【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第85話 悪魔と神の代理試合(アウレリアside)
「———おいおいどうしよ……人生で初めて戦いが楽しいかもしれん! 姉御、アンタマジで最高ですよ!」
「ハハハハハハッッ、アタシもだッ!!」
ゼロ様とベアトリックス様がお互いに口角を上げながら、武舞台の上を縦横無尽に動き回って幾度となくぶつかり合う。
既に5分以上は戦っているが……お互いに未だ傷一つなく、どちらかが隙を付いたかと思えば洗練された動きで回避、又は受け流す———という攻防が続いている。
その度に辺りには地鳴りと衝撃波が襲い、烈風が巻き上がった。
「うわぁーふきとばされるー!」
「私が絶対そのようなことはさせません」
きゃっきゃっと年相応にはしゃぐヘル様が本当に飛ばされていたので、私が直ぐ様胸に抱いて受け止めるも……。
「……ぶー、アウレリアわかってなーい」
何故か不服そうに頬を膨らませて私の方にジトーっとした瞳を向けてくるヘル様。可愛い。
しかし一体何が不満なのか……私にはさっぱり分からず首を傾げれば、ヘル様がぷいっとそっぽを向いてゼロ様の方を見つめると。
「もういいもーん、後でゼロ兄にぐるぐるしてもらうもーん」
「!?」
「アウレリア……何でそんなに泣きそうなんだ?」
「良いのです、バル様。私の至らないところがあったのでしょう」
私は後でゼロ様に御二人に好かれる方法を聞くことを心に誓い、再び顔をゼロ様達の戦いに向けると共に、剣と槍の衝突音が五月蝿すぎるので、意識を集中させて周りの声に耳を澄ませてみる。
「……何だよ、アレ……ベアトリックス様と互角に戦ってやがる……」
「お前はまだ見えるだけマシだろ。俺なんかあのゼロとかいう人の黒と白のオーラの光の残像しか見えないぞ……」
「俺もだよ……しかも俺達より何歳も年下だぞ……」
「嘘だろ……俺、あの人に雑魚が粋がんなとか言ったんだけど」
「「「「「終わったな」」」」」
「いや誰だって雑魚だと思うだろ! 試合始まる前は一般人みたいなへっぴり腰だったしさ!」
「「「「「それな」」」」」
どうやらゼロ様の株も急上昇している様だ。
まぁ最初のあまりにも情けない姿が株の上昇を抑えてている節があるが……まぁそれも些細なことだろう。
同じ者として私の鼻も高い。
さて、良い加減ゼロ様の戦いに集中しよう。
私が意識を戻せば、丁度ベアトリックス様の紅蓮の槍を受け止めようとしたゼロ様の白銀の剣の刀身が砕け散る所だった。
これで大体12回……熟練度の差というより、神気で形作られたモノと魔力で形作られたモノという根本的な物質の差が出ている気がする。
そもそも魔力で創られた剣でベアトリックス様の『三叉槍』を対処できていること自体凄いのだが。
「うおっ!?」
「ハッ、その剣は随分と鈍らじゃねぇか!」
横薙ぎを身体を反らして避けたゼロ様に、獰猛な笑みを浮かべたベアトリックス様が目にも止まらぬ幾重にも重なって見える刺突を繰り出す。
一撃一撃が精鋭級でも重傷を負わされる威力を孕んでいた。
「そりゃそうでしょ、こちとら始めて使ったんですよ! てか俺に魔法の才能はないですからね! 炎とか出してみたかった……!!」
「は? 嘘だろ?」
「え、マジですけど」
暴力的で精密な刺突を新たに創造した剣で全て捌いたゼロ様が、さも当たり前の如くキョトンとした様子で宣う。
そこに嘘はなく、故にベアトリックス様は僅かに表情を引き攣らせて咄嗟に飛び退いた。
お互いに距離が空き、手合わせが始まって以来の空白が空く。
しかし、当初とは随分と様変わりしており……ゼロ様は涼しい顔で剣を降ろして切っ先を地面に向けているが、ベアトリックス様は依然として警戒した面持ちで槍をいつでも射出出来るように構えを取っていた。
「……才能がない、ってのはマジなのか……?」
「お、姉御も使ってくれるんですね、マジ———分かりましたよ、ちゃんと答えますって」
