[Villain X Marriage] From A Lazy Villainous Nobleman Like Me, The Villainess Daughter Whose Engagement Was Broken Off Has Become My Wife, And Together We Became The Most Formidable Couple – Chapter 115

《レティシア・バロウ視点》

「レティシア嬢……！」

――私の顔を見て、驚きの声を上げるイヴァン。

彼のみならず、他の皆も驚いた顔をする。

たぶん、私がショックのあまり部屋に閉じ籠って泣いていると思っていたのでしょうね。

確かにショックだったのは間違いないけれど……少しだけ部屋に籠ったのは、ただ頭の中を整理する時間が必要だっただけ。

それと――準備のためにね。

「皆、自棄になってはダメよ。気持ちは嬉しいけれど、今は堪えて」

「なっ……！　レティシア嬢、キミもわかっているだろう!?　エルザ第三王女は確実にオードラン男爵を処刑する気で――！」

「わかってるわ。でも、そう簡単に事は進まないはず」

私はスゥッと小さく呼吸し、息を整え――。

「むしろ……彼を断頭台へ送るための裁判は、遅れに遅れるでしょうね」

「な……に……？」

「落ち着いて……私の話を聞いて頂戴」

改めて私はＦクラス全員の顔を一瞥し、ゆっくりと話し始める。

「……アルバンを陥れたのは、ヴァルランド王家第三王女、エルザ・ヴァルランド。これは皆気付いているのよね？」

「……ああ。僕が先程説明したばかりだ」

「そのエルザ第三王女が強硬策に出たということだけれど――ハッキリ言って、これは悪手よ」

「悪手、だと……？」

「〝ヴァルランド王家は今、次代国王を誰にするかで揉めに揉めている〟……。そんな噂を聞いたことはない？」

「あ、ハイハーイ！♦　ウチそれ知ってるよ♣」

ラキがヒラヒラと手を上げる。

彼女は言葉を続け、

「国王の実子である第一王子ルイス、第二王子アルベール、第三王女エルザ……。本来であれば長男のルイスが王位を継ぐのがデフォだけど、病弱で権力に関心がないってハ・ナ・シ♣」

「……それなら、私もよく知ってる……」

ラキの発言に対し、今度はカーラが言葉を繋げた。

国王の懐刀たるレクソン家出身の彼女なら、王家の内情もより詳しいのでしょうね。

「……ルイス第一王子は、身体が弱くて大人しい方……。性格も内向的だし、頂点権力者である国王には向いていない……。だからアルベール第二王子やエルザ第三王女が王位を継ぐ可能性は、十分にあるけど……」

「故に、その二人の仲はとても険悪――そうよね？」

私が確認するように尋ねると、カーラはこくりと頷いた。

「あの二人の兄妹仲は最悪……。特にエルザ第三王女は、アルベール第二王子の名前を聞くのも嫌だって……」

「それじゃあ、アルベール第二王子の方は？」

「もしかしたら……肉親とも思っていないんじゃないかな……」

「……それは、とても哀しいわね」

「だけど……今は好都合、でしょ……？」

「――ええ。〝敵の敵は味方〟ですから」

私はそう言って、カーラの肩に乗るダークネスアサシン丸へと視線を向ける。

「カーラ、ダークネスアサシン丸に少しお使いを頼みたいのだけれど、いいかしら？」

「勿論……。いいよね、ダークネスアサシン丸……」

「カァー！」

「ありがとう。それじゃあ、この手紙を届けてほしいの」

私は準備してきた手紙を取り出し、ダークネスアサシン丸へと咥えさせる。

賢いこの子ならば、きっと問題なく届けてくれるだろう。

「届け先は……アルベール・ヴァルランド第二王子でお願い」

▲　▲　▲

――牢屋にぶち込まれてから、早三日。

そろそろこの寝心地の悪いベッドにも慣れてきたよ。

あと手枷をはめられたまま寝るのにも。

「やっぱ、こうしてダラダラできるっていいなぁ～。でもダラダラしっぱなしじゃ、レティシア怒るかな～。っていうかレティシアと会いたいなぁ～」

グダグダ……ダラダラ……。

捕まっている間に特にやることもない俺は、ダラダラとした怠惰な時間を絶賛満喫中。

だって牢屋に入れられるとか、実質なにもするなって言われてるようなモンだし？

だったら全力でなにもしなくてもいいよね？

あゝ素晴らしきかな怠惰な生活。

これがオードラン領の自室だったら、尚素晴らしかったのに。

そんな俺のチル全開な有様を、間近で見守る看守二名。

彼らはヒソヒソと小声で会話し、

「おい……あの男の神経、一体どうなってんだ……？」

「なんであんなにリラックスできるんですかね……？　おかしいですよ……」

「ここに入れられるってことは、あとは処刑を待つだけだってのに……。死ぬのが怖くないのか……？」

「本当に……。俺だったら今頃、恐怖とストレスで髪が真っ白になってます……」

などと言いつつ、若干声を震わせる。

おーい、聞こえてるぞお前ら。

俺の神経がどうとか、失礼な奴らだな。

別に普通だが？

だってレティシアがここから出してくれるってわかってるし。

怖がる必要なんてなにもないよなぁ？

それに死ぬのが怖くないのかって？

そんなの決まってんだろうが。

全然怖くない。

一ミリも怖くない。

俺にとっては自分の死なんかよりも、レティシアの身に危機が迫る方がよっぽど怖い。

あ、でも一応、俺が死ぬとレティシアが不幸になっちゃうし？

そういう意味では死にたくないかも。

あ、ヤバい、色々考えてたら猛烈にレティシアに会いたくなってきた。

やっぱりこの鉄格子ぶっ壊して、彼女の下へ帰っちゃおうかなぁ……。

……いや、ダメだダメだ。

俺はレティシアの言葉を信じるんだから。

それにもし俺が下手な真似をしたら、あの高慢ちきな王女がレティシアになにをするかわからん。

――にしても、

「エルザ第三王女……アイツ一体、何者なんだ……？」

あの女が口にした言葉――〝設定〟。

アイツは……俺やレティシアが、本来この世界の悪役であったことを知っている……？

一体、何故……？

それに加え『痩せてもブサイクなままだった』という発言からも、俺が元々太ってて醜悪な見た目をしていたことも知っていた。

当然だが、俺はこれまでエルザ第三王女になど会ったことはない。

噂で俺のことを知っていた可能性もあるが、あの口ぶりは明らかに以前の俺の容姿を知っていた感じだった。

それになにより、『あの女が破滅しないと、私はこの世界で永遠に幸せになれない』という発言……。

アイツは何者なんだ？

なにを知ってるんだ？

まさかアイツも――この世界がファンタジー小説の中の世界だと知って――？

グルグルと様々な考えが脳内を巡るが、

「あ～……やめだやめだ。どうせ考えたってわかんないし」

段々と面倒くさくなって、俺は考えるのをやめた。

だってどうせわかんないし。

っていうか、ぶっちゃけどうでもいいし。

それに結論は変わらない。

アイツが何者にせよ、レティシアの敵は俺の敵だ。

レティシアを破滅させようとするなら、全身全霊で迎え撃つまで。

あの女にとって、この世界の中心がなんなのかなんて知らないが――俺にとって、この世界の中心は妻なんだよ。

「ま、レティシアがここから出してくれた後は覚悟しておけ――ってな」

などと呟きつつ、ゴロンと寝返りを打つ俺。

愛しいレティシアが助け出してくれるまで、怠惰に英気を養おうと思って。

だが――。

――コツ、コツ

遠くから足音が聞こえてくる。

こちらに向かって歩いて来る、複数の足音。

……おそらく数は四。

さらに足音に対して甲冑が動くカチャカチャという音が混ざっており、四人の内三人は兵士か騎士だろう。

そう思っていると、俺がいる牢屋へ繋がる通路のドアが、向こう側からバンッと勢いよく開けられた。

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本格的に『悪役主人公』『悪役令嬢』を題材にした作品を書くのはこれが初めてで、本当にめちゃめちゃ悩んで書き進めております。

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