《レティシア・バロウ視点》
――パウラ先生と共に、私は王城へと向かう。
本当はFクラスの皆も一緒に来てくれれば心強かったのだけれど、Aクラスの生徒たちと戦って満身創痍のはずだから。
統率をローエンに任せ、事が終わるまで洞窟内で待機してもらっている。
彼らとは……全部を終わらせた後で再会すると、そう約束した。
そして私とパウラ先生は、燃え盛る城下町の中を二人で駆け抜けていく。
――炎、瓦礫、悲鳴、血、死体。
かつて生と活気に満ちていた王都が、それらで埋め尽くされている。
見覚えのある場所が、馴染みのある場所が、なにもかも血と炎の赤で塗り替えられている。
あそこは、アルバンと一緒にジェラートを食べたお店があった場所だ。
あっちは、アルバンと一緒に歩いた青空市場があった場所だ。
こっちは、アルバンと一緒に座って夕陽が沈んでいくのを眺めていた長椅子があった場所だ。
そんな――私の思い出が、全て燃えている。
どこへ視線を逸らそうとも死と破壊が眼へ飛び込んできて、嫌でも現実を直視させられる。
同時に鼻を突く、言葉にできない強烈な悪臭。
建物に使われていた木材と、人間の肉が一緒くたになって焼かれる臭い――。
かつて愛しい人と歩いた場所は、今や死臭が充満する地獄と化していた。
「……ッ」
思わず口を手で押さえ、喉奥から込み上げる吐き気をグッと飲み込む。
――耐え難かった。
どうしてこんなことになってしまったのか。
私は怒りや憎しみを通り越し、哀しさすら感じ始めていた。
「――レティシアさん、気分が悪そうですね!」
パウラ先生は、私に向かって言う。
いつも通り、顔色を一切変えないまま。
「……パウラ先生は、平気なのですか?」
「私? 私は自分の居場所に帰ってきたような気しかしませんね!」
「……つまり?」
「今最高に、〝生きてる〟って感じがします!」
すっごくハキハキとした様子で答えてくれるパウラ先生。
……なんでしょう、聞いた私が間違いだったかもしれないわね。
彼女が頼りになる先生なのは間違いないけれど、どこかおかしいというのは前からわかっていたことだもの……。
なんて自分で自分を戒めながら、足早に大通りの中を駆けていく私。
しかし、
「――レティシア・バロウだ!!!」
突如、私の名を呼ぶ声が城下町の中に響き渡る。
「間違いねぇ! ありゃ多額の賞金が首にかかってるレティシア・バロウだぜ!」
遠くで声を発したのは、剣を片手に持つ粗暴そうな男。
たぶんエルザ第三王女が雇った傭兵でしょう。
まさに町の中で破壊と略奪を行っている最中だったらしく、剣がベッタリと血で染まっている。
彼の周りには、他にも十人ほど仲間の傭兵らしき者たちの姿も。
「なに!? おいおい本当かよ!」
「レティシア・バロウの首を持ち帰れば、一生遊んで暮らせる報奨金が出るとよ!」
「しかも別嬪じゃねぇか! 殺す前に少し楽しんじまおうぜ!!!」
こちらを見つけるなり、束になって向かってくる傭兵たち。
私はもう――言葉にするのも憚られるほどの怒りと嫌悪感で、胸がいっぱいだった。
「あなたたち……!」
迎撃のために、私は魔法を発動しようとする。
けれど――
「どうどう、レティシアさん」
パウラ先生が宥めるように言って、一歩私の前に出る。
「あなたは王城に付くまで、体力を温存しなくちゃ。それにまだ若いんですから、こんなコトでピリピリしてると――」
「なぁに言ってんだ女ァッ! 邪魔すんならテメェの方から犯して――!」
傭兵の一人が、剣を振り被ってパウラ先生へ襲い掛かろうとする。
だが――
「や――――ら――――ぁ?」
傭兵の全身に薄っすらと切れ込みが入り、次の瞬間――猛烈な血飛沫と共に、彼の身体は数十個の肉片へと分解された。
直前まで人間だったモノが、ベシャベシャッと地面に落下して、真っ赤な肉だまりへと変貌していく。
「……ッ!?」
そんな光景を突然目の当たりにし、私は思わず身を反らしてしまう。
肉だまりと化した傭兵の仲間たちも驚愕の顔をし、
「なッ、なんだぁ!? 今なにが……ッ!?」
「ダメですよ~? 女性に対しては、もっと紳士的に接しないと」
ツィッ……とパウラ先生が、揺らすように右手を動かす。
その時、私はようやく見えた。
彼女の五本の指先から伸びる、髪の毛よりもずっと細い〝糸〟。
それに――パウラ先生の強大な魔力が流れているのを。
「私、先生ですから。特別に教育して差し上げましょう! 授業料は――〝命〟で」