《カーラ・レクソン視点》
「「ウフフフフフ……」」
――もう二度と立ち上がることはないはずのディアベラが、ユラリと立ち上がる。
アンヘラもまるで悲しむ様子はなく、ディアベラと共に不気味な笑い声を奏で合う。
「ディアベラ、おかえりなさい」
「ただいまアンヘラ。また天使に追い返されちゃった」
ディアベラは額に突き刺さった苦無を片手で掴み、ズルリと引き抜く。
「――!? バカな……!」
目の前の光景を見た私は、驚きを禁じ得なかった。
――刺創を見る限り、どう見ても致命傷。
脳天に苦無が突き刺さって平然としていられる人間など、いるはずがない。
にもかかわらず、ディアベラは平然としているどころか痛がる素振りすら見せない。
苦無が刺さる前となんら変わらない生命活動を行っているのだ。
これは……一体どういうこと……!?
アンヘラとディアベラは再び私の方を見て、
「「アンヘラは肩を狙って、ディアベラは頭を狙って……酷いじゃない、どうせ狙うのなら〝首〟を狙ってくださらない?」」
「…………何故、まだ生きている……? 確かに脳天を貫いたはずなのに……」
「「何故、ですって? ウフフ、だって私たちは死なないもの」」
そう言うや否や、アンヘラも肩に刺さった苦無を引き抜く。
直後――アンヘラの肩の傷とディアベラの額の傷が、瞬時に塞がった。
「――!再生魔法……!? ……いいえ違う、それだけじゃない……あなたたちは――」
「私たちの命は、魂はね、一つでも二つでもないの。いっぱいなのよ」
「そう、いっぱい。だって、これまでいっぱい処刑して、いっぱい命を奪ってきているから」
らん、らん――♪ と交互に鼻歌を歌いながら、彼女たちは話を続ける。
「私たちは命を増やせるの。処刑して奪った命を、私たちの命に取り込むことができる」
「いっぱい処刑した分だけ、私たちはいっぱい生きられる――。私たちだけが扱える特別な蘇生魔法〝ネバー・ダイ〟」
「「ウフフ、驚いてもらえたかしら?」」
…………。
……ああ、これは驚いた。
魔力を介して、他者の魂を自身の魂の残数として取り込む――そんな魔法は聞いたことがない。
少なくともこれまで、シュロッテンバッハ家の処刑人がそんな悪趣味な魔法を扱えたなんて事実はない。
暗殺者という職業柄、彼らのことは少なからず知っているのだけれど。
それにラキちゃんからの情報にもなかった。
……おそらくだが、本当にアンヘラとディアベラだけが扱える特殊な魔法なのだろう。
いや、生まれつき備わった生得魔法とでも呼ぶべきか。
兵士や暗殺者などと違って、処刑人は命の取り合いになる事態は少ない。
故に、これまで公になることもなかったのだろう。
当然、シュロッテンバッハ家が隠していた可能性もある。
あまりにも倫理観に問題のある魔法だしね……。
暗殺者の私が言えた義理じゃないけど……。
「「暗殺者カーラ・レクソン。殺すしか能のないあなたが、殺せない私たちに勝てるとお思い?」」
「……」
「「それとも諦めて、大人しく首を斬らせてくださるかしら? 私たちはそれでも結構――」」
「……あなたたち……なにか忘れてなぁい?」
「「――え?」」
「確かに……私もあなたたちも、殺すしか能がない……。でもこの場には……殺す以外に能のある子がいるのよね……」
私はそう言って、クルリと首を動かし――。
「……シャノアちゃん」
「ひゃ、ひゃい……!?」
「……お茶会の、準備をしましょうか」
マスクの下で、ニヤッと微笑した。
▲ ▲ ▲
《レティシア・バロウ視点》
――試験開始と共にエステルと二人一組を組んだ私は、岩陰に隠れながら洞窟の様子を伺っていた。
プランAの予定では、カーラ&シャノアが迂回、ローエン&ラキが陽動、そして私とエステルが側面攻撃という手筈となっている。
少数での戦いにおいて、奇襲は基本にして最も効果的な戦術の一つ。
プランAは〝①正面からの陽動〟〝②側面からの奇襲攻撃〟〝③迅速な撤退〟――これを何度か繰り返すというもの。
陽動・奇襲毎に役割を交代するなどして、確実に相手の戦力を削っていく。
敵の数と味方の数が同じ、尚且つ戦力差に大きな開きがないと仮定するならば、先に一人でも数を減らした方が圧倒的に不利。
こちらが先手を取れれば、向こうは焦らざるを得なくなるでしょう。
でも――陽動・奇襲はあくまでブラフ。
本命は敵陣の背後に回り込んだカーラとシャノアの迂回組。
Aクラスの意識が完全に私たちへ向いた頃合いを狙って、〝王〟を背後から仕留める。
アルバンがいない今、おそらくこれが最もスマートな勝ち方だと思う。
――しかし、
「……ローエンたちからの合図がないわね」
――予定では、もうローエンとラキが正面攻撃に見せかけた陽動を仕掛けている頃。
相手が餌に釣られたのなら、合図を出してくれるはずなのだけれど……。
エステルも苛立った様子で拳をポキポキと鳴らし、
「だぁ~、もう! まだるっこしいですわね! やっぱり私たちもお殴り込みに参りませんこと!?」
「落ち着いて、エステル。待機するのも私たちの役目の一つよ」
「ガッデム……! 待つのは性に合わないんですけれど……!」
フフ、相変わらず血の気が多いわね、あなたは。
そういうところはアルバンと似てるかも。
でもとにかく、私たちは迂闊に動いてはダメ。
エステルの身体能力や瞬発的な破壊力は目を見張るモノがあるから、できるだけ最高の状況で一撃を叩き込んでほしい。
上手くいけば、本当に初撃で相手の数を減らせる可能性が高いもの。
だからここは、じっと堪えて――。
私は内心でそんなことを思っていたのだが、
「……あの二人なら、もう来ない」
――そんな声が、私の思考を遮った。
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