【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第82話 代行者……? これが??
暗いのは苦手なのよ。
やっぱ頭空っぽで読めるのもないとね。
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「———いやぁ……何か捕まっちゃったなぁ……」
捕まったって言っても別に牢獄には入れられてないけど。
俺は居心地の悪さに何度も身体を揺らしながら———転移して直ぐに連れてこられたパッと見アズベルト王国の王城の一室と遜色ない部屋を見回す。
直ぐにでも逃げられそうなバルコニーへと続く大きなガラス張りの扉。
とても1人用とは思えないキングサイズくらいありそうな巨大なベッド。
ふかふかでそのまま寝られそうなカーペット。
1度座れば2度と離さないとばかりに包みこんでくるソファー。
キラキラと輝く美しいシャンデリアに、何やら天使やら神のような人々が描かれた天井の謎の壁画。
「いやどんな部屋だよここ。絶対大罪人とか言われた俺には合わんだろ」
常に感じている居心地の悪さの原因はこれだ。
あまりにも名目と実際の待遇の差に俺の脳みそがパニックを起こしている。
あと普通に転移酔いが凄まじいのもある。
ちょっと吐きそう……馬車よりマシとか誰が言ったんだよ……うぷっ……。
何て口を手で覆いながら手持ち無沙汰に落ち着かない時間を過ごしていると。
———ガチャッ。
ノックも無しに扉のノブが捻られて扉が開く。
普段なら『ノックくらいしろよ礼儀も分かんねぇのかコラ』ってアシュエリ様の護衛としてガンを飛ばしていただろうが……今はさながら囚われのお姫様と同じ立場。
寧ろ牢屋にぶち込まれてないだけ大分マシなので何も言わないことにする。
てか普通に気にすらならないんだよな……とか思いながら、俺は扉から入ってきた小さな少年と少女に目を向ける。
見た感じ7、8歳くらいのダボダボなプリーストとか僧侶とか呼ばれる系の服に身を包んだ黒髪の男の子と女の子。
男の子は僅かに目に掛かるか掛からないかくらいの少し長めな髪で、女の子は男の子よりも長い髪を後ろや横の髪を残しつつ、赤いリボンでツインテールにしていた。
瞳は男の子が右目、女の子が左目を蒼く染めており……もう片方は髪と同じ黒。
どちらも幼いながら随分と端正な顔立ちをしており、将来は美男子と美女になること間違いないだろう。
でも何で子供が大罪人の俺の前に……?
あまりにも場違いじゃね?
もしかして迷子かな?
「君達、ここは来てはいけない場所だと思———」
「「———頭が高い、控えろっ」」
「!?」
とても見た感じ小学1年生くらいの幼い少年少女とは思えぬ傲慢不遜な物言いと、突如自らの身体の上に何か重いものを載せられたかのような圧迫感に驚愕する。
恐らく無詠唱で何か重力系の魔法を発動されたのだろうが……普通にしばき回してやりたい。
ただ、幾ら強力な魔法を使っていても相手は子供。
此処は既に成人した立派な大人として、また名目上の罪人として、素直に魔法に嵌まっていようと心を決める———が。
「———このお兄ちゃんクソザコだなぁ」
「———ホントにねー、ヘルがっかりー。ザコにきょーみなーいっ」
「おいこら挨拶前に魔法を使ってくんじゃねーぞクソガキ共」
折角の俺の優しさを無下にするような生意気発言に、我ながら大人気なく一瞬で冷静さを失った俺は、自らの身体に中級強化魔法を発動させて難なく立ち上がり、黒髪の少年少女の頭を叩こうとして———
「———一体何をしているのですか、バル様、ヘル様?」
「「痛いっ!? 何で叩くのっ、アウレリア!!」」
2人の後ろからにゅっと現れた2人と同じ服を完璧に着こなしたザ・プリーストと言った風貌の金髪碧眼の女性が2人の頭を叩いたではないか。
子供2人組は仲良く頭を押さえつつ、涙目でキッと女性を睨むも……女性はどこ吹く風といった様子で2人の視線をスルーして俺に目を向けたかと思えばぺこりと頭を下げた。
「この2人の無礼をお許しください」
「や、俺って大罪人らしいんで別に謝られるほどでは……あ、でもこのガキ共にはしっかり礼儀を教えた方が良いと思いますよ。ウチの団長とかに遭ってこんな口聞いてたら死んじゃいますからね?」
「肝に銘じます」
どうやらお目付け役的な女性は比較的常識人らしい。
まぁ俺からしたらどっちも知らない人なので、怖いことには変わりないのだが。
「それで……このガキ共は何者なんですか? 俺に会いに来れるって大分立場が上なんじゃ……」
「おい誰がクソガキだっ! 俺達は代行者だぞ!」
「そうだーそうだーっ! ヘルはだいこーしゃだぞーっ!」
「冗談ですやん。ちょっと知らない場所で力んでただけですやんねー?」
とんでもなく生意気なクソガキ共が聖光国最高戦力の代行者の1人だった件。
そりゃこの年で年上にもブイブイ言えるくらい生意気になりますわな。
———と、ここで俺は1つ気付く。
