『――この演説を聞いている、ヴァルランド王国の愛すべき万民たち。今日この瞬間、アタシの言葉に耳を傾けてくれることを嬉しく思う』
魔法拡声器を介し、極めて明瞭な口調で話す美しい人物――
アルベール・ヴァルランド第二王子。
彼の演説を一声聞こうと、城下町の広場には大勢の群衆が詰めかけている。
『五百年前……正確には五百と十一年前、ヴァルランド王国という国家は誕生した。以来幾度も戦火に飲まれ、それでも我々は祖先から受け継ぐ誇りと愛国心を守って生きてきた。愛する国を守り、愛する家族を守り、愛する友人を守り――自らが愛する全てを守らんとして、誇り高く生きてきたのだ』
群衆はシンと静まり返り、誰一人として言葉を発さない。
一言たりともアルベール第二王子の言葉を聞き逃すまいと、老若男女あらゆる者が耳を傾けていた。
『けれど……エルザ・ヴァルランドの反乱は、そんな我々から多くのモノを奪っていった。家族、友人、帰るべき家、そして誇りまでをも。この演説を聞いている者の中には、未だ心の傷が癒えていない者もいるでしょう。あの時の記憶が脳裏に焼き付いて、消えない者もいるでしょう』
アルベール第二王子は語り掛ける。
そんな彼の言葉に、目尻に涙を浮かべる民の姿も。
『だが――立ち上がるのだ。流れた血を、失った者の命を、決して無駄にしてはならない。反乱の中で散っていった英霊たちが、生き延びた我々に望むものはなにか? それは取り戻すことだ』
落ち着き払っていたアルベール第二王子の言葉が、徐々に力強さを帯びていく。
まるで、聞く者を鼓舞するかのように。
『あれだけの反乱を経ても尚、我々は生きている。生きているならば、必ず誇りも安寧も取り戻せる。いいや、取り戻すだけではない。それ以上の栄華へと諸君らは進むと、このアルベール・ヴァルランドが約束しよう! 故に今一度立ち上がり――その力を、アタシに貸してはくれまいか!?』
「――――アルベール・ヴァルランド国王に、栄光あれ!!!」
群衆の中の一人が、大声と共に片腕を突き上げる。
すると、
「アルベール国王に栄光あれ!」
「アルベール国王に栄光あれ!!!」
「アルベール国王に栄光あれ! ヴァルランド王国に栄光あれ!!!」
群衆は次々と空高くへ腕を突き上げ、賛美を叫ぶ。
さっきまでの静寂が嘘のような、大地を揺らすほどの喝采。
ヴァルランド王国の民が――少なくとも王都に住まう者たちが、どれほどアルベールを支持しているのかは、一目瞭然だった。
アルベール第二王子は『ありがとう』と微笑を浮べ、
『では――このアルベール・ヴァルランドが正式に〝ヴァルランド王国国王〟となることを、ここに宣言する』
そう言った直後、群衆の歓声は最高潮を迎えた。
▲ ▲ ▲
「……やれやれ、や~っと終わったわぁん」
演説を終えたアルベール国王は、王城の一室へと戻って来る。
エルザ第三王女の一件で一部が崩落し、未だ修復中の王城であったが、少なくとも一部の王族や貴族が住まうには問題なかった。
そしてアルベール国王が入った一室の中には、一つの人影が。
「――――やあ、お疲れ様アルベール」
椅子に座ったまま、アルベール国王に対し労いの言葉をかける一人の男性。
その男性は髪が真っ白で肌も異様なまでに白く、蒼い瞳にはどこか生気がない。
さらに体つきも華奢で線の細さが感じられるが、一方で端正な顔立ちからは聡明さが感じられる。
「演説、見事だったよ。これでキミは名実ともに〝国王〟だ」
「いやぁん、ありがとうルイスお兄様ぁん♥ お兄様にそう言って貰えると、道化になった甲斐もあったってもんだわ~♥」
「これで僕たちは次のステップへ進める。……でも――」
「ええ、アイツらはアタシたちの最後の障壁になるでしょうね」
アルベール国王の声のトーンが下がり、目つきが険しくなる。
彼は警戒心を隠そうともせず、なんとも忌々しそうな口ぶりへと変わる。
「バカ妹の置き土産……。ほーんと、ロクでもないモノを残してくれたわよ」
「……なんとしても、どんな手を使ってでも、奴らを根絶しにしなくてはならない。全てはこの国の未来のために」
「大丈夫よお兄様、心配しないで」
アルベール国王はフフンと鼻を膨らませ、
「アタシたちの王国は滅びたりしないわ。なんたって――この国には、〝最凶の夫婦〟がいるんですもの♥」
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