《ローエン・ステラジアン視点》
コルシカは「ではまず、一年全体のお話から!」と語り始める。
「新入生たる我らが一年ですが、組は全部で五クラス! A、B、C、D、Eの五つのクラスとなりますッ!」
ほう、俺たちの時より一クラス少ないのだな……。
もっとも俺たち二年も、今やEクラスが減って全部で五クラスなのは変わらんが。
などと内心で思いつつ、俺は彼女の言葉に耳を傾け続ける。
「私の調査によりますと、各クラスにはそれぞれ有力者がおりますね! 順番に説明していきますと――」
意気揚々と話し始めるコルシカ。
彼女の話をまとめると――各クラスの〝王〟候補者は、概ね以下のようになるらしい。
Aクラス
『ユーリ・スコティッシュ』
Bクラス
『フラン・ドール』
『ヘルベルト・アールグレーン』
Cクラス
『コルシカ・ポリフォニー』
Dクラス
『スティーブン・ブラッドレイ』
『エレーナ・ブラヴァーツカヤ』
Eクラス
『ジャック・ムルシエラゴ』
『ビクトール・ローザン』
――ふぅむ、なるほどな。
確かに、聞いたことのある貴族姓が多い。
アールグレーン侯爵家、ブラッドレイ男爵家、ローザン子爵家――。
ムルシエラゴという姓は、確か辺境伯の家名だったか。
そしてなによりも――〝スコティッシュ公爵家〟。
他の名は知らんが……少なくともこれら家柄の出身者を有力候補と言われれば、さして違和感はない。
俺は顎に手を当てながら、
「コルシカよ、お前のいるCクラスは他に〝王〟候補がいないようだが……」
「それは勿論、Cクラスのトップアイドルになるのは私ですからッ! 歌も踊りも戦いも、私に比肩し得る者はいませんッ!」
「……学問はどうだ?」
「無問題、無問題! 私、最近かけ算ができるようになりましたので! 褒めてくれてもいいんですよ!? いえ、褒めてくださいセンパイッ!」
「…………そうかそうか、偉いな」
うむ、まだコルシカに割り算は難しいか。
しかしかけ算ができるようになったのは、確かに成長しているぞ。
俺が学園に入る頃は、まだ足し算と引き算しかできなかったもんな。
そう考えると立派だ。
なんて思いながら、コルシカの頭をナデナデと撫でてやる。
そして「むふー!」と自慢気に胸を張るコルシカ。
やはりこういう素直な所は、彼女の長所であるな。
「それでコルシカ、一年の〝王〟を決める戦い――お前の最大の宿敵は、誰になると考える?」
「はい! 私のライバルとして立ち塞がるのは、やはりAクラスのユーリさんでしょう! 彼からはビシバシにアイドルオーラを感じますッ!」
ふむ――やはり、か。
イヴァンの弟ユーリ・スコティッシュの才については、俺も多少なら耳にしている。
文武両道。その気品や立ち振る舞いにおいても、決して兄に劣らず。
特に細剣の腕前に関しては、練達の騎士すらも舌を巻くほどだとか。
まさにスコティッシュ公爵家の人間に相応しい人材らしい。
もっとも――それらの評価は全て、イヴァンが跡取りの座を退いてから聞かれるようになったモノだが。
イヴァンがまだスコティッシュ公爵家跡取りだった頃、ユーリは目立つ存在ではなかったはずだ。
少なくとも俺は、イヴァンの失脚以前にユーリの評判など一度も聞いたことはない。
大方、イヴァンの失態に焦ったスコティッシュ公爵家が、慌ててユーリの武勇を喧伝するようになったのだろう。
貴族とは面子で生きる者たちだからな。
これは俺の憶測に過ぎんが……ユーリ自身、兄の三歩後ろを歩くことを心掛けていたのかもしれない。
自分はスコティッシュ公爵家を継ぐ人間ではないからと――。
自分よりスコティッシュ公爵家に相応しい人物が、目の前にいるからと――。
……ともすれば、ユーリがイヴァンに対し失意を露わにするのも納得であろう。
俺はそう思い、内心一人で頷いていたのだが――
「――ですが! 他のアイドルたちも侮れませんよ!」
