「わ、私は~……実は~魔法省から派遣された潜入員なのです~……」
エレーナはポツリポツリと、まずは身の上から話し始める。
若干、申し訳なさそうにしながら。
「潜入員……だと?」
「はい~。本当の身分を偽り~この学園に入学したのです~。この事実を知っているのは~ファウスト学園長だけですね~」
――なんでそんな真似をした?
目的はなんだ――?
俺がそう問い質そうとしたが、それよりも早くエレーナは口を割ってくれる。
「私はオードラン男爵とレティシアさんを監視し~、脅威から守るように頼まれておりました~」
「脅威ってのは――」
「はい~。〝薔薇教団〟のことですね~」
エレーナは壁に殴り書きされた血の文字を見ながら、
「魔法省は~〝薔薇教団〟が必ずもう一度あなた方夫婦を狙ってくると踏んだのです~。そして学園の中も油断ならないと~、私を送り込んだのですね~」
「……なるほど、それでお前はレティシアに接近したのか」
「その通りです~。もっとも~これほど早く接点を作ることになるとは~想定外でしたが~」
監視対象と親密になると~こちらまで警戒の対象となってしまいますから~……と、間延びした口調ながらも真剣に語るエレーナ。
彼女は続けて、
「私はすぐに~ジャック・ムルシエラゴが怪しいと目星を付けました~。そして彼の狙いが~レティシアさんであることも~」
「……」
「ですからレティシアさんに〝タリスマン〟をお渡しして~、彼女の身に危険が迫った時~すぐに駆け付けられるようにしておいたのです~。アレは位置情報や危険を報せてくれたり~他にも他にも~レティシアさんを助けてくれるお得機能が満載~――」
「おい……なんでだ? ジャックが〝薔薇教団〟の仲間だと気付いてたんなら――なんでさっさとアイツをとっ捕まえるなりぶっ殺すなりしなかった? 返答によっては……」
「お、おおお落ち着いてください~! 疑ってはいましたが~、彼が最後まで尻尾を出さなかったのです~! だから証拠がなくて~……。それにジャックはムルシエラゴ家の令息ですから~、下手に手出しするのも~……」
しゅん、とエレーナは申し訳なさそうにする。
……そういや、レティシアも俺に注意してたっけ。
あのクソ野郎はムルシエラゴ家の人間だから、下手なことをするなって。
だから俺も動かないでいたが……それが裏目に出ちまった、か。
やっぱり喧嘩の仲裁に入った時、ちゃんと殺しておけば――チクショウ。
「……レティシアがどこにいるか、わかるか?」
「はい~。〝タリスマン〟の位置情報によると~、レティシアさんの身体は~猛スピードで王都の南区方面へと向かっていて~――」
なにかを受信するかの如く、目を瞑って教えてくれるエレーナ。
しかし、
「! 待ってください~、たった今〝タリスマン〟の動きが止まりました~。それからゆっくり動いて~……。たぶんここが〝薔薇教団〟のアジトです~!」
「場所を教えろ」
「この位置は~……私の記憶が正しければ~たぶん〝サタニア教会〟の場所でしょうか~。南区にある廃墟となった教会なのですが――」
「〝サタニア教会〟だな。わかった、恩に着る」
――場所を聞くや否や、俺はすぐに駆け出す。
南区へと向かって、全速力で。
〝サタニア教会〟なら知ってる。
去年、レティシアと王都内をデートしている時に立ち寄ったことがあるから。
外から建物を見物しただけだったが、レティシアは「朽ちていても綺麗」と褒めてたっけな。
――待ってろレティシア。
俺が――すぐに救い出してやる。
▲ ▲ ▲
「――コレは……」
壁が破壊され、濛々と煙を上げる個別棟を眺める、一人の男子生徒の姿。
ユーリ・スコティッシュ。
一年Aクラスの〝王〟であり、イヴァンの弟。
彼は校舎を揺らした〝ズンッ!〟という衝撃から学園内でなにか異常があったことを察知し、個別棟の傍までやって来ていた。
そして雨に打たれながら半ば茫然とし、なにが起きたのか把握し切れずにいたが――
『〝サタニア教会〟だな。わかった、恩に着る』
そんな声がユーリの耳に入ってきた直後、破壊された個別棟の中から一人の男がバッと飛び出してくる。
アルバン・オードランだ。
アルバンはユーリになど見向きもせず、一直線にどこかへと駆け抜けていった。
さらに遅れて、トタトタと個別棟の中から出てくるエレーナの姿も。
「オ、オードラン男爵~! 待ってください~、まだお話は終わって~――……!」
「キミは……Dクラス〝王〟のエレーナ・ブラヴァーツカヤ……?」
「ふぇ? え、えっと~、あなたはユーリ・スコティッシュさん~……?」
はたと目が合うユーリとエレーナ。
ユーリは彼女の傍へと歩み寄り、
「なにがあったのです? この様は一体……」
「え、えぇっと~……。詳細は省きますが~、ジャック・ムルシエラゴがレティシアさんを誘拐してしまいまして~……」
「――! Fクラスのジャックが……!?」
「と、とにかく一大事なのです~! 私はオードラン男爵を追いかけますから~、ユーリさんは学園に報告を――」
「……ふむ」
エレーナの言葉を無視するように、口元に指先を当てて考えるユーリ。
そしてすぐに、
「……レティシア夫人が連れ去られ、オードラン男爵が向かった先は〝サタニア教会〟――でよろしいですか?」
「え? い、いや、あの~」
「確か南区にある廃教会でしたね。場所なら私も存じています」
ユーリは軽く頷くと、エレーナの目を真っ直ぐに見つめる。
これはまたとない機会だ――そう思って。
「――丁度いい機会だ、こうしましょう。私も今から〝サタニア教会〟へと向かい、レティシア夫人を救出します。ですから、あなたも全力で彼女の救出を目指してください」
「は……はぁ~~~!?!?」
「そうしてオードラン男爵よりも先にレティシア・オードランを救い出した者を、〝王位決定戦〟の覇者とする……。これを成し得たならば、オードラン男爵も〝学園の王〟の座を明け渡さざるを得なくなるでしょう」
ユーリは腰に携えた細剣をカチャリと揺らし、歩き出す。
――この時既に、ユーリはコルシカがジャックに敗れたことを知っていた。
いや、学園の生徒ならば、そのほとんどが知っていたことだろう。
コルシカがリンチにされているのを発見した生徒が、血相を変えてローエンや教員を呼びに行ったのだから、〝コルシカ脱落〟の情報など瞬く間に校内に拡散してしまった。
つまり――残る〝王位決定戦〟の参加者は、ユーリ、ジャック、エレーナの三名のみ。
そしてジャックの気が触れて人攫いなど起こしたとなれば、事実上ユーリとエレーナの一騎討ち。
ユーリには、そう理解できた。
「これは私とあなたの決闘です。あなたも〝王〟ならば、当然断ったりなどしませんね?」
「そ、そんなこと言ってる場合じゃ――!」
「では、失礼」
ユーリはバッと足を動かし、アルバンを追う様にその場を後にする。
残されたエレーナは頭を抱え、
「……ど、どうしてこんなことにぃ~……。こんなの~、オリヴィアちゃんになんて申し開きしたら~……」
悶絶。
本当になんでこうなった~、と苦悶の表情を浮かべる。
ナウなヤングはここまで血気盛んなのですか~、と。
だが――すぐに意を決したように唇をキュッと結び、
「……仕方ありません~。こうなったからには~、このエレーナ・ブラヴァーツカヤ~少々老骨に鞭打つとしましょうか~」
年齢は詐称するモノ( ˘⊖˘)
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