【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第86話 連れて行かれた本当の理由
「———もう帰っても良いんですか?」
「良いわけなかろう?」
無事服を貰って着替え俺が、手合わせを終えて神室とかいう寝室と間違えそうな部屋に戻ってきたと共に意気揚々と確認を取れば、白髪を靡かせた教皇様に『お前は馬鹿か?』と言わんばかりの半眼でにべもなくばっさりと切られた。
これには直ぐに帰れると思っていた俺の渾身の間抜け顔が晒される。
「えっ、何でですか? 俺ってもう罪人じゃないんでしょう? なら別に帰っても良くないです?」
てか俺が居る方がおたくら嫌なんじゃないの?
幾ら教皇様の言葉で無罪になったっつっても……俺の中にはまだ性悪悪魔が居るわけだし。
何て思っていると、例の性悪悪魔が不満タラタラと言った様子で声を上げる。
『おいおいオレが性悪悪魔たァ聞き捨てならねェなァ』
『何が聞き捨てならないんだよ、ぴったりな名前じゃん』
『テメェ、あの女神も性悪女神とか言ってやがったよなァ?』
もちろん言ってるよ。
アイツ、俺が死んでるにも関わらず慰めの言葉どころか煽ってきやがったからな。
しかも1回なら飽き足らず……ガチで頑張っても届かなくて死んだ2度目も同じレベルで煽ってきたし。
『流石のオレも死んでまで煽ったりはしねェよ。これでも戦士の端くれだからなァ』
『なら性悪から詐欺悪魔に変えてやるよ』
『…………まぁあのクソ女神と同じじゃねェだけマシか』
とかいう謎の納得の仕方をして静かになるスラング。
相変わらずの女神嫌いは健在なようだが……目の前の教皇様に嫌悪感を見せない辺り、彼女が顕現させる神は女神ではないらしい。
なら一体どんな神を顕現させんのよ、てか何人神がいるんだよ、と作り物めいた見た目の教皇様を眺めていると。
「えっ……ゼロ兄もう帰るの? まだ来てから1日も経ってないよ?」
「ゼロ兄かえるのやー! ヘルはもっとあそびたーいー!」
代行者でありながらまだ7歳というガキンチョ共が、タタタッと駆け寄ってくると同時に俺の足にひしっと抱き着いて、うるうると潤んだ瞳で俺を見上げてくるではないか。
ただでさえ子供に別れを惜しまれるだけで罪悪感があるというのに、バルとヘルがなまじ物凄く顔が整っていることもあって……可愛さやら庇護欲やら罪悪感が俺の身体中を駆け巡る。
「くっ……そんな目で見つめられても俺は帰るからな! あっちでは早く帰らないと何されるか分からないんだよ!」
「「やーやーやー!!」」
「おいバルまで幼児退行……いや年相応なのか? あれ?」
「だからお主は帰れんといっているではないか」
「何で!!」
「「やったー!」」
自分が大罪人じゃなくなったことで遠慮も少し減り、悔しさを全開にして地団駄を踏む俺と、ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶバルとヘル。可愛いがそれどころじゃない。
一体俺が帰れない理由が何処にあるのか。
もう大罪人じゃなくなった俺はお役目御免なはずだ。
「フフフ……的外れなことを考えていそうな顔をしているな、不滅者よ?」
「俺、やっぱり顔に出てるの? 俺の表情筋イカれてない?」
俺が自分の顔の様子が不安になってペタペタと触っていると、スッと真横に現れたアウレリアさんが手鏡と思われるモノを持って差し出してきた。
「これは……?」
「手鏡です。ゼロ様が御自身の御顔を気にされていらっしゃいましたので、差し出がましいかもと思いましたが……御用意致しました」
「あ、はい、ありがとうございます」
『一体どうやって?』と思わないこともないが、折角用意してもらったので是非とも使わせてもらおう。
そう思って鏡を覗き込み……微笑ましげに見つめていたアウレリアさんにスッと手鏡を優しく握らせれば、不思議そうに首を傾げた。
「ゼロ様……これは……?」
「あー……うん、自分の顔見て萎えたんです」
「? ゼロ様の御顔は悪くない顔立ちだと思われますが……」
「そうなんですよ、俺の顔は悪くないんですよ。ただ———周りが異常に顔が整い過ぎてるだけで」
感覚で言えば、今の俺の顔は前世の日本なら100点満点中80〜85点の顔をしているのだ。
普通に前世の自分より断然イケメンで非常に嬉しく喜ばしいことであり、今世の父さんと母さんには感謝しかない。
ところがどっこい。
この世界の男性の顔面レベルの平均が、前世の日本で言う100点満点中70〜80点くらいであり、貴族の子息とかになったら90〜100点以上が当たり前とまで来た。
そのせいで、俺の前世ならイケメンの顔も、この世界ではパッとしない平凡な顔立ちレベルにまで落ち込んでいるのである。
……おい性悪女神、どうして俺の顔をもっとイケメンにしてくれなかったんだよ。
物凄く頑張ってんだからせめて貴族の子息レベルにはイケメンにしてくれても良かったんじゃないですかね??
