【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第74話 最強の力
「———【固有魔法:限界突破】」
俺は気合を入れる意味も込めて、魔法の名を声に出してみる。
萎縮していた白銀のオーラがブワッと荒れ狂い、混ざり合うように赤黒いオーラが俺の身体から溢れ出すと同時に全身に無数の真紅の亀裂が迸る。
ビキビキ……と筋肉や骨が軋む音が身体の内側から聞こえ、激痛が走る。
そして、何かに感化されるように心臓の鼓動が急速に加速し始めた。
……相変わらず痛いなぁ。
まぁ正直大分慣れてきたけど……この痛みがなくなる方法はないのですか?
あと心臓君と筋肉君は五月蝿いぞ、ちょっと黙ろうか。
何て自らの身体に文句を垂れつつ、漆黒のオーラに包まれながらも何の構えもなしに棒立ち状態のままのカーラさんを見据えて剣を構える。
お互いのオーラがぶつかり合い、俺達の間に張り詰めた空気が漂う。
しかしそんな張り詰めた空気を破るように、此方に無機質な双眸を向けるカーラさんがポツリと呟いた。
「…………強くなったな、ゼロ」
「……っ」
俺は憧れとも言える人からの素直な称賛に一瞬喜びそうになるも、ギリッと歯を食いしばって耐える。
馬鹿か俺は……ッ!
何子供みたいに喜びそうになってんの?
頭おかしいのか?
頭は元々おかしかったな、ちくしょう。
それに褒めれるってことは———今の俺の全力が彼女に遠く及んでいないってことと同義だ。
俺は全力を持ってしても届かない実力差への歯痒さからギュッと剣の柄を握る拳に力を込めるが、そんな内心の焦りを悟られないように殊勝な面持ちを浮かべる。
「……へぇ随分と余裕そうじゃん。これでも英雄なんだけど?」
「ああ、そうだな。だが———今の君なら5秒で片付く」
「……っ、言ってくれるじゃんか。ならやってみろよ」
どこまでも余裕そうなカーラさんの様子に内心舌打ちをした俺は短く息を吐き、一息の下にカーラさんへと肉薄すると。
「———【一刀両断】」
荒々しく燃え上がるオーラによって装飾された剣を上段から振り下ろした。
もちろん出し惜しみなんてしている余裕はないので最初から全力だ。
風を切る音を置いて縦一文字に神速の剣閃が閃く———。
「———遅いな」
そんな声が聞こえる時には———俺の視界に映るカーラさんは遥か遠くだった。
——————は?
何が起きたのか全く理解できていない俺は呆然と瞼をしばだたかせる。
ただ、少し遅れてやってきた喪失感と背中に走る激痛、視界の端に映る真っ赤な鮮血や何かにぶつかる衝撃と轟音によって何が起こったのか理解した。
結果から言うと———吹き飛ばされたのだ。
どうやって吹き飛ばされたのかは分からない。
今の身体の状態も分からない。
でも———今の俺の状態が吹き飛ばされていたという事実を証明していた。
「……はっ」
俺は乾いた笑みを漏らしつつ、自らの状態を確認する。
まず地面に激突した衝撃で背骨が粉々に砕けている。
そのせいで体内のほぼ全てが損傷していると言ってもいい。
ただそれはまだマシな方で……問題は腹から下だった。
「あぁ……クソッ。治るのおせぇ……」
数秒もしない内に背骨と衝撃によって損傷した内臓が治ったことで、口内に溜まった血を吐き出してぼやきつつ、下に目を向けた。
———綺麗さっぱり消え去った下半身へと。
……いやおかしいって。
こちとら全身強化済みなんですけど。
何で痛みも感じないくらいに綺麗さっぱり無くなってんのよ。
何処かの消しゴムマジックかっつーの。
しかし何よりも問題なのは、こうなった原因がサッパリな所だ。
原因が分かれば対処のしようがあるんだが———
「———どうした? 来ないのか?」
「!?!?」
考えを纏めている最中、突然カーラさんが目の前に現れた。
彼女の何も映さぬ漆黒の双眸が俺の身体を芯から凍えさせ、全身から鳴る警鐘に従って薙いだ剣を指2本で受け止めるその姿に、いよいよ命の危機を感じて全身から滝のように冷や汗が噴き出す。
拙い拙い拙い……!!
クソッ、まだ足が再生してないんですけど!?
早くしろ早く———
———パァァァン!!
再び思考を遮るように乾いた破裂音が辺りに響き渡る。
何をされたのか、と俺が眉を潜めると同時———カーラさんが指で挟んでいた剣が俺の手と共にポトリと地面に落ちた。
カランカランッと金属音が鳴り、右手側の肩から先を失ったことで大量の血が撒き散らされて地面に血溜まりが生み出される。
おいマジかよ……見てたのに見えなかったぞ……。
どんだけ力の差があるんだよ……!!