少し嬉しそうに声を弾ませるゼロ様だったが、ベアトリックス様に茶化すなとばかりに睨まれてシュンと肩を落とす。可愛い。
しかし、私も気にならないと言えば嘘になる。
あれほどの力をお持ちのゼロ様に才能がない、というのは些か信じ難い。
唯一お知りになっていそうな猊下にチラッと視線を送ってみるも……。
「フッ、見ていれば分かる」
それだけお告げになられて視線をゼロ様達の方へお戻しになった。
私も聞くのは諦めて渋々といった風に猊下に続いて視線を戻すと。
「———本当ですよ、姉御。俺には才能はないです。魔法の才能も、剣の才能も、戦闘の才能も……もちろん学問の才能もね」
苦笑交じりにポリポリと揺らめく悪魔のような左手で漆黒の頬をかいているゼロ様の姿が映る。
しかしその表情や瞳に悲観した様子は一切なく、既に自らの中で消化して昇華しているように見えた。
「……なら、お前はそこまでどうやって辿り着いた?」
「そりゃもちろん努力———と言いたい所ですけど、実際はちょっと違うんですよね」
「あん? んだけどお前の戦い方は……」
「もちろん剣術とか身体捌きは沢山の死線と鍛錬の賜物ですよ? ウチにはカーラさん———カエラム団長とロウ教官っていう鬼が2人居ますからね……おっと、考えただけで鳥肌が立ってきたんですけど」
話している途中で剣を消して寒そうに腕をさするゼロ様だったが……。
「後は強いて言えば———」
一瞬逡巡する様子を見せたのち、ニッと笑みを浮かべると共に親指で自分の胸をトントンと叩くと。
「———とんでもない再生力と死んでも諦めないことっすね」
そう、私やベアトリックスを始め……猊下さえも目を見開いて驚くほどの———誰もが息を呑む回答を口にする。
シンと辺りが静まり返り、静寂の帳が降りる。
ゼロ様は反応がなくて肩透かしを食らったように戸惑った様子を見せているが……今回ばかりはそれにツッコむ者も存在しない。
誰もが彼の言わんとしていることを理解して絶句したのだ。
そしてそれを微塵も感じさせない彼の様子に畏怖すら感じているのだ。
彼の言葉を要約するならば。
———鍛錬に加えて幾つもの死線を再生能力のみで潜り抜け強くなった、と。
併せてゼロ様は、死んでも諦めないと言った。
普通ならば『そうですか、諦めが悪いのですね』で済まされる言葉だろう。
しかし———ここで彼が上げてきた功績を振り返ろう。
何人もの上級騎士を殺したことでアズベルト王国を騒がせた大物犯罪者を剣を握って半年足らずで撃破。
それから数ヶ月も経たずに、衰えたとは言え他国でも知られている王国に反旗を翻した小国級騎士『戦場の鬼』を同期のエレスディア様と撃破。
更に精鋭の兵士達を薙ぎ払った後に、我ら代行者すらも一目置く『殲滅の魔女』を単独撃破&懐柔し、公国に巣食う悪魔を共に撃破。
そして最後に———災厄の一柱である黒魔竜に身体を奪われた『龍を食らう者』を悪魔と契約しながらも討ち滅ぼして救出。
これらの前代未聞な功績を全て目の前の御方は———再生能力と諦めの悪さだけで成し遂げたと宣っているのである。
それを聞いて絶句しない者がいようか。
それを聞いて畏怖しない者がいようか。
彼は……今この瞬間もおちゃらけているゼロ様は———。
「あ、あのぉ……良い加減何か反応してもらえると……」
———私達は愚か、悪魔や神などよりよっぽど理解出来ないバケモノだったのである。
「……フフフッ、フフフフフフ……!!」
「……猊下?」
誰もが呆気に取られた中、猊下が堪えきれないとばかりに笑い声を漏らす。
そんな猊下の様子に困惑の声を零したベアトリックス様に。
「———ベアトリックス、被害などどうでもよい。全力の一撃を不滅者にあびせてやるのだ」
愉悦を抑えられないといった表情で告げるが。
「いやいやちょっと待ってくださいよ教皇様! 姉御の力で周りのこと考えずに全力の一撃なんか使った日には俺死じゃいますけど!? やっぱり俺って大罪人としてここで処刑されるために来たんですか!?」
