【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第94話 見えない目的
「———ベアトリックス様、どういうつもりですか?」
「どうもこうもねぇよ、ウチのモンに手ぇ出されて黙ってられるわけあるか」
先程までの薄ら笑みは鳴りを潜め、僅かに警戒心の籠もった視線を姉御に向けるノーマンに対して、姉御は眉を吊り上げてノーマンからその後ろで姉御の登場に固まっている神官騎士へ目を移すと。
「———テメェら何してやがる? アタシの許可なくどうしてゼロを攻撃した?」
何処かのチート騎士を彷彿とさせる鬼上司の一面を見せる姉御。
彼女の周りの紅蓮のオーラは感情に呼応して爆発的に燃え滾り……怒りを向けられていない俺ですら熱々な見た目に反して冷や汗が流れるので、きっと上司に怒りを向けられた騎士達は溜まったものじゃないだろう。
その証拠に、俺の時とは比べ物にならないほど慌てふためいている。
「ベアトリックス様……こ、これは……!!」
「べ、ベアトリックス様! これは猊下の命でして……!!」
「あ? それならアタシに一言伝えろって毎回言ってんだろうが。テメェらそんなことも分かんねぇヒヨッコかぁ!?」
「「「「「ち、違います!!」」」」」
……この世界、騎士の元締めは怖い奴らばっかなのか?
『ケケケッ、恐怖が上回って扇動の魔法が切れやがったぞ』
『……マジかよ』
何て若干引き気味になりながらも俺は完全に場を支配している姉御の横に立ち、目を向けることなく尋ねる。
「姉御、今ってどういった状況なんですか?」
「テメェは再び大罪人認定された。あと、アタシらも反逆者になった。どうやら……あの女はアタシらの裏切りに気付いてた見てぇだ」
「反逆者? 裏切り?」
苦々しく顔を歪める姉御から放たれる幾つもの新事実に俺はポカンと口を半開きにして呆けてしまう。
待って……姉御があのクソ野郎を裏切ってたってことか?
全然初耳なんだが。
でもそれなら———。
「———ゼロ、アタシらのことはいい。テメェはアタシの妹を……テメェが相棒っつってくれたエレスディアを助けてやってくれ」
「………………えっ?」
珍しく冴えていた俺の思考は、姉御の言葉によって全て吹き飛んだ。
思わずノーマンから視線を外して姉御をガン見してしまうほどに。
しかし、同時に何処か納得している自分もいた。
真紅の髪と瞳は全く同じ色だし、そっくりと言うわけでないが所々顔のパーツが似ているし……笑う時の勝ち気な表情なんかは確かに瓜二つだった。
あと物凄く話しやすいし弄りやすいのも似ている。
「ははっ、姉御……もっと早く言ってくださいよ。でも……お陰でアンタ達が俺をこの国に呼んだ理由が何となく分かりました」
「……すまねぇ。アタシらが不甲斐ないばかりにテメェを巻き込んじまった」
「別に良いです。アイツのことが知れたので。今度3人で遊びましょう」
「……お前、負けるとか思わねぇのか……?」
俺が少し笑みを零して肩を竦めれば、姉御が複雑な表情で俺を見つめてきた。
恐らくあのクソ野郎を近くで見てきて、なおかつ俺と戦ったことのある姉御は分かっているのだ。
———今の俺じゃ、逆立ちしても勝てないと。
だからこそ姉御は俺に申し訳無さそうにする。
自分の妹のためとは言え、死地に向かってほしいと頼んでいるのだから。
でも、姉御は知らない。
俺が今までどんな戦いをしてきたか。
「姉御、心配しなくても大丈夫ですよ」
「……どうしてだ?」
俺は心の奥底に怒りを仕舞い込み、気丈に笑みを浮かべた。
「———俺、強者を引きずり下ろすの得意なんで」
おどけてそう言えば、姉御は一瞬目を見開いたかと思えば———おかしそうに笑みを浮かべた。
「流石英雄だな……ここはアタシがやる。あの女は頼んだぞ———ゼロ」
「了解っす」
俺は姉御が開けた穴へと駆け出した。
「———フフフッ、来ると思っていたよ、不滅者」
「……随分と余裕そうじゃねぇか、クソ野郎」
教皇の魔力を追ってやって来たのは、1週間前に姉御と戦った武舞台がある場所。
前は昼でなおかつ多くの騎士達が居たので賑やかな印象があったが……今は一変して酷く寂寥感の憶える静かな印象を受ける。
そんな武舞台の真ん中で———豪華な巫女服といった風貌の白髪白眼の美女と、1週間振りの真紅の髪と瞳を持った美少女が何らかの光の柱に包まれて浮かんでいた。
「……エレスディア」
「フフフッ、感動の再会だな。もちろん触れられはしないがな」
俺の呼び掛けに一切返事を返さないエレスディアを横目に、余裕げに夜空を見上げて瞳に喜色を浮かべる教皇。
その言葉や仕草1つ1つが俺の中で燃え上がる感情に薪をくべていく。
『……周りに何人いる?』
『そうだなァ……ざっと100人ってとこだ』
『……全員神薬飲んでんのかな?』
『ケケケッ、飲んでるだろうなァ。どうすんだ?』
俺の答えを分かっていながら俺自身の口で言わせたいらしいスラングに、俺は端的に告げる。
『姉御には悪いが———殺す』
『ケケケッ、良い殺気だぜェ』
あらかた状況整理を終えた俺は、小さく息を吐いて教皇へ端的に尋ねる。
「テメェは何が望みだ? わざわざ俺をここに呼び寄せた理由は何だ?」
「何、少しお主にはやって欲しいことがあるのだ。もちろんお主に拒否権はない」
「……テメェ……」
俺の神経を逆撫でする奴の行動にギリッと奥歯が砕けそうなほどに歯噛みする。
ただここで下手なことをしてエレスディアの身に何かあってはいけないと必死に自分を律しようと拳を血が出るのも気にせず握り……キッと鋭い眼光を教皇に向けた。
しかし教皇はそんな俺の視線を一切気にした様子なく告げる。
「フフフッ、さぁ始めよう」
そう言うと、教皇がパチンと指を鳴らした。
同時———夜だと言うのに辺りが眩く光り輝いたかと思えば。
———ズドオオオオオオオンッッ!!
天より数え切れないほどの蒼白の雷が、雷鳴と共に地面を揺らす轟音が耳を劈き、俺ではなく周りに隠れていたと思っていた騎士達に降り注ぐ。
「な、何して———」
俺が困惑に教皇へ視線を戻そうとするのと時を同じくして、雷が落ちた所から一斉に勢い良く炎が燃え上がると。
「「「「「「———ガァアアアアアアアアアアア!!」」」」」」」
理性を微塵も感じない獣のような雄叫びが響き渡り……もはや隠れる気もないと言った感じで武舞台に下りてくるのは、全身を炎に包まれた1度蘇った騎士達。
しかし先ほど見た隊長の男とは違い、もはやハルバードを握らないどころか四足歩行で本物の獣の様に立っていた。
「な、何だコイツら……神薬か?」
「フフフッ、まずはこの神薬の実験に付き合って貰おう」
「……このクズ野郎が……」
愉悦に浸る教皇の姿に俺はギリッと歯噛みしたのち———襲い掛かってくる獣と化した者達へ剣を振るった。
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明日は多分投稿出来ないと思います。
リアルで大事な用事があるので。
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