牢屋から解き放たれ、監獄を後にした俺。
幸いにも監獄の中で襲い掛かってくる阿呆はいなかったので、何事もなく城下町へと出ることができた。
おそらく、ホラントが監獄の治安維持ついでに看守たちに口を利いてくれたんだろうな。
牢屋から出るなり斬りかかってくるような面倒くせぇ奴がいなくて助かったよ。
そんなワケで、俺は城下町の中を進んでいるのだが――。
「うわあああああああああああッ!!!」
「きゃあああああああああああッ!!!」
――耳をつんざく悲鳴。
逃げ惑う人々。
建物は燃え崩れ、通りには死体が転がっている。
……混沌だった。
俺とレティシアが休日にデートした、平和で活気ある城下町の姿は、もうどこにもない。
俺の目に映っているのは地獄か――でなければタチの悪い冗談だ。
……クソッタレがよ。
俺とレティシアがデートする場所を、よくも焦土に変えてくれやがったな。
そんなに地獄が見たけりゃ――このアルバン・オードランが、本当の地獄を見せてやる。
そんなことを思いながら大通りの中を歩き、王都中央にそびえ立つ王城へと向かっていると、ボンッと目の前の建物が爆発。
同時に、建物に空いた穴から二人の男が出てくる。
「ギャハハハ! こりゃ最高だぁ! 金目の物が大量だぜ!」
「まさか王都の中で、好きなだけ暴れていいなんてよぉ。王女様も太っ腹だよなぁ!」
一人は大剣を持った大男。
もう一人は杖を持った魔法使いらしき男。
どちらも如何にもガラの悪い荒くれ者といった風貌で、おそらくは傭兵だろう。
エルザ第三王女に金で適当に雇われて、城下町で暴れるだけ暴れて、ついでに金品も略奪しとこうってトコか。
ホントさぁ、こういう品のない連中を王都に入れるなよなぁ。
「ん……? おいそこのお前、なんか高そうな剣持ってるじゃねぇか」
大剣を持った大男が、こちらの存在に気付く。
大男はヅカヅカと近付いてくると、なんともキモい笑みを浮かべなら、鞘に納められた俺の剣を見つめてくる。
「俺たちゃエルザ・ヴァルランド第三王女旗下の王国軍だ。逆賊として処刑されたくなきゃ、その剣寄越しな」
「退け」
「――あ?」
「退け。雑魚に用はない」
俺は目も合わせずに言葉を返す。
もう目を合わせることすら面倒くせぇから。
俺の返答を聞いた大男は、明らかにキレた表情で額からブチッという音を響かせ、
「テ、テメェ……上等じゃねぇか……そんなに死にたきゃ、すぐにぶっ殺して――ッ!」
思い切り大剣を振り被ってくる。
だが――その大剣が振り下ろされるよりもずっと速く、俺は鞘から剣を抜いた。
「や――――らぁ――――?」
大男の身体から、鮮血が飛沫する。
放たれた刃は大男を断ち切り、右腰から左肩に向かって肉体を一刀両断。
汚い血飛沫を派手にぶちまけ、大男だったモノはベシャッと地面に崩れた。
――ま、リハビリがてらの一撃としてはこんなもんか。
久しぶりに振るったから、やっぱりちょっと鈍ってる感覚はあるが。
……あ、っていうかうっかり殺しちゃったよ。
後でレティシア怒るかな?
まあいいや。
どうせ町で略奪を働いてた阿呆なんだし。
事故ってコトにしとこう。
大男が斬り殺された光景を見た仲間の魔法使いは、驚いた様子で両目を見開く。
「なっ……!? お、お前、よくも――!」
反撃のために杖を構え、魔力を練ろうとする魔法使い。
だが、
「退けって言ったろうが」
「ぎゃあ――ッ!!!」
そんな面倒なコトをさせるワケもなく、俺はさっさと魔法使いを斬り捨てた。
そしてヒュンッと剣を振るって血を払う。
「さーて、とっとと王城に…………ん?」
「――おい、こっちだ!」
「仲間が殺されたぞ!逆賊だ!」
「殺せ殺せ! 市民だろうが騎士だろうが、歯向かう奴は皆殺しにしていいってお達しだからよぉ!」
どうやら俺が阿呆二人を斬り捨てたところを見ていたらしい。
同じくエルザ第三王女に雇われたであろう阿呆共が、さらに大挙してやって来る。
しかもホラントが言っていたように、ヴァルランド王国軍の兵士とか騎士も混ざってるし。
おいおい……面倒くせぇなぁ。
……にしても、逆賊ねぇ。
アレか? 勝てば官軍ってか?
――面白い。
本当にお前らが官軍になれるかどうか……この悪役が直々に試してやるよ。
俺は――向かってくる奴らを片っ端から斬り倒していく。
斬り捨て、斬り払い、斬り潰す。
なんか丁度いい塩梅に敵が密集していたら魔法を撃ち込み、まとめて吹っ飛ばす。
斬って、進み、吹っ飛ばして、進み、薙ぎ払って、進む。
真っ直ぐ、真っ直ぐ――王城へ向かって。
俺の進路を阻害しようとする奴らを、徹底的に蹂躙し、駆逐していく。
俺が進んだ跡に残るのは、死体と瓦礫の山だけ。
人間なんてもうどれだけ踏み潰したかわからない。
蟻を踏み潰した数なんて、一々数えていられない。
ただ真っ直ぐ邁進し、ただ真っ直ぐ驀進する。
己を、真っ黒な殺意の塊と化して。
途中、腰を抜かした奴がガチガチと歯を鳴らしながら俺を見つめ、
「バ……バババ、化物だぁ……ッ!」
顔を絶望に染め、そんなことを言った。
――振り返らず、顧みず、全てを押し流す濁流のように、真っ直ぐ王城を見つめたまま城下町の中を突き進んでいく。
そうして全身が返り血と煤でベトベトになった頃――俺の両足は、ようやく城門の前に立つ。
「……」
城門を守る兵士の姿が見えない。
それに城内からも火の手が上がっているのが見え、中で混乱が起きているのがわかる。
「……丁度いいや」
説得して開城させるなんて、面倒くせぇからさ。
俺は剣を振り被り――巨大な木製の城門を叩き斬る。
破城槌を打ち込むより早く、呆気なく崩れ去る城門。
そして俺は――硝煙の匂い漂う王城の中へと踏み込んだ。