「……猊下、流石のアタシも貴女様も御考えに賛成できません」
すかさずゼロ様とベアトリックス様が異議を唱える。
ゼロ様はワタワタと大焦りといった様子で。
ベアトリックス様は顔を歪めながら何処か責めるような視線を猊下に向けて。
ところが、次の一言で状況は一変する。
「———どんなやり方でもよい。次の一撃に耐えればお主の罪を帳消しにしてや」
「やります」
「ゼロぉ!? テメェ何考えてやがる!?」
もはや言い終わるより先に返答を見せるという食い気味な返事にベアトリックス様が珍しく声が裏返った素っ頓狂な声を上げた。
だが、ゼロ様は一歩も引くことなく口を開いた。
「や、一撃耐えるだけで罪がなくなるならやりますよ。確定死刑より、まだ死ぬ確率が少ない方を誰だって選ぶでしょう?」
「いやだから、テメェは———」
「———ベアトリックス、やれ」
「…………承知いたしました」
猊下の冷たい声色に1度感情を押し殺すように目を瞑り、頭を下げる。
次に目を開いた時は———戦場で見せるような凛とした表情を浮かべながら、粗暴さを隠そうとしない暴力的な神力を開放した。
紅蓮の神力が部舞台全体を……それ以上を埋め尽くさんと轟々と燃え上がる。
「……ゼロ、全力でいくぞ」
「すみませんね、姉御。俺の我儘に付き合ってもらって」
「……無駄口を叩くんじゃねぇ」
「へへっ、姉御は優しいなぁ」
そう笑みを零したと同時、左の真っ赤な炎のような目が光を放って揺らめき、ゼロ様の表情も鋭いモノへと変化する。
全身に纏われた漆黒と白銀のオーラが紅蓮の神気を押し返さんとばかりに膨れ上がったかと思えば———白銀の剣に収束して膨大なオーラが渦巻く。
「俺は準備良いですよ」
「……後悔しても知らねぇからな、アタシは」
「俺のもう1つの取り柄は再生力ですから」
肩を竦めて笑うゼロ様。
そんな彼の様子にベアトリックス様は顔を歪めながらも三叉槍の穂先に神気を収縮させ———。
「【全てを破壊する刺突】」
「【渾身両断】」
———勝負は一瞬だった。
紅蓮の神気に包まれた三叉槍の刺突と漆黒と白銀の斬撃が衝突すると同時にゼロ様の剣が過負荷に耐えきれずに砕け散り———刺突がゼロ様の全身の7割を消し飛ばしてポッカリと風穴を開けたのだ。
「…………馬鹿野郎が……」
当然身体の支えを失ったゼロ様の首がゴトッと地面に落ち、辛うじて残っていた四肢と刀身が折れた剣が地面に散らばる。
その様子をベアトリックス様が目を伏せて見つめ、猊下は身を乗り上げて眺める。
ヘル様とバル様?
もちろん私が目を隠して見せないようにしています。
まだ戦場に出ていない子供には流石に教育に悪いですからね。
辺りを沈黙が支配し、誰もが見ていられないとばかりに目を背けていたその時。
「———俺の勝ちだな、姉御、教皇様?」
誰もが目を離した隙にまるで何事もなかったかのように、時間を巻き戻したかのように2本の足で立ったゼロ様がベアトリックス様の肩に手を置きつつ猊下に顔を向けて告げた。
軽快な彼の声が証明するように、彼の身体に傷など一欠片もない。
これに1番驚くのは惨状を生み出した張本人であるベアトリックス様。
「……馬鹿な……今心臓を……いや身体の大半が……」
「や、クソ痛かったっすよ。でも……正直俺の中にいる性悪悪魔と契約した時の方が痛かったんで、気にしなくても大丈夫っす!」
まるで掠り傷かの如き軽さで彼女に親指を上げるゼロ様だったが、私の足元から思ったことを直ぐに口に出してしまう困ったさんの純粋な声が上がった。
「———ゼロ兄、すっぽんぽんだーーっ!!」
「———こらヘルっ! それは言わないお約束!!」
ヘル様の指摘に、ゼロ様がその場にしゃがみこみつつか細い声で零した。
「…………ふ、服をください……」
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し、締まらねぇ……。
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