【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第76話 賭け【重大発表あり】
「———凄すぎんだろ、この力……」
『ケケケッ、最初にしては中々いいじゃねェか』
「や、お前どんだけ強いんだよ。これで中々とか頭イカれてんじゃね?」
先程まで指一本も触れることが出来なかった災厄を軽々と吹き飛ばす自分の力に、衝撃を通り越して感嘆の声を漏らした。
この瞬間にも、まるで他人事のように感じていた身体と認識とのズレが徐々になくなって馴染んでいく感覚を憶える。
しかも———
「———悔しいけどカッコいい……ッッ!!」
あのクソ野郎の力を借りていると考えると虫唾が走るが……それを加味しても、男の子なら誰もが憧れるカッコよさを自分がしていることに、気分が高揚しているのがハッキリと分かった。
いや悪魔の手とか漆黒の手って厨二のマストアイテムですやん。
しかも髪の毛も白銀に染まってるし……素体が俺じゃなかったら絶対人気出るよ。
「……っと、ついはしゃいじゃったな。そろそろ気を引き締めないと拙いか」
「———人間がァァァァァァッッ!!」
もはや隠す気もないらしい災厄が、カーラさんが絶対に言わなそうな雄叫びを上げながら憤怒の表情で戻って来る。
これでも世界を恐怖に陥れた災厄だからか、ただ単にカーラさんの身体が化け物なのかは分からないが……結構モロに決まったと思った俺の手応えに反して見た感じ傷一つない。
ただ神経を逆撫ですることは出来たらしい。
「貴様……一体何をしたッッ!! どうしてただの人間だったはずの貴様から急に悪魔の匂いがし始めたッッ!?」
「ハッ、馬鹿かよお前。そんなの誰が教えるかってんだ。教えてもらいたいならとっととカーラさんの身体を返せ」
カーラさんの顔で困惑と怒りに満ちた表情を浮かべる災厄に、俺は心の底からの嘲笑と共に吐き捨てる。
それと、災厄が先程までの落ち着きを一体何処に捨ててきたのか非常に知りたいところだが……まぁ折角理性を手放そうとしてくれてるんだ。
ここは大人しく触れないでおいてやろう。
「さて———どんどん行こうか」
意識を切り替えた俺は、タッと軽く地面をタップするように足先で蹴る。
普段のように地面が陥没することも、大きな音が響き渡ることもない。
ただ———俺の身体だけが普段とは別次元の速度……それこそ瞬間移動にも遜色ないレベルで災厄へと肉薄し、驚愕に瞠目する奴へと舞うように片手で剣を振るった。
———ズバァァァァァッッ!!
キラッと剣閃が煌めくと同時。
何の変哲もない一振りが白銀の斬撃を生み出して虚空を走り、遥か後方まで地面を斬り裂く。
その威力は嘗ての俺の全身全霊の一撃である【一刀両断】以上であり、底が見えないくらいに割れた地面の断裂面には、飽和状態の白銀のスパークが滞留していた。
その光景を眺め……俺は少し落胆する。
「ちぇっ、外れたか。最高のタイミングだと思ったのによ……」
「……ば、馬鹿な……こんな力の上昇はあり得ない……!! しかもこれは……」
『カハハハハハハッ、ゼロの力を見てビビってやがるぞォアイツ! 傑作だぜェ!』
しっかりと見切って避けたはずの災厄が、俺の一撃によって生み出された惨劇を眺めてうわ言のように呟く姿を、ほぼ同じみたいな存在であるスラングが心底楽しそうに……されど馬鹿にした様子で嘲笑う。
相変わらずウチの悪魔の性格が悪過ぎる。
今はそんな笑ってる余裕はないんだから少し大人しくしていて欲しい。
『というか、笑ってないでさっさと俺に知恵をくれよ。俺の足りない脳みそじゃカーラさんを救い出す方法がさっぱり分かんねーよ』
『ケケケッ、なァに簡単な話だぜェ?』
俺の半身に宿ったスラングがニヤリと口角を上げると。
『———オレがあの野郎を吸収すれば良い。所詮借り物の中身に入った魂だけの存在だ、オレの極上の食料になるだろうよォ』
そんな中々に物騒なことを宣い始めた。
しかし、笑みを浮かべるのもそこそこに、ただ問題はなァ……と何処か面倒臭そうにぼやくスラング。
『……何が問題なんだよ?』
『いやなァ……アイツの魂を吸収するのに———合計30秒は身体に触れてねェと流石のオレでも吸収出来ねェんだよ』
『はぁ!? おい30秒とか頭イカれてんのか!? あんなバケモン相手に30秒間触れようもんなら魂ごと消されるのはこっちだぞ!?』
あまりの無理難題に内心思わず声を荒げる。
傍から見れば結構簡単に見えるだろう。
30秒を小刻みに分けて触れればいいと思うだろう。
しかし、俺達の戦いはコンマ秒の世界だ。
0,1秒の間に俺達はその気になれば何十回と斬り結ぶ事ができる。
そんな中での30秒であることを考えれば……如何にスラングが無理難題を吹っ掛けてきているかがお分かり頂けるだろう。
ただ、魔法を発動させている影響から本気で面倒臭そうにするスラングの感情が直に入ってくるので……奴が嘘を付いていないことは明白だった。
そしてそれ以外にカーラさんを救うと同時に災厄を殺す方法がないことくらい、馬鹿な俺にも分かる。
……ああクソッ……折角あの災厄と同じ土俵に立てたかと思ったら結局不利になんのかよ……。
まぁでもやるっきゃねーか……!!
