【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第73話 再会(改)
「———アシュエリ様に大口叩いたのはいいものの……どうやって勝とっかな」
俺は戦争でもお世話になった防具を作ってくれた人の新たなオーダーメイド防具を着込み、同じく新調した白銀のバスタードソードを腰に差しつつ、アシュエリ様に教えてもらったカーラさんの居場所———俺達が最初に出会った森へ駆けながら足りない頭をフル回転させていた。
俺が死ぬってことは……どんな理由かは分からないけど、カーラさんに会いに行った先で戦うわけだ。
だってソレ以外で死ぬなんか考えられないし。
でも考えるまでもなくカエラム団長に俺は勝てない。
多分彼女が風邪で高熱を出していても負ける気がする。
なら奇襲をするか?
いや気配で直ぐにバレる。
かといって真正面から戦いを挑んだ所で、勝ち目は限りなく薄い。
それこそ彼女が超絶手抜きをしてくれない限りは絶対に勝ちはもぎ取れない。
それほどまでに———俺とカーラさんの実力差は隔絶している。
そもそもの話、俺はカーラさんの本気を見たことがないのだから……彼女の本気がどれほどのモノなのか想像も付かない。
「つまりは……ホントに出会ってからじゃないと対策も作戦も立てられないと。うん、何というクソゲー。俺じゃなかったら発狂してるぞ」
いや十分俺も発狂しそうだけども。
最強のボス相手に何の作戦も無しに挑みに行くとかいう舐めプの最高峰みたいなのは、あくまでもゲームの中でしか成立しないのよ。
まぁそんな舐めプを馬鹿真面目に現実でやろうとしてる俺って頭おかしいのレベルを超えてるって。
それに———危惧するべき事がもう1つ。
———ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ……。
俺はカーラさんの写真立てを見てから激しくなった———自らの身体の中で不自然に刻まれる脈動というか鼓動が気掛かりだった。
原因は分からない。
痛みや目眩などの実害も一切ない。
ただ、時間が経てば経つほどに主張が激しくなって来ていた。
え、本当に何なんこれ?
【無限再生】って猛毒にも一瞬で耐性が付くくらい凄い能力じゃないの?
何で一向に収まる気配がないのかな?
おい、ちゃんと働けよ【無限再生】。
「あああもう謎なことが沢山あるな!? 分かんないことばっかで頭痛いって! 何で世の中はもっとこう……単純じゃないの!? 馬鹿の俺にも理解できるくらい単純であれよっ!」
相変わらず俺にちっとも優しくないこの世界……果てにはこの世界を管理しているであろう何処ぞの性悪女神に聞こえる様にケチつけながら———俺は逸る気持ちに突き動かされるように速度を上げたのだった。
———『大国級』という等級は、人間が到達できる最高地点と評される。
その力は、国に1人居れば一目置かれるとも言われる『小国級』を複数人同時に相手しても、まるで子供と戯れるかの如く蹴散らしてしまうとまで言われていた。
正しく、歩く天災。
意志を持った災禍。
『大国級』が居てこそ、その国は大国を名乗れるとまで言わしめる最強の証。
この世界にいる『大国級』は———全部で4人。
聖光国の君主にして、神を身に降臨させることが出来る———『神ノ子』。
大帝国の皇帝にして、最強の固有魔法を使う———『独裁者』
どの国にも属さず、もはや生きているのかすら怪しいこの世の固有以外の全ての魔法が使えるとされる———『大賢者』。
そして最後に、圧倒的チート騎士と名高い我らが騎士団長カエラム・ソード・セレゲバンズ、又の名を———『龍を喰らう者』。
その4人が同時に戦えば世界が滅亡するとまで言われる最強を冠する者達で、この世に住む人間で知らない者は居ない。
そんな化け物の1人に果敢にも立ち向かおうとしているのは———平民出の絶賛急成長中(停滞気味)のゼロ。
そう、俺である。
「…………いや、マジでとんでもねーな……」
俺は、自らの場所から数キロ先にあるソレを眺めて呆然と零す。
ソレとは———天へと昇る極大な漆黒のオーラだ。
つい数分前まではなかったモノ。
しかし森の中心部と思われる場所からそのオーラが現れたかと思えば———一直線に天を穿ち、先程まで快晴だった空をたちまち大量の魔力を孕んだ黒雲で埋め尽くしてしまった。
そのせいで森一帯は半ば台風の目化しており、雨こそ降っていないものの……黒雲から漆黒の雷が迸って雷鳴が唸りを上げ、木々すら吹き飛ばしそうな暴風が俺の身体を打ち付けている。
…………えーっと……これから俺は、これを引き起こした張本人と戦うんですか?
ちょっとどころか大分難易度設定狂ってないでしょうかね?
「あー、そう言えばセラの魔法もとんでもない範囲を消し飛ばしてたよな……もしかして大国級って皆んなこんな感じなの?」
幾ら何でも物騒過ぎやしないですかね、この世界。
子供皆んな未来に絶望して泣いちゃうよ?
少子化進むよ?
何て必死に下らないことを考えて気を紛らわせつつ、五月蝿いくらいに鼓動を刻む胸を押さえて、竦んで固まった身体に動くように指示を出す。
今では完璧に扱える様になった戦略級魔法———【極限強化】を発動させて、縮こまった身体の全細胞を活性化させようと画策する。
これにより……やっと普段通りとはいかないものの動くようにはなった。
まだ対峙していないのにこんな体たらくなら———『死』まっしぐらだな。
自らの不甲斐なさにため息しか出ない。
全く……カーラさんと一緒に生きて戻るってアシュエリ様と約束したじゃん。
こんなところで怯んでなんかいられないだろうが。
ただまぁ———。
「———これ終わったら、騎士引退しようかな」
これ以上騎士続けてたら、未来が視えない俺でも死ぬ未来しか見えない。
昔と違って今の俺は死にたくないのだ。
「……前は死ぬために来たのに、今回は死ぬ未来を変えるために此処に来るなんてな」
何とも皮肉なもんだと俺は自重しつつ、まるで森が先に進む俺の背中を押してくれているかのように切り開かれた木々の間を疾駆する。
昔は鬱蒼と茂って魔物が居なくとも不気味な雰囲気を醸し出していた森も、今ではただの普通の森にしか思えない。
昔はここに来れば死ねると思っていたが、今では到底死ねる気がしない。
———ドクンッ。
木々が暴風に揺れて、ザワザワと不穏な音を奏でる。
———ドクンッ。
黒雷が身体の芯まで揺らすような衝撃の籠もった雷鳴を轟かせる。
———ドクンッ。
俺の地を踏み締める音が耳朶を揺らす。
———ドクンッ。
俺にぶつかる風の音が耳朶を揺らす。
———ドクンッ。
俺の胸から鳴る鼓動が音を刻む。
「———うるせぇよ。ちょっと黙ってろ」
その瞬間———全ての音が消えた。
木枯らしも。
雷鳴も。
地面を蹴る音も。
風の音も。
鼓動の音も。
何もかもが消える。
全ての意識がたった1つのことに集中する。
———漆黒のオーラに包まれて佇む漆黒の髪を靡かせた美女に。
その美女は鎧も剣も纏わずに、真っ黒に染まり切った無機質な瞳でただ俺を見据えている。
対する俺は、鈍く銀色に輝く鎧に身を包んで剣を握り、全身を白銀のオーラで装飾しながら瞳に決意を灯して美女を見つめ返す。
そうまるで———
「———昔と真逆な構図だな」
あの時は俺が無機質な瞳を貴女に向けて、貴女が俺に何処までも綺麗な力強い色を灯した瞳を向けていた。
正しく今とは真反対の構図で……場所まで同じと来た。
運命とはつくづく繋がっているらしい。
「あの時は、生きる意味を見いだせず、ただただ無為に生きる俺に———カーラさんが救いの手を差し伸べてくれた。あの時貴女が手を差し伸べてくれてなかったら……今の俺は絶対いない」
「…………私の部屋に入ったんだな」
ずっと口を閉ざしていた美女———カーラさんが表情をピクリとも変えることなく呟く。
そんな彼女に、俺は肩を竦めると。
「まぁそれは……不可抗力ってヤツだな、うん。てかカーラさんだって、昔は俺の食後のスイーツ食べて『ふっ、気付いたら食べてた。不可抗力ってヤツだ』何て屁理屈こねてたんだからお愛顧だろ?」
そう言って悪戯が成功したかのように笑みを浮かべる。
昔彼女が俺にしてくれ様に。
「…………あぁ、懐かしいな。そんなこともあった」
「全く……一緒に住むとか言うからお世話してくれるのかと思ったら、年下の俺が逆にお世話するってどういうことだよ」
「……迷惑を掛けたな」
「まぁ言うて別に迷惑ではなかったけどな。美少女に頼られたら男子はどんな年頃でも有頂天だからね」
「…………馬鹿だな」
「知ってる。というか貴女だって知ってるでしょ? 昔から俺が馬鹿だったことくらい」
俺が笑みをたたえたままそう問えば、彼女は一瞬だけ口角をあげると。
「そう、だったな。君は昔からずっと馬鹿だった。———災厄をこの身に取り込んだ私と同じで」
そう自嘲気味に呟いた彼女の言葉に、俺は大きく目を見開く。
しかし同時に納得もしていた。
……通りで俺に殺気マシマシなんだわ。
もう殺気が凄すぎて全身ブルブルなんですけど。
それと———俺が殺される理由も分かった気がする。
ただもし俺の考えていること通りなら……うん、未来視の中の俺も馬鹿だな。
逆にちゃんと俺してるんだって安心するわ。
何て自分に呆れと関心を抱きつつ、俺は半ば理解していながらも問い掛けた。
「もしかして……災厄お目覚めタイム? ついでに自分が消えそう的な?」
この推測は結構的を射ていると自分では思っている。
だってこの理由じゃないと、俺が死ぬのもおかしいし、彼女が俺を殺す理由もないはずだからだ。
だがこれなら———彼女の意志でなくても、彼女は俺を殺すことができる。
ついでに俺は、人生の恩人が大ピンチなのに何もせずに帰るなんて……どの世界でもしなさそうだからな。
実際口でこそ軽く言ってみるものの、内心では焦っているなんてどころではない。
その推測が当たった時点で俺の超絶ピンチが決定するようなもんだからだ。
だからどうか外れていてくれ……という俺の願いも虚しく———。
「…………まぁ、そんなところだ。だからゼロ———こんな馬鹿な真似はやめて逃げろ。君じゃ私には勝てないぞ、絶対に」
更に纏う漆黒のオーラを滾らせ、瞳孔を鋭くさせたカーラさんが告げた。
……あぁぁぁ……やっぱり、そうなのかよ。
…………いやマジで、どうして俺はこんなとんでもない目に遭ってんの?
あのクソ女神に文句と全力グーパンチをお見舞いしたいんだけど。
漆黒のオーラが揺らぎ、俺の白銀のオーラを侵食していくと共に、とんでもない圧力が身体に掛かる中、俺はそんなことを思いつつも覚悟を決めると、意識して笑みを絶やさないよう……寧ろもっと心の底からの笑顔を浮かべると———。
「———ばーか。今度はカーラさん———アンタが俺に振り回される番だ。そこんところ間違えんなよ」
べーっと舌を出して啖呵を切った。
ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)
応援する
アカウントをお持ちの方はログイン
カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る