「———ってな感じで自分の顔面に萎えたんです。現実は見たくなかったですね」
「なるほど……ゼロ様が御自身の顔に不満を抱かれていることは理解しました。ですがそれは私共ではどうすることも出来ません」
「テメェらは何の話をしてんだよ……猊下の話を聞け、馬鹿者共が」
俺とアウレリアさんが脱線した話で盛り上がっていると、呆れた様子でため息を吐いたベアトリックス様が俺とアウレリアさんの頭を軽く小突く。
ただ軽くと言ってもあくまでバケモノサイドの話であり、全く強化も何もしていない俺達からすれば普通に痛いわけで……俺は頭を押さえて涙目でキッと睨んだ。
「なにするんですか、姉御っ! めちゃくちゃ痛いじゃないですかっ!」
「身体を半分以上吹き飛ばされてたテメェが痛いなんか言っても嘘っぽいぞ」
「痛いものは痛いんです。どれだけ強くても小指を角でぶつけたら痛いでしょう?」
「「確かに」」
「お主等良い加減にしないか……? 不滅者の口車に乗せられてどうする?」
俺とは別の意味で頭が痛いとばかりに額に手を当てた教皇様がアウレリアさんと姉御に責めるような視線を向けた後、俺を見つめて……小さくため息を吐いた。
「おい、今何でため息を吐いたか教えてもらおうじゃないか! ……です!」
「お主、大罪人の肩書きが無くなった途端態度が豹変したな……まぁよい。お主に手合わせをやらせたのにも、しっかり理由がある」
真剣な面持ちで言う教皇様の姿に、場の空気が少し引き締まる。
俺も皆んなに合わせて姿勢を正し、彼女の言葉を待ち———
「まず最初に言っておくと———大罪人など単なる名目よ。お主をこの国に連れて来る、な?」
…………は?
早速俺の頭では理解出来ない情報の猛威に頭がショートする。
待って、大罪人が名目?
なら俺が痛みを我慢して一撃を受けた意味は?
「当然、私に意味はあるが、お主に意味はないな」
「コイツぶん殴ってやろうかおいこら」
「や、やめろゼロ! テメェ不敬罪で本当に処刑されるぞ!?」
「不敬罪とか知るか! こっちがどれだけ痛かったと思ってんの!? 普通に意識一瞬飛んでたからな!? それが無駄とか言われたらぶん殴りもするだろ!」
俺が教皇様……もとい教皇のクソ野郎をぶん殴ろうとするも、すかさず姉御に羽交い締めにされてしまう。
しかし威勢だけは失っていないと伝えるように教皇にフシューっと威嚇をする。
「もうお腹いっぱいだぞ、これ以上は聞きたくない。さっさと言えよ、もちろん簡潔にな?」
「だからお前は……」
「フフフフフフ、別によい。まだ子供だからな」
巫女服特有の長い袖で口元を隠して笑う教皇が突然立ち上がったかと思えば、ゆったりとした足取りで俺の前までやって来ると。
「———お主が欲しい」
逆に簡潔過ぎる言葉で告げてくるのだった。
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