「……ほう?」
彼女の口から出た一言に、俺は僅かに身を乗り出す。
「Bクラスのフランさんはなにやら奇怪な徒手空拳を使うらしいですし、Dクラスのスティーブンさんは剣術の達人だと聞きます! それにEクラスのジャックさんも、ただならぬ気配の持ち主ですね!」
「……つまり〝王〟を決める戦いは、一朝一夕には終わらんと?」
「ええ、ええ! 私はそう読んでおりますとも!」
コルシカはまたもバッと荒ぶるポーズを取り――
「これは言わば、学園のトップアイドルを決めるアイドルオーディション! ならば熱き血潮を真っ赤に燃やし、滾る情熱を正々堂々とぶつけ合ってこそ、一人一人が光り輝く……!」
瞳の中の☆に炎を宿し、どこからともなく聞こえてくるメラメラという効果音を背に大声で語る。
どうやら……コルシカもコルシカで、かなり気合いが入っているらしい。
「然らば! 燃え上がらない方が無作法というものッ! 青春というビッグウェーブの中で繰り広げられるこのオーディション、必ずや波乱に満ちるでしょうッ!!!」
天高くビッと人差し指を立て、声高に叫ぶコルシカ。
しかしすぐに腰に両手を当て、
「もっとも! 最後にトップアイドルに輝くのはこの私ですが! ワーッハッハッハ! ワァーッハッハッハ!!!」
「う、うむ、そうか……応援しているぞ」
「ではではセンパイ、私はそろそろ失礼します! 次の授業の準備をせねばなりませんので! ワァーッハッハッハ!!!」
そう言い残し、バッと敬礼するや高笑いと共にコルシカは颯爽と去っていく。
そんな彼女の背中を見届けたラキは、
「な……なんか……嵐みたいな子だったね……♦」
相変わらず呆気に取られた感じで、茫然と呟いた。
俺も「やれやれ」と苦笑し、
「どうか気を悪くせんでやってくれ。コルシカはコルシカで、誠実に他者と向き合っているつもりなのだ」
「ん~……別にローちゃんの妹分を嫌いになったりはしないけどさ……大丈夫なの?♠」
ラキは些か不安そうな表情で、俺を見る。
「今年の一年、血の気が多いのが揃ってるんっしょ?♣ あの子、あんな調子でホントに〝王〟なんて狙えるワケ……?♠」
「ああ――十分に狙える」
「え?」
俺の返答を聞いたラキは、驚いた様子で目を丸くする。
俺はフッと微笑し、
「アイツは確かに頭は弱いが、腕っぷしの強さは中々のモノだぞ? なにせ――過去にミノタウロスを単独で討伐したことがあるからな」
「――! マ、マジぃ……!?★」
ギョッとした表情をするラキ。
当然だ。
ミノタウロスと言えば猛牛の頭を持ち、二腕二足で巨大な斧を振るう大型モンスター。
極めて凶暴かつ凶悪と名高い存在であり、討伐に向かった冒険者や王国の兵が全滅させられたことは過去何度もある。
そうだな……かつてオードラン男爵とレオニールが倒したサイクロプスの強さを〝百〟とするならば、ミノタウロスはだいたい〝六十〟から〝七十〟くらいであろうか。
ともかく、生半可な腕で立ち向かえる相手ではない。
それを――コルシカは、たった一人で撃破した。
かれこれ一年前の話だ。
幼年騎士団に属する若人が、正規に〝職業騎士〟となる前にミノタウロスを討伐したという事例は、過去二回しかない。
その内の一人がコルシカであり――もう一人が、俺だ。
貴族出身でない俺とコルシカが王立学園からの推薦状を貰えたのも、この武勇があったからこそなのだろう。
「コルシカが本気を出せば……少なくとも俺と同等くらいの実力はあるだろうさ」
「あ、あの子って、そんなに……♦」
意外そうにするラキに対し「まあ頭の緩さが弱点ではあるがな」と笑いつつ俺は答える。
同時に俺はコルシカが去っていった方向を見つめ――
「今年の〝王位決定戦〟……果たしてどうなるであろうな」
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