エルザ・ヴァルランド第三王女の反乱は、ヴァルランド王国に甚大な被害を出して幕を閉じた。
国王ディートフリートと王妃メルセデスは死亡。
城下町も火の手が回ったことにより、少なくない数の建物が消失。
市民にも相当数の犠牲者が出た。
――だが、幸いなことに反乱は割と短時間で鎮圧され、王都としての機能を失うまでには至らなかった。
聞いた話によると、クラオン閣下率いる忠義に厚い〝職業騎士〟たちの活躍――。
そしてバロウ公爵家が率先して市民の避難誘導を行い、反乱鎮圧後には他貴族家と結託して迅速な復興活動を開始したためらしい。
……まあなんとも、出来過ぎた話だな。
まるで始めから準備してたかのような対応の早さだよ。
きっとクラオン閣下もウィレーム公爵も、アルベール第二王子と裏で繋がっていたんだろうさ。
逆賊エルザ・ヴァルランドの手によって王都がほどよく被害を被ったところで、颯爽とアルベール第二王子旗下の軍隊が駆け付けて反乱を鎮圧。
さらに一部の貴族たちが協力し合い、傷付いた市民のためにと、我先にと救援・復興を行っていく……。
これ以上ないほどの美談であり、完璧な筋書き。
そりゃ市民だってアルベール第二王子たちを称賛するようになるわな。
実際、城下町じゃ既にアルベール第二王子は〝アルベール国王〟なんて呼ばれてるくらいだし。
彼が次代国王の座に付けば、国民から盛大に歓迎されるのは疑いようもないだろう。
噂によると、アルベール第二王子が国王となり、その兄であるルイス第一王子が宰相となるらしいとかなんとか……。
しかし考えれば考えるほど、俺やレティシアは体よく利用されたって感じだよなぁ。
ほーんと食えないお方だよ、あの美人男は。
とはいえ、レオニールやエルザの死体が未だに発見されてないのは気掛かりではあるけど……。
そんなことを思いつつ、俺は個別棟のベランダから遠くに見える城下町を眺めていた。
すると――。
「――アルバン、ただいま」
ガチャリと部屋のドアが空き、愛する妻が帰ってきた。
「ああ――おかえり、レティシア」
「ちょっと、ちゃんとベッドで寝てなきゃダメじゃない。傷口が開いたりしたらどうするの」
紙の小袋を抱えたレティシアは心配そうに俺の方へ駆け寄ってきて、具合を調べてくれるかのように胸部へ触れる。
レオニールとの戦いで傷を負った俺は胴体と顔の半分に包帯を巻き、医師から絶対安静を言い渡されている。
普通なら、まだベッドから動ける状態じゃないのかもしれないが、
「平気だよ。レティシアが毎日看病してくれてるお陰で、もう傷の痛みも感じないし」
「……回復魔法だけじゃ足りなくて、何針も縫うほどの大怪我だったはずなのだけど」
「俺はレティシアが看病してくれるなら、どんな怪我も二日で完治できる自信があるが?」
「……常々思うけれど、アルバンって本当に人間?」
「さあ? 人間だろうと人外だろうと、別にどっちでもいいさ。俺がレティシアの夫って事実は変わらないんだから」
「ハァ……全く、あなたって人は……」
レティシアは苦笑し、「それはそうと」と話題を切り替える。
「Fクラスの皆だけど、イヴァンとマティアスは数日中に病床から出られるそうよ。エステルはもうしばらくかかるけど、来週には退院できるんじゃないかって」
「……エステルの奴、戦いで頭が割れたって聞いたが?」
「ええ、でもベッドに押さえつけて安静にさせておくだけでも一苦労……って聞かされたから、元気みたい」
「……アイツも大概だな」
――イヴァンとマティアスが、レオニールによって重症を負わされたこと。
そしてFクラスメンバーが期末試験で文字通りの死線を潜ったことは、後からレティシアに聞かされた。
皆――俺や妻のために、全力で頑張ってくれたらしい。
普段の俺だったら、レティシアのこと以外どうでもいいと言ってしまうところだが……俺たち夫婦のために大怪我まで負ってくれたとあれば、流石に心配もする。
だがどうやら、全員無事に日常生活に戻れるようだ。
一安心だな。
本当に――アイツらは、なんだかんだ気のいい奴らだよ。
レティシア「それから」と言葉を続け、
「あなたに頼まれてきた物――買ってきたわ」
抱えていた小袋の中に手を入れ、細い紐が繋がれた小さな物体を取り出す。
――〝眼帯〟だ。
革製の黒い眼帯。
全体的にシンプルだが、レティシアらしくセンスのいい形状をしている。
「ん……ありがとうな、レティシア」
「さ、着けてみて」
レティシアは紐の部分を広げ、俺の頭に着けてくれる。
大きさも丁度よく、これなら右目の傷がしっかりと隠せるだろう。
今は頭に包帯を巻いているので、あくまで試着という感じだが――。
「……どうだ? 少しは似合ってるかな?」
ややおどけた感じで、妻に聞いてみる。
――結局、レオニールに斬られた右目の視力は戻らなかった。
回復魔法と手術を行っても、顔には生々しい傷跡が残ってしまい……肝心の視力も、一生元に戻る見込みはないという。
そんな眼帯姿の俺を見たレティシアは、
「ええ、勿論。前よりももっと……男前……に……っ」
軽いノリで「似合ってる」と褒めようとしたのだろう。
だが徐々に唇が震えていき、僅かに目が潤んでくる。
「……レティシア、自分がもっと早く辿り着いていれば――なんて考えるんじゃない」
俺は彼女をそっと抱き締める。
きっと、レティシアは後悔しているのだ。
自分がもっと早く俺の下に辿り着いていれば、右目の視力は奪われなかったかもしれない――と。
それだけじゃない。
自分がもっと上手くやれたら、Fクラスの皆が大怪我を追うことはなかったかもしれない。
自分がもっと上手く立ち回れたら、レオニールに離反されることもなかったかもしれない。
自分がもっと――。
……そんなことを、止めどなく考えているのだろう。
優しからな、レティシアは。
優し過ぎるんだ。
だからついつい、自分を責めてしまう。
「レティシアは精一杯やった。十分過ぎるくらいに頑張ったんだ。俺は感謝してる」
「アルバン……」
「それに言ったろ、まだ左目は見えてるって」
俺は自らの左目の目元を、トントンと指で叩く。
「キミのことは、ちゃんと見えてる。キミの声も聞こえる。キミの温かさも感じる。俺はそれで十分だ」
「バカ……もう少しくらい、傲慢になってよ……!」
「俺は十分傲慢だぞ? なんたって、こうやってレティシアを独り占めしてるんだから」
ギュッと彼女を抱き締め、優しく頬擦りする。
本当に――俺には、これが十分過ぎるくらいの〝幸せ〟だ。
「もうキミを不幸にしようとしてくる奴はいない。もう俺たちの仲を引き裂こうとする奴もいない。だから……今はこの幸せを噛み締めよう」
「……うん。ねぇアルバン、改めて言っていい?」
「ん? なにをだ?」
「――おかえり」
「――――ああ、ただいま」
※読者の皆様方へ
ここまでお付き合い頂き、誠にありがとうございます!
第一部、これにて完結となります!!!
次回からは第二部『二年生編』スタート!٩(ˊᗜˋ*)و
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