【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第91話 喧騒の外れで
「———こ、コイツらマジか……」
現在進行形で俺はドン引きしていた。
多分目とかシンでるし、あまりに引き過ぎてさっきから『コイツらマジか』しか言葉が言えないbotになってる。
現在時刻は午前2時ちょい過ぎ。
既に魔物やオオカミや鳥もねんねして、普段なら静まり返っているはずの時間帯。
そう、普段ならば。
「———フワーッハッハッハッ!! 飲んでるかゼロぉ! まさか僕の酒が飲めないなんて言わないだろうなっ!? この僕に酒を注いでもらえるなんて……レディー達なら飛んで喜ぶぞ!!」
「にーさま、客人に対して酒を強要するのはいけないぞ! それは私だけにしなさい! さぁお酒、じゃんじゃん持ってきて!!」
もうこのクライス兄妹の話を聞くだけでお腹いっぱいだが……これと同等のテンションの奴が7人いるとかどうなってんだ。
この状況を見て分かると思うが……皆んな酔ってる。
それは度数80%でも全く酔えない俺と、酒がそもそも飲めないヘルとバルを除いた8人全員で、普段見た目と言動に寄らず真面目な姉御も2人の保護者的なアウレリアさんも泥酔状態だ。
ただヘルとバルはこんな五月蝿い中でも爆睡をかましており、この図太さこそまだ子供でありながら代行者になれる所以だろう。
———何て無駄な考察は置いておいて……良い加減この場の何とかしなければならい気がする。
てか、何で客人の俺がコイツらの後始末しないといけないわけ?
こういう時こそ序列1位とか姉御の出番でしょうが。
そう思って序列1位であるぼさぼさ髪に無精髭のおじさん———名前は忘れた以前に聞いてない———と姉御に目を向けてみるも。
「あーうめぇ〜……やっぱ神酒が1番うめぇなぁ……」
「あ? なに1人で飲んでんだテメェ! アタシにもくれるんだよな?」
「あったりまえでしょうが。ほらよ〜」
「おい零すんじゃねぇよ! もったいねぇだろうが!」
立派に使えない大人が出来上がってました。
どっちも顔を真っ赤にしてバカバカ度数の高そうな酒を浴びるように飲んでいる2人からそっと目を逸らしつつ、隣で酒を飲みながらも全く顔が赤くないアウレリアさんに救いを求める。
「アウレリアさーん? この事態をどうにかしてくださいません?」
「まかしぇてくらしゃい。きょのわたひが———」
「話しながら寝たんだけどこの人」
呂律もちっとも回ってないじゃん。
酔ってるなら酔ってるって分かるように顔赤くしててよ。
あと結構強く机に頭打ってたけど大丈夫そ?
腕の隙間から気持ち良さそうな顔が見えるアウレリアさんの様子に心配半分呆れ半分の視線を向けたまま……小さくため息を吐き。
「———よし、戻って寝よ」
酔っ払い共を横目に、部屋の隅のソファーで爆睡するバルとヘルのガキンチョ2人組を抱えて部屋を後にするのだった。
「……さて、順調ですね」
「……はぁ……恥ずかし……」
「———これで良しっと……」
俺は自室に戻るとキングベッドより大きな規格外ベッドにヘルとバルを寝かせて、さも一仕事終えたかの如く額を拭って小さく息を吐き、辺りを見回す。
そこには今日の朝と変わらない景色が広がって……数秒後、自嘲気味にため息を吐いた。
「……いやぁ1人でボケても意味ねーわな」
『ケケケッ、人間ってのはおもしれェなァ。テメェみたいな精神力バケモノでも寂しいとか感じんだなァ?』
「……うっせ」
スラングに自らの感情を当てられたことへの羞恥から子供じみた捨て台詞が口を衝いて出る。
そのことで更に楽しそうに嗤うスラングをぶん殴ろうか迷いつつ、ヘルとバルから目を逸らして窓の外へと目を向けた。
外は綺麗な満月が浮かんでいた。
そう言えば……セラが来てから月を観るのが増えたなぁ……皆んな月観るのは好きみたいだし、お月見とか開催したら喜びそう。
もち米があるのか知らんけど。
「……ヤバい、あの部屋いた方が良かったかも。何かめっちゃ寂しくなってきたんですけど。エレスディアの罵倒を受けたい」
『ケケケッ、テメェもドMの仲間入りだなァ』
「このことは内緒な。じゃないとエレスディアの唯一の弄りどころが弄れんくなっちまう」
『オレは別にどっちでも良いけどよォ』
「お願いします」
何てスラングと軽口を叩き合うという末期症状が出てき始めた所で……俺は宴会会場から出た本当の理由であり、ずっと気になっていたことを俺より鋭くて洞察力も高いスラングに尋ねてみる。
「……最初にあの会場に居たのって……13人だよな?」
『……そうだな、間違ってねェ』
「んで、最後は何人だった?」
『11だなァ。しかも扉から出て行ったヤツはゼロ、テメェだけだぜェ?』
そう、宴会会場の扉から出て行ったのは俺が最初で最後。
また宴会会場から出るには、全面が壁で埋め尽くされているので俺が出た扉以外に方法はない。
ならどうやって2人が消えたのか。
酔ってない俺でさえ気付いてないのは何故か。
それを知るのは、消えた張本人達と———。
『———ケケケッ、バッチリだぜェ』
———俺達とは見ているモノの基準が違う、神と対なす高次元の存在であるスラングのみ。
「いやぁ……何かされた時のためにお前に身体預けてて良かったぜ」
『ケケケッ、久々の人間の料理も中々だったぜェ?』
「そりゃ良かったな」
ここで答え合わせをしよう。
俺が宴会会場に入った瞬間から、俺の身体はスラングが操作していた。
ただ仕草や話す内容は、俺がいつもスラングが話しているような感じで伝えてスラングに模倣してもらっていたが。
もちろんこの作戦を考えたのは俺……と言いたい所ではあるが、残念ながら俺ではなくスラングが考えた作戦だ。
内容は『何かされた際の僅かな機敏にも気付けるように、馬鹿な俺ではなく狂ってはいるけど、頭が良いスラングに身体の主導権を与えれば良いんじゃね?』という感じである。
どうやら俺とスラングは相当相性が良いらしく、こんな短期間で出来たことは奇跡に等しいらしい。
『ケケケッ、まさか成功するとは思わなかったけどなァ……普通人間が身体の主導権を悪魔に与えて自我を保てるなんざありえねェんだが……』
「え、奇跡ってそっちなの? 全然普通に出来たけど。あ、でも確かに身体がないのに寒い感じがしたな」
死ぬ間際の喪失感に似てたヤツな。
まぁ正直死ぬ時の方が『あ、終わった……』って感じがして怖かったけど。
『……バケモノめ』
「お前に言われたくねーわ。それで、お前の目にはどう映ってたん?」
そんな俺の問いに、スラングは嗤った。
『———最初から、11人だったぜェ?』
これだけ言われれば流石の俺でも分かる。
つまり———教皇とノーマンさんは何かしらの魔法によって生み出された偽物だったってわけだ。
俺が何故偽物なんか……と眉間に皺を寄せつつ頭をかいていると、スラングが俺の身体を動かしてパチパチと拍手をしながら嗤う。
「ケケケッ、正解だ」
「おい勝手に身体の主導権奪うな。他には?」
『…………テメェ、実は神か何かか?』
隙を突かれて主導権を奪われたので、速攻主導権を奪い返して尋ねれば……何故か少し引いたかのような声色で言ってくるスラング。
もちろん言っている意味が分からないので肩を竦めてみると。
『……本当におもしれェ奴だな』
何て可笑しさ半分呆れ半分でスラングが告げ……続けて口を開いた。
『———今分かんのは常に見張られてたのと、本物の教皇とノーマンの位置くらいだなァ。おい、もちろん……行くよな?』
バッカ野郎。
なに今更なこと聞いてんだよ。
「———行くに決まってんじゃん」
『ケケケッ、だと思ったぜェ』
嬉しそうに嗤うスラングだが、どうせ俺が行かないという選択を絶対にしないことくらい知っていたはずだ。
相変わらず性格が悪いなコイツ……などと想いつつ、剣を2つ腰に差すと。
「だって気になって夜も寝れねーもん」
『人間クセェなテメェはよォ……まぁオレは嫌いじゃないぜェ?』
「あっそ。さっさと道案内頼むわ」
『楽しみだなァ』
「はいはい狂ってんな」
久し振りに狂気の悪魔とか呼ばれている所以を目の当たりにして呆れながらもゆっくり扉を開き……。
「……何で此処にお前の剣があるんだろうな———」
小さく零した。
「———エレスディア」
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