《レティシア・バロウ視点》
「――ぷはぁ!」
やっと……やっと狭い抜け穴から出られたわ……。
息苦しかった……。
――狭苦しい抜け穴の中を進み続け、私はどうにか〝外〟へと脱出。
幸い抜け穴自体は一本道だったし、ベンが慣れた様子で先を進んでくれていたから、特に迷ったりすることもなかった。
……けれど、抜け穴は途中から急勾配の登り坂となっていて、進むだけでも一苦労だったわ……。
よくよく考えれば、地下水道から地上へ繋がる通路を進むのだから、道が登りになって当然よね……。
お陰で、抜け穴を出るまで思ったより時間がかかってしまった。
ドレスも泥だらけになっちゃったし。
「……」
――アルバン。
彼は――我が最愛の夫は――無事かしら――。
幾ら彼が強くても、子供たちを守りながら無数の半魚人を相手取るなんて不利過ぎる。
多勢に無勢の中、消耗戦になんてなったりしたら……。
それに――あまりにも未知数な〝魔導書〟の存在。
――なんとかしないと。
でも、私だけじゃ……。
私はしばし思案した後、「ふぅ」と小さく息を吐き――
「……仕方ないわね。こうなったら呼ぶしかないかしら」
できれば、巻き込みたくなかったのだけれど……。
でも彼らがいてくれたら百人力――いいえ、百万人力ですものね。
――と自分に言い聞かせる。
「貴族のお姉ちゃん、こっち! こっちだよ!」
そんなことを考えていると、一足先に抜け穴から出ていたベンが私の下へ駆け寄ってくる。
彼は私の手をグイグイと引っ張り、ちょっとだけ歩かせると――なにやら開けた場所に出た。
――〝外〟。
空はすっかり暗くなっており、少し離れた場所には灯りの付いた家々が見える。
そのさらに向こうには、王城の姿も。
どうやらここは東区の最端らしく、ほんの少しだけ地面が盛り上がって丘のようになっているらしい。
東区の中にこんな風に王都を見渡せる場所があるなんて、知らなかったわ……。
「き、貴族のお姉ちゃん、助けを呼ぼうよ! セラお姉ちゃんたちを助けなきゃ……!」
「ええ、わかってる。――ねえベン、少しお使いを頼まれてくれないかしら?」
「? お、お使い……?」
「そう、お使い。中央区の中にね――」
私はベンに〝とあるお店〟の場所を教え――同時にメッセージを伝える。
「――という風に、お店の女の子に伝えてほしいの。どう? 頼める?」
「う、うん! 任せて!」
「いい子ね。それじゃあ、お願い」
力強く頷き、タッタッタと勢いよく走り去って行くベン。
その背中を見送った私は――
「さて……私も私にできることをしましょうか」
▲ ▲ ▲
「ハァ……ハァ……!」
――レティシアからお使いを頼まれたベンは、一生懸命に走っていた。
無我夢中だった。
息を切らし、滝のように汗を流し、途中で転んで膝を擦りむいても、決して止まらずに走り続けた。
ベンは皆を――家族を助けたかった。
ヒメナ、ジェリー、アンドレ、パコ――そしてセラ。
ベンにとって、皆はかけがえのない存在だった。
血は繋がっていなかったとしても、六歳という短い人生の中で苦楽を共にしてきた家族だったのだ。
だから走った。
つらくても、痛くても。
皆を絶対に助けるんだという強い意志を、決して捨て去ろうとはしなかった。
そしてようやく――ようやく、ベンは〝とあるお店〟の前に辿り着く。
店内には明かりが灯り、店の周囲にはとてもいい香りが漂っている。
そこが飲食店――所謂〝喫茶店〟であることは、幼いベンにもすぐわかった。
ベンは迷うことなく、そのお店のドアを開ける。
すると「カランカラン」という鈴の入店音が響き――
「いらっしゃいませ! 何名様で――って、あれ? 子供……?」
カウンターの奥から、一人の少女が出迎えてくれる。
エプロンを身につけた、栗色の髪の少女。
優し気な顔立ちをしており、年齢はおそらくレティシアやアルバンと同じくらい。
ベンにはすぐわかった。
この人が、貴族のお姉ちゃんが言っていた人なのだと――。
ベンはハァハァと息を切らし、
「お……お姉ちゃんが、〝シャノア〟って人……?」
「ふぇ? そ、そうです、けど……」
「き、貴族のお姉ちゃん……レティシアお姉ちゃんから伝言! 〝大至急、Fクラスの皆を集めて〟――って!」
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