このクソガキ共が本当に代行者なら……そんなクソガキ共の頭を叩いてもケロッとしているこのプリースト的な女性は一体何者なのか、と。
俺が恐る恐るといった感じで女性を見上げると。
「私は代行者として序列2位の位と、序列5位のバル様とヘル様のお世話係を猊下から賜っております———『戦乙女』アウレリアと申します」
そう言って、この国で3番目に強い女性が———先程までと同じはずなのに心底恐ろしく感じる笑みを浮かべた。
…………めちゃくちゃ警戒されてますやーん。
「———しゃあ! 俺の勝ちぃ!」
「すごいすごいっ! ゼロ兄、3れんしょーっ!」
「フハハハハハっ、ハーッハッハッハッ! 全く……これだから力だけあるガキ共は脳筋すぎて困るなぁ!」
「くっ……で、でもっ、ゼロ兄だって本気だったじゃん! 途中負けそうで泣きそうになってたもん!」
「そんなの記憶にございませーん!」
席を立ち上がって雄叫びを上げる俺と、萌え袖を越えたダボダボな袖を揺らしてパチパチ拍手をする女の子———ヘル。
そして、俺と同じく席を立ち上がりながらも俺とは違って悔しそうに俺を指を差して(袖が長すぎて見えない)吠える男の子———バル。
先程まで険悪ムードだった俺達が、一体何をしているのか。
「何でだよ……っ! 俺に勝てる奴なんて今までいなかったのに……っ!!」
「フハハハハハっ! それはお前が怖くて皆んな八百長してたんだよ! だが俺はそんな接待はしない! なぜなら———接待しなくても負けそうだからだ!」
「ゼロ兄なさけなーい」
「うるさいっ! ずっと勝ってるより楽しいだろ!」
そう———オセロである。
しかもルールまで前世と同じと来た。
なぜこの世界にオセロがあるのかもルールが一緒なのかもさっぱり分からない。
この国が崇める神って奴が女神なら、ワンチャン逆輸入してそうだけど……違うなら俺みたいな転生者とかいんのかな?
まぁどっちでも良いや。
前世でオセロをすれば勝率2割ほどの俺だが、今はなぜか奇跡的に3連勝という快挙を成し遂げていた。
お陰でバルからは敵意混じりながら称賛の視線を、ヘルからは尊敬の視線すら向けられている。
大変気持ちが良いです。
「もう1回っ! もう1回やる!」
「だめーっ! 次はヘルがゼロ兄とやるのー!」
俺の両側に立ったバルとヘルが思いっ切り顔を後ろに逸らしつつペシペシと叩き合うせいで、あまりにあまった袖が鞭のようなしなりと共に俺の顔面を強襲してくる。
これには俺も堪らず、一瞬で2人の手を掴んで流れるように肩に担ぐと。
「おいガキ共、俺を挟んでペチペチ叩き合うな。たまに袖が顔面に当たって痛いんだよ!」
「いーやーっ! 次はヘルがやるのー! じゃくしゃのバルはおとなしくひけー!」
「う、五月蝿いっ! ヘルは俺より弱いだろ!」
「ちょっ、痛っ、お前らマジ……っ」
ジタバタと手足を動かして暴れる2人の袖から持ち前の動体視力で避けつつ、何故かずっと俺達を微笑ましげに眺めて一切口出ししてこなかったお目付け役———アウレリアさんに救いの目を向ける。
「アウレリアさん、そこで見てないで助けてくださいよ」
「すみません、皆様が子供らしく楽しそうにしててつい魅入っていました」
「俺はもう大人ですけど??」
「33の私からしたら十分子供です」
「!?!?!?!」
微笑を顔にたたえながら思わず耳を疑うようなことを暴露してくるアウレリアさんを、俺はギョッとして凝視してしまう。
さ、33歳だと……!?
こ、こんな若々しい見た目で……!?
パッと見カーラさんと同い年くらいにしか見えない。
今カーラさんが20代前半だから……目の前の美女は10歳サバを読んでもバレないプロポーションをしているわけだ。
す、すげぇ……これが美魔女ってやつか……。
そう言えば王妃殿下も30越えててあれって凄いよな。
もしかしてこの世界って実年齢より若く見える人が多いのか……?
「ゼロ様?」
「……33歳って、嘘ですよね?」
「事実です」
「…………」
俺が流石に嘘だろうと聞き返してみても、本気で不思議そうな顔をされた。
これには衝撃の嵐である。
「ゼロ兄? いーかげんおろしてよー」
「そうだぞっ! 降ろして俺と勝負しろっ!」
あまりの衝撃に固まった俺の肩に担がれたバルとヘルが不服そうに頬をぷくーっと膨らませて俺の頬をグニグニと好き勝手力加減も考えず弄くってきたことで、俺の意識が現世に戻って来る。
てかやめなさい、痛いでしょう?
「降ろして欲しかったらもう喧嘩しないって誓ってもらおうか」
「ヘルはけんかしなーい。ゼロ兄とおそとであそぶー」
「お、俺も喧嘩……し、しない……」
「ならよし」
俺は満足気に頷きながら2人をゆっくりと降ろし———はたと気付いた。
そして、胸中で湧き上がると同時に一気に膨らんだ疑問が口を衝いて出るのだった。
「———お、俺は一体何をしているんだ……?」
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