一度バシッと頬を叩いて気合を入れると———その場から掻き消えると同時に災厄の裏へと辿り着き、無防備な背中へと漆黒に染まった左手を伸ばした。
ただ災厄の名は伊達ではなく、背中に触れる瞬間に何処からともなく握っていた漆黒の剣によって左腕を斬り飛ばされる。
「甘く見るなよ人間ッッッッ!!」
「見てねーよクソが」
左手を庇うように半身を引くと、右手に持った白銀の剣で俺の身体を両断せんと振り下ろされた剣をガード。
———バァァァァァン!!
剣と剣がぶつかった衝撃が奏でるのは、爆弾をも遥かに凌駕した空気をどよめかせる爆発音。
しかしその音が鳴り響くときには———既に俺達の姿はそこにない。
「でぇぇぇりゃぁあああああ———ッッ!!」
「かぁああああああああああ———ッッ!!」
先程の場所から数十メートル離れた場所で俺達の姿が一瞬顕になると共に再び爆発音が鳴り響き、地面が抉れる。
その瞬間には漆黒のオーラを纏った災厄は爆心地から離脱しており、少し遅れて俺の白銀と漆黒が入り混じった輝きを放つオーラが尾を引いて災厄を追尾し———再び爆発音が至る所から発生する。
———正しく地獄絵図だった。
木々は薙ぎ倒され、地面は抉れて断裂。
滞留するスパークが木々を燃やし、それが燃え広がって炎の海が形成される。
そんな炎の海を漆黒の落雷が広げ、超極地的に降る土砂降りの雨が沈下する。
それがひたすら繰り返えされるという……地獄絵図の言葉に相応しい光景が広がっており、俺はそれを視界の端に収めて僅かに顔を顰める。
…………一応思い出の場所だったんだけどな。
まぁ四の五の言ってられないから割り切るけども。
実力差で言えば、災厄10の俺9.5といったところであり……僅かに俺の方が劣っている現状だ。
そのため身体に触れる時間も1秒程度しか稼げていない。
『おいおいシャキッとしろよゼロォ! オレの力を使ってんだから負けは許さねェぞォ?』
『うるせーっつーの! 今集中してんだから話し掛けんな!』
俺は頭の中で口煩く囀るスラングに怒鳴りつつ……迫りくる神速の剣を避け、受け流し、力の流れに沿うように身体を回転させ———
「———お返しだッッ!!」
左拳に力を籠めて反撃の一撃を打ち込む。
———ズドンッッ!!
「ガッ———ッッ!? に、人間風情がァァァァァ!!」
「!?!?」
拳が腹を穿つと共にとんでもない衝撃波が発生して、苦悶の表情を浮かべた災厄が身体をくの字に曲げて吹き飛ぶ。
同時に到達点へと先回りした俺は、災厄の身体を羽交い締めにしようとして———空中で体勢を立て直した災厄の回し蹴りに対応できずに首をへし折られて、身体がスーパーボールのように弾き飛ばされた。
「———ッッ!?」
背中に衝撃と痛みが走り、視界がチカチカと点滅する。
肺の空気が全て押し出されて声すらも出ない。
しかし———それも一瞬のこと。
持ち前の【無限再生】が全ての欠損を再生させる。
気付けば戦う前の万全な状態に戻っていた。
「……あぁくそっ……ぜんっっぜん時間が稼げねーんだけど」
俺は瓦礫の山から這い出してため息を1つ。
同時に、絶対にしたくはなかったが……この形態に変化した最初からずっと考えていたことを実行することを決断する。
『———スラング、一か八か賭けに出てみる。その間に意地でも吸収しろ。出来なかったら死んでもぶん殴ってやる』
『ケケケッ、いいねェ……自分を追い込む奴は嫌いじゃないぜェ?』
———吸収に手一杯なスラングは頼れない。
———絶対に来るなと俺が言ったため、援軍の見込みもない。
それに———スラングの力を借りるだけで終わるのも癪だ。
あの人を救うのは———。
「———俺の役目だ。それだけは譲れねぇ」
初級身体強化魔法——————【身体強化】。
————————————————————————
はい、どうもあおぞらです。
本編がめっちゃ良い所なので手短ですが、この作品———『一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた』がGA文庫様より書籍化が決定しました!!
ざっくり発売日や作者の喜びようは近況ノートで見れますので、是非そちらも確認してくれると嬉しいです。
ではまた次話で。
ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)
応援する
アカウントをお持ちの方はログイン
カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る