【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第92話 真実
「………………ホントにこっちであってんの? 別に怒らないし、迷ったんなら素直に迷ったって言えよ?」
部屋を出てからスラングの案内で進むこと数分。
俺はどう見ても行き止まりにしか見えない袋小路でキョロキョロと辺りに視線を巡らせながら、此処に案内したスラングをイマジナリーで肩ポンポンして諭す。
別に神でも悪魔でも間違えることはあるのだ。
俺の人生なんか正解の方が少ないみたいなもんだし、仮にプライドが邪魔するって言うなら言わせてもらうが……今更俺達の間柄で気にするだけ無駄だと思う。
『……オレが間違ってる前提で話を進めんなよなァ』
「え、間違ってんじゃないの?」
『……テメェが聡いのか聡くねェのか分からん。こんな袋小路、何もないわけねェだろうがよォ。おい、そこ引っ張ってみろ』
スラングが呆れた様子でそう言って俺の腕だけを動かし……周りを壁に囲まれた袋小路の隅に置いてある灯りを指差す。
よくホテルとかのベッドの横に置いてある紐を引っ張って付けるタイプのオシャンティーな照明だ。
俺は半信半疑で近付き、証明の紐を引っ張る。
カチッと音がして、光が消えた。
「……何も起こらないけど」
『もっと強く』
「フンッ!」
紐が千切れるんじゃないかと心配になるくらいの力で引っ張り、ガコンッと先程より大きな音がなったかと思えば———突き当たりの壁が扉1つ分くらいで後ろにズレて通路が現れる。
まるで漫画やアニメにあるような仕掛けに俺は少々興奮するも……風に乗ってやって来た臭いにスッと心が冷めるのが分かった。
「……血の臭い、か……くせーな」
『ケケケッ、オレは好きだぜェ? 悪魔は皆んななァ』
「趣味悪いな。一生レバーでも食ってろ」
『人間のレバーなら大好物だ』
「前言撤回、お前は何も食うな」
とことん嗜好が合わない趣味が終わってる悪魔のことはさて置き、俺は上級強化魔法で五感と第六感を鋭くさせ……ゆっくりと中に足を踏み入れた。
「———……よくこんなの隠してたな」
俺は生理的嫌悪から顔を思いっ切り顰めて吐き捨てた。
『ケケケッ、魔法で隠されてたからなァ……相当バレたくねェみたいだ』
「そりゃそうでしょ。こんなんバレたら悪魔よりよっぽど悪魔っぽいって国民から大バッシングの嵐だろ」
道はそこまで長くなく、直ぐに開けた部屋に辿り着いたのだ。
ただし、辿り着いた先には大小幾つかの部屋があり……そのどれもにあるのは見渡す限りの真っ黒に固まった血、血、血。
椅子が幾つか置かれ、肘掛けと前足部分には手足を拘束するであろう拘束具が取り付けられているが……そこにも尋常ではないくらいの血が染み付いている。
その椅子の近くには台があり、様々な拷問器具と思われるモノが無造作に置かれていた。
「……趣味悪いってレベルじゃねーよこれ。拷問部屋かよ」
部屋の灯りは松明のような炎だけなので薄暗いが……それでもハッキリ血が部屋中にこびりついているのが分かるくらいなので、もっと明るくしたらより凄惨な現場が見れるだろう。
まぁ全然見たくもないけど。
てかさっき食べたモノが戻ってきそうなんだけど……密室なせいで血の臭いが戦場とかより濃いんだよな。
めっちゃ胃がムカムカするし気持ち悪い……換気扇と胃薬欲しい。
何て俺が胃からせり上がってくるモノを必死に胃に戻そうと尽力している中、スラングが何処か含みのある声色で言った。
『わざわざあんな隠し通路を使う拷問部屋なんざ面倒臭ェな』
「それな。国なら拷問くらい当たり前だろうし別に隠さなくても良いもんな。やっぱりただの拷問部屋ってわけじゃないってことか。もう帰りたいわぁ……」
そう言いつつ、俺は部屋に何か手掛かりがないか隈なく探してみると……合計7つあった部屋の中で1番大きな部屋にだけ何やら魔法が掛かった扉があった。
ドアノブに触れてみても特に何もないのを鑑みるに……侵入者を撃退する魔法ではなさそうだ。
「ならぶっ壊せばいいか」
『ケケケッ、部屋ごと土の中に埋めんなよ?』
「お前俺を何だと思ってんだ———よッ!」
俺は失礼なことを宣うスラングに不満を告げつつ、身体強化魔法を使用して力を籠めて押せば。
———バキンッッ!!