「くッ……」
俺は痛みと悔しさに顔を歪めて呻き声が漏らすも、僅かにでも時間が稼げたお陰で完全に再生した足で地を蹴り———。
「———剣を拾うとでも思ったかっ!? 残念でした、もう1本持ってます!」
「っ」
剣技の1つである【縮地】で一気に方向転換して剣を拾うのではなくカーラさんに襲い掛かった。
足がイカれるが気にせず、ほんの僅かに生まれた隙を狙って背中に隠していた短剣に強化魔法を掛けつつ———渾身の【牢剣】を御見舞いする。
「ぉぉぉおおおおおお———ッッ!!
ほぼノータイムで全方位から放たれる剣戟。
正しく牢獄に閉じ込めれたかのように、無数の剣閃が瞬くことで発生した白い繭がカーラさんを包み込んだ———刹那。
———漆黒の斬撃が世界を割った。
そう見紛う程の範囲が一掃される。
牢剣の剣戟も、俺の首の付け根から左脇腹も、木々も何もかも———視界に映る光景全てが漆黒の斬撃によって斬り裂かれた。
……強すぎません?
え、一振りでそんな範囲攻撃できんの?
周り見たら森が丸坊主ですやん。
しかも完璧に避けたと思ったらめちゃくちゃ斬られてるし。
何て驚愕しつつも、剣を持った右腕は無事なので、直ぐ様駆けながら負けじと大量の魔力を籠めて一気に開放。
「———【飛燕斬:連式】ッッ!!」
虚空に剣を振るう。
同時に剣から幾重にも白銀の斬撃が放たれ、一瞬にして漆黒のオーラを纏って佇むカーラさんに殺到すると同時。
「———はぁっ!? 嘘だろおい!?」
「———驚いている余裕はないと思うが?」
「!?」
彼女の身体がブレて全ての斬撃が綺麗にすり抜けた。
これには思わず驚愕の声を漏らし、直ぐ様動き出そうとして———突然目の前にカーラさんが現れたかと思えば四肢が破裂して身体が吹き飛ぶ。
くそっ、また分かんなかったんですけど……!?
どうやってあんなの防げば良いんだよ……。
地面に激突しながら胸中で毒づく。
何とか胸への掌底は大量のオーラを破裂は防げたものの、四肢を奪われたのはマジで痛い。
まぁあったところで一撃も入れられてないから、実質的にないようなもんだが。
「あーもうくそったれが……ボッコボコじゃねーか」
「だから言っただろう? 君では私には勝てない、と」
痛みで顔を顰める俺の直ぐ近くに音もなく現れたカーラさんが俺を見つめながら、何の感情も籠もっていない冷たい声色で俺に事実を突き付けるように告げる。
「———何の才能もない無能な君が、幾ら足掻いたところで無駄だ」
…………。
………………ははっ。
「クククッ……ふふふっ……ははははははははははっ!!」
「……?」
大方俺をジワジワ身体的にも精神的にも追い詰めて殺す魂胆だったのだろう。
カーラさん———いや、カーラさんの姿をした災厄が思った効果が出ないどころか突然笑い出した俺を訝しげに見つめている。
しかし、俺は変わらず高らかに笑い続ける。
眼の前にいる災厄の言葉があまりにも可笑しくて……ひたすら笑い倒す。
「ははははははっ、はははははははははっ!! 災厄のくせに面白いジョークも言えるんだな。クククッ、傑作だよ全く。センスあるんじゃね?」
「……何が面白いんだ?」
瞳に困惑の色を宿した災厄は、声を上げて笑う俺のことが本気で分からないといった様子で眉を潜める。
そんな災厄を前に俺は何も言うことなく肩を竦めた。
———まぁ人間じゃないお前には分かんないよな。
———俺をカーラさんの記憶で間接的にしか見ていないお前には分かんないよな。
———人間を理解しようという考えがなさそうなお前には分かんないよな。
「おい似非野郎、良いこと教えてやるよ」
俺はゆっくりと立ち上がると、地面に落ちた剣を拾い上げる。
災厄は俺の言葉が気になるのか攻撃をしてくる気配はない。
実に好都合だ。
その油断がお前を破滅に誘い込むんだからな。
何て災厄に嘲笑を向けた俺は、剣の刀身に目を通してまだ使えることを確認すると。
「例え昔と違っていても……カーラさんは絶対に俺を無能呼ばわりしねーよ。昔の無能な俺にさえ言わなかったんだからな。それに———」
鈍い白銀の輝きを放つ剣の切っ先を災厄に向けた。
「———俺の恩人に手ェ出したテメェは、絶対にぶちのめしてやる」
だから俺は、コイツを倒してカーラさんを救うためならどんなことでもする。
今この瞬間に眼の前の災厄をぶっ倒せるだけの力が手に入るなら———迷わず掴んでやる
例えそれが———禁忌の力であっても。
俺は小さく息を吐いて語り掛ける。
おい、良い加減頭ん中でくっちゃべってないで———
——————俺と取引しようぜ、スラング。
『ケケケッ、やっとお前から話し掛けてくれたなァ———ゼロ?』
頭の中で悪魔が嗤った。
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