫かな?」
俺はバルコニーの手すりに『ぐでぇぇ』との擬音が付きそうな程に突っ伏して大きく嘆息を零す。
その際に不意を突くように下が見えて、いつもそれ以上の高さを経験しているはずなのに、リラックスしている状態で気付いたがゆえに予想以上の高さにひゅっと身体が竦む。
いや高っ!?
最近ずっとここに住んでるから全く気にしなくなったけど……この城ってバカクソデカかったんだったわ。
やっぱり慣れって怖いね。
俺はゆっくり身体を起こしつつ、若干のソワソワと共に素知らぬ顔で頬杖をつく。
誰も見てないと分かっていても取り繕ってしまう……誰しも1度は体験したことがあるだろう。
客観的には物凄くダサいのだが……無意識の内にそれが起きてしまった。
「……うん、自分に酔ってるみたいで恥ずかしいな。イケメンだったら絵になるんだろうけど……端正な顔ズルい」
でもミステリアスな男って格好いいよね。
俺ももちろん憧れるけど……多分初対面でも馬鹿バレしそうだよな。
あと無理してキャラ作るのも面倒臭い。
何て考えていると、王城のバルコニーで別にイケメンでもない野郎が1人でぼーっと月を眺めていたら突然顔を赤くするという———奇妙奇怪極まりない姿が晒されている現状に恥じらいを持てとの声が聞こえてくるが……一旦無視しておく。
「…………」
俺が声を出さなければ、夜風が吹く音が耳朶を揺らし、小鳥の囀る音や狼か犬が遠吠えをする声が心を落ち着かせる。
しかし同時に、どうしても思考がネガティブになってしまいがちだ。
こんなに静かな時間を1人で過ごすのは、一体何ヶ月振りだろうか。
俺の仕事柄常にアシュエリ様と一緒にいるのはもちろんのこと、鍛錬の時は静かとは正反対の場所に身を置いている。
お風呂の時間は静かと言えば静かだけど……それとこれとはちょっと違う。
というか、ここ最近の俺は働きすぎなのだ。
始めの目標である、下級騎士になって地方の検問所でも守りながら自由に死なないように生きる……というのが影も形もない。
「……いや、え? ホントに何で俺ってこんなに働いてんの? 死にたくないって気持ちはいずこに??」
自分で言って自分の言葉を反駁するのも何だが、死にたくないのは最初から今までずっと変わっていない。
変わっていないのだが———簡単に言えば調子に乗っていた。
はいもう認めます。
最近強くなって、物凄い出世を繰り返し……挙げ句の果てには『救国の英雄』とか『不滅者』とか厨二心を擽る二つ名まで付けられて———それはもう調子に乗ってましたよ。
前世がなまじ日本人で、こういった俺TUEEEE作品も愛するオタクであったせいかは知らんけど、強くなった自分に酔っていた感が否めません。
いやでもさ、前世で特に取り柄もなくて称賛されることもなかった人間がいきなり称賛浴びたらどんな人でも調子に乗るだろ。
俺なんか美少女の笑顔で不可能を可能にしてしまう自信すらあるくらい外的要因で動く人間だからな?
———調子に乗らないわけないじゃないですかっ!!
褒めれば褒めるほど鼻が伸びる俺を煽てる人間が悪いだろっ!!(純度100%の責任転嫁)
今にして思えば……王城に呼ばれて、公爵子息をぶん殴ったのに全然怒られなかったくらいから、少しずつ奢り高ぶっていたのかもしれない。
過去一くらいに冷静な頭で思考が回っているが……王家の厄介事に首を突っ込むとか頭おかしい。
絶対に勝てない相手に立ち向かうとかもっと頭おかしい。
そして他国に2人で乗り込むとか———もう呆れるくらい頭がおかしい。
一体何をしているんだよ俺は。
誰かのために自ら死地に飛び込むとか大馬鹿者も大笑いするぐらいの愚者じゃねーか。
あぁ———そんなこと、頭では分かっている。
「分かってる、つもりなんだけどなぁ……」
今までの自分の行動を思い起こし、自らのブレブレさに自嘲する。
全く『情』と言うのは末恐ろしい。
始めは『死にたくない』が行動原理だったのに……今では『彼女達が傷付く姿を見たくない』という思いがソレを凌駕してしまっている。
だから今日だって———俺が足手纏いだったことが悔しかった。
騎士団に入る前の俺なら『え、俺が動かんでいいならめっちゃ楽で最高じゃん』とか絶対思っていたはずだ。
何なら今でも少しは思っているが、それ以上に頑張る2人の役に立てないことが悔しくて……恥ずかしかった。
「俺も身体進化が使えたらなぁ……」
残念なことに、数ヶ月も鍛錬しているが……全く欠片も取っ掛かりすら掴めていない始末。
どうやら身体進化からはゴリ押し修練ではどうにもならないらしく……完全に才能と感覚がモノを言う世界になるのだとか。
生憎だが、俺には魔法の才能は全く無いので案の定不完全ですら使えたことない。
その現実が俺の中で焦燥感を駆り立てていた。
「ぁぁぁぁぁぁクソッ……ホントイライラするわ」
誰もいないの良いことに、怒りやら焦りやらを吐き出すが如くやけくそ気味にガシガシと頭をかきむしる。
こんなに自分にイライラしたのは久し振りかもしれない。
それこそ……自暴自棄になっていた時期以来かもな。
あの時は自分でもマジで腐ってたと断言できる。
本当にあの超絶格好いい騎士が来なかったら転生特典まで貰ったのに腐って死んでいっていたかもしれない。
「———あーもうやめだやめだっ! 要らんことばっかり考えてたら余計イライラするわ! こんな時は適当に鍛錬でもするかねっ!!」
俺は1度気持ちを落ち着かせるように大きく深呼吸をして伸びをしたのち……普段俺達騎士団が使っている鍛錬場へと足を進めた。
この行動が俺の未来を大きく変える転換点であることを———まだ誰も知らない。
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