《レティシア・バロウ視点》
『レディィィィイイイイイス・アァァァァァァァァァンド・ジェントルメエエエエエェェェン!!! それではこれより、Fクラス対Aクラスの期末試験・決勝戦を開催いたしまあああああぁぁぁす!!!』
――私たちがいる洞窟の中に、パウラ先生の声が響き渡る。
とてもハキハキとした、彼女の楽しそうな声が。
『決勝戦のルールは、これまでの期末試験と同様にチェス式です! 先に相手クラスの〝王〟を倒して行動不能にした方の勝利! シンプルに潰し合いましょう!』
チェス式――。
前回、Bクラスと戦った時も同じルールだった。
単純に、相手側の〝王〟を倒すだけ。
実に単純明快なルール。
ただ一応は先攻・後攻に近い概念はあり、後攻側のクラスの〝王〟は試合開始後一定時間は自陣を離れてはならず、逆に先攻側の〝王〟は試合開始と同時に自陣を離れなければならない。
そして今回、私たちFクラスは先攻側だ。
『ただFクラスの〝王〟であるアルバン・オードランくんは諸事情により欠席扱いなので、代わりにレティシア・オードランさんに〝王〟の代役を務めて頂きます! なのでAクラスの皆さんは、レティシアさんを狙ってくださいね!』
「……んなぁーにが〝レティシアさんを狙ってください〟ですの!」
パウラ先生の洞窟放送を聞いたエステルは、プンプンと頬を膨らませる。
「夫が独房の中にぶち込まれてる可哀想な奥方なのですから、もうちっとくらい言い方ってモンがあるでしょうに!」
「エステル、私なら気にしていないわ。むしろこれは、パウラ先生なりのエールだと思う」
――私が期末試験・決勝戦の開催を申請することに対して、パウラ先生は一瞬驚いた顔をしたがすぐに賛成してくれた。
彼女は、私たちの先生は、ああ見えてとても勘の鋭い人だ。
いや、鋭すぎると言っていい。
だから私の考えもすぐに見抜いてくれたのだろう。
それでいて愉悦を隠そうともしないのだから……常々、怖い人だと思うけれど。
パウラ先生を見ていると、まるで狩猟を遊びと認識している猛獣のようだと感じる時があるのよね。
表面上は惚けているけれど、エルザ第三王女の動きを察知している節もあるし……。
先生が敵でなくて本当によかったわ。
なんてことを思いつつ、私はスゥッと息を整え――。
「――それじゃあ皆、改めて作戦を説明するわね」
シャノア、エステル、ラキ、カーラ、ローエン……Fクラスの皆を見据えて、そう切り出した。
「まず第一に、私たちの目標はAクラスに勝利すること――そしてエルザ第三王女の乱入・妨害工作を前提とした上で、決勝戦を無事戦い抜くことよ」
「で、でも、本当に妨害なんて可能なんでしょうか……? 王立学園は、さ、細心の注意を払って試験を行っているはずなのに……」
不安気なシャノア。
そんな彼女に対し、
「その点は大丈夫。ファウスト学園長に頼んで、意図的に監視を緩めて〝隙〟を作って貰ってあるから」
「!? い、意図的に、ですか……!?」
「監督官や警備の人員を減らして、部外者が介入しやすくしてあるの。もっとも人員を少数にした代わりに、パウラ先生のような優秀な教員たちで構成しているようだけれどね」
今、試験会場であるこの洞窟の警備は穴だらけ。
正直〝ザル〟だと言ってしまっていい。
これならばエルザ第三王女も動きやすくなるだろう。
……その動きが、こっそりと〝隙〟を監視しているパウラ先生たちに筒抜けになっているとも知らずに。
なんらかの証拠さえ掴んでしまえば、あとはそれをアルベール第二王子に報告してチェックメイト。
それにFクラスがAクラスに勝利すれば、エルザ第三王女の企みを根本的に阻止できるかもしれない。
彼女にとっての〝タイムリミット〟である決勝戦。
今回に限って私を狙うのではなくアルバンの身柄を拘束したことからも、その勝敗が絡んでいる可能性は濃厚だ。
だから、私たちは私たちの戦いに集中すればいい。
「でもさぁ~、どっちにしろキツイ戦いになりそうだよねぇ♣」
ラキはクロスボウに弓矢を装填しながら、そんなことを言う。
「Aクラスって手練れが多いから♦ 最初に〝王〟を決める時だって、そりゃもう熾烈な争いがあったらしいよ?♠」
「ええ……その時の退学者数も、全クラスでトップだったと聞くわね」
「今のAクラスは全部で六人――♦ 〝処刑姉妹〟アンヘラとディアベラ、〝狐狩り〟ガスコーニュ、〝拳闘士〟フィグ、〝魔剣士〟スヴェン、そして……〝王〟ロイド。まさに強者揃いだにぇ♪」
彼女は改めてAクラスのメンバーを紹介してくれる。
他の試験の時と同様、ラキにはAクラスのことを予め調べておいてもらった。
結果――わかったのは、現在Aクラスに残っている生徒は皆、一筋縄ではいかない相手だということ。
処刑人家系出身の双子〝処刑姉妹〟アンヘラとディアベラ。
狩人出身の〝狐狩り〟ガスコーニュ。
ボクシングで成り上がった元奴隷〝拳闘士〟フィグ。
高名な騎士家系出身の〝魔剣士〟スヴェン。
そして……それらを統べる〝王〟ロイド。
……アルバンのいない今、これまでの戦いの中で最も厳しいモノになるのは想像に難くない。
エルザ第三王女の邪魔が入ることも考慮すれば、生死に拘わる戦いになるやもしれない。
けれど、
「……大丈夫よ。私たちは負けないわ」
私は、皆を信じている。
Fクラスの皆を。
皆これまで、アルバンに少しでも追い付こうと、少しでも強くなろうと、そう思って努力を続けてきた。
その努力を見てきたからこそ、確信を持って言えるのだ。
絶対に、負けたりなんてしないと――。
私たちは、勝つのだと。
ローエンはフッと不敵な笑みを浮かべ、
「……相手は六人、こちらも六人。数の上では互角だな」
「そうね。……もしもレオニールが現れたら、任せたわよローエン」
「ああ、任された」
グッと戦斧を構えるローエン。
最後に私は全員を見据え、
「今回、主戦力となるのはローエン、カーラ、エステルの三人。だから打ち合わせた通り、二人一組で行動するわよ。ローエンにはラキが、カーラにはシャノアが、エステルには私がサポートとして付く。いいわね?」
「「「応!」」」
「エルザ第三王女がどんな妨害をしてくるかわからない。でも可能性が高いモノに関しては事前に話した通りだから、常に意識して頂戴」
そう言い切って、私は大きく深呼吸する。
……待っててね、アルバン。
この戦いを終えたら、ちゃんとあなたを迎えに行くから。
『それでは両クラス、準備が整ったようなので――期末試験・決勝戦、開始ですッ!!!』
パウラ先生の宣言と共に――私たちFクラスは、一斉に駆け出した。