「…………レオニール」
俺はゆっくりと眼球を動かし、視線の先をレオニールへと変える。
「お前もどういうつもりだ? 何故、今更になってエルザに下った?」
「……」
「答えろよ――〝主人公〟」
問い詰めるように尋ねると――しばしの沈黙の後、レオニールは口を開いた。
「……彼女は、オレの知らないオレの話をしてくれた。それと、オレしか知らないはずのオレの話も知っていた。この世界がファンタジー小説の世界だとか、オレがその主人公だとか、最初はとても信じられなかったけど……今は信じられる」
ポツリポツリと、レオニールは小さな声で語る。
どこかやるせないような表情をして。
「けど、正直そんなのはどうでもいいんだ。この世界のこととか、自分が主人公だとか、そんなことには興味ない。オレにとって大事なことは、何一つ変わっていない」
そう言って――レオニールは、剣の柄を両手で掴む。
「オードラン男爵……あなたは言ったよね。オレには〝負けられない理由〟がない。オレとあなたの間にある、紙一重の差はそれだって」
「……言ったな、確かに」
「オレは――あなたに勝ちたい。あなたを超えたい。だから、〝負けられない理由〟を手に入れたんだ」
「それが、エルザ・ヴァルランドだってのか?」
「ああ。オレを愛してくれる、守るべき大切な女性さ」
奴は両手で握った剣をゆっくりと動かし、身体の正面で構え――その切っ先を、俺へと向けた。
「さあ……剣を構えるんだ、アルバン・オードラン男爵。守るべきモノを得たオレの剣がどう変わったか――とくと味わってくれ!」
「……バカ野郎がよ」
……そんな奴を愛してまで、お前は俺に勝ちたいっていうのか。
わかんねぇよ、レオニール。
俺にはその気持ちが。
愛する女性のために剣を振るうんじゃなくて、剣のために愛する女性を作るなんざ……。
違う。俺が言いたかったのは、そういうことじゃない。
お前のその感覚は、俺には理解できない。
だが――。
「……いいだろう、試してやる」
――脱力。
両腕をだらんと下げた、無形の構え。
俺は右手に握る剣の、その切っ先に神経を集中する。
……もはや、口先でなにを言おうが無駄だろう。
なら試してやろうじゃないか。
お前の〝愛〟が本物かどうか。
本当に俺との〝紙一重の差〟が埋まったのかどうか。
俺とお前、言葉で語り合うより――剣で語り合った方が、ハッキリと伝わるもんなぁ。
「来いよ、レオニール・ハイラント。これが主人公と悪役の――俺とお前の、最後の手合わせだ」
「ああ……この瞬間を、待ち侘びた」
レオニールはエルザを離れさせ、俺と向かい合う。
その瞬間――俺たちは、二人きりの世界へと入った。
周囲の音がなにも聞こえない。
人間の悲鳴や怒声、城の中で火の手が上がる音、そういったあらゆる雑音が意識上から遮断される。
極限まで研ぎ澄まされた集中が、目の前の好敵手以外の情報を全て排斥する。
静寂――。
そして――――。
「「――――ッ!!!」」
示し合わせたかの如く、俺たちは一気にお互いへ斬りかかった。
剣と剣が激しく噛み合う。
まるで龍虎が互いの肉体に喰い付いたかの如く。
それよって衝撃波が発生し、王座の間全体が揺さぶられる。
エルザも「きゃあ!」と悲鳴を上げ、吹き飛ばされないように身を屈めた。
「ク……ククク……!」
あぁ……なんだか懐かしさすら感じるよ。
この感触、この緊張感。
紛れもなくお前の剣だ。
でも、な――、
「どうしたぁ!? 守るべきモノを得て、強くなったんじゃなかったのかぁッ!?」
俺はレオニールの剣を弾き、連続の斬撃を叩き込む。
全力で、全身全霊で、本気で食い殺すつもりで、何度も何度も斬撃を叩き込んでいく。
いつかの早朝、学園の校庭で手合わせをした、あの時と同じように。
いや――あの時よりも、もっと激しく。
さながら刃の洪水で押し流すかのように、殺意を込めた斬撃をとめどなく放ち続ける。
そうだ、これまでとは違う。
今までとは違う。
今日が最期だ。
お前か俺か、そのどちらかが死ぬ日だ。
本当の決闘。
本物の殺し合い。
好敵手と認めた相手の命を、一切の情け容赦なく奪う瞬間。
一切の誇張も嘘偽りもなく、俺は本気でレオニールを殺そうと猛然と斬りかかっていく。
だが当然と称賛すべきか、レオニールはその斬撃をことごとく捌き切ってくる。
俺の剣を完全に目で捉えている辺り、流石としか言いようがないな。
しかし反撃の隙なんざ与えてやらん。
俺はレオニールと鍔迫り合いに持ち込み、
「力を見せてみろよ、レオニール! でなきゃ、このまま押し斬っちまうぞ……ッ!」
ギリギリと剣を押し込み、レオニールを圧倒していく俺。
なんだよ、こんなモンかよ――。
お前が手に入れた〝負けられない理由〟なんて、やっぱり――。
一瞬、俺の中で安堵と落胆がない交ぜになった感情が芽生えかける。
しかし――その刹那、
「では……ご覧に入れよう」
剣を握るレオニールの手に、強大な力が宿る。
次の瞬間――鍔迫り合いをしていた俺は、剣ごと身体を弾き飛ばされた。
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