魔法も蝶番もぶっ壊れて扉が外れた。
どうやら結界系の魔法だった様だが……意外と呆気なかった。
「いやぁ俺も人外に近付いてるなぁ」
『もう既に人外に両足突っ込んでる奴が何か言ってるぜェ、ケケケッ』
「や、ホントの人外はカーラさんのことを言うんだよ」
何て気分の悪さを緩和させるために軽口を叩いていると。
「———……何だよ、これ……?」
俺は思わず軽口を止め、呆然と零す。
6畳ほどの小さな部屋の中には———研究資料と思われる書類の数々が壁中に貼られていた。
しかし、俺が呆気に取られたのは何も書類がたくさん貼ってあるからではない。
そのたくさん貼られた書類の全てが———。
「———『不死適合検体:エレスディア』……?」
今俺の腰に差してある直剣の持ち主にして、俺の中でぶっちぎりの大天才———エレスディアについてのモノだったからだ。
もちろん、この書類のエレスディアが俺の知るエレスディアではない可能性も捨てきれないのだろう。
だが……そんな考えを否定するように貼られた書類の中に幾つもの写真があった。
———見るのも憚れる程に無惨な状態の、真紅の髪の幼女の写真が。
写真に映った瞳に生気はなく、絶望も希望も何も抱いていない———もはや布切れ1枚すら着ていない生身の幼女。
腕が無かったり。
足が無かったり。
心臓部分がぽっかり空いていたり。
全身が黒焦げで炭化して———
『おい、もう見るんじゃねェ。それ以上は必要———』
「———ちょっと……黙ってろ」
『…………』
俺は写真と共に書かれた文字に目を通す。
———2日目。エレスディアの腕を切断してみた。泣き叫ぶ声が五月蝿いので喉を掻き切った所、突然腕の切断面と喉から炎が現れて組織が再生された。腕の際は再生する兆候が見られなかったことから、力の発動条件があると思われる———
———5日目。四肢を切断ったり、頸動脈を切ったり、腹部を引き裂いたりしてみた結果、どうやら致命傷を負わない限り不死鳥の力は発動しないらしい。恐らく力の制御が出来ていないからだと思われる———
———34日目。私自身は反対したが、教皇猊下の命でエレスディアの身体を灰になるまで魔法で燃やした。終わったと思ったが、何と灰から炎が巻き上がり、燃やす前の綺麗な状態まで再生された。ただ、記憶の一部に欠如があった。理由は不明———
———493日目。エレスディアが不死鳥の力を借りるのではなく御伽噺の不死鳥の転生体であることが判明。死の概念がない不死鳥が人間に転生した理由は不明だが、不死鳥の魂によって構築されているせいで出力が想定限界領域を越えた。常に周りを炎が囲っているため金属が溶け実験ができなかったが、魔法は効くようだ。これからは魔法1本で実験を行う———
———627日目。後は身体の成長を待つだけという所で、エレスディアが何者かによって脱走した。しかし、最近の力の活性化により常時猊下の力で不死鳥の力は殆ど封印されているため、今では記憶の失われたただの一般人に過ぎないが、猊下の次期器を脱走させるという失敗を犯した私は猊下の魂の一部になるだろう。神はやはり悪人には罰を与えるらしい。因果応報とはまさにこのこと———
「…………」
俺は無言でグシャッと書類を握り締めた。
そして。
「———見てんだろ、クソ野郎」
『フフフッ、バレていたか』
魔法によって声が伝達されているらしく、デタラメな方向から声が聞こえる。
心底可笑しそうな声色の声が。
「……ここに書いてあるのは、俺の知っているエレスディアか?」
必死に感情を押し殺して尋ねた俺に、教皇が告げる。
『それが知りたければ———私の下に来い、不滅者よ』
きっとこれは罠なのだろう。
というか十中八九罠だ。
だが、馬鹿とは———罠を避けずに正面からぶっ壊すから馬鹿なんだ。
「———分かった、乗ってやる」
乗った上で、完膚無きまでに叩き潰